その場凌ぎでギリ生きてる
遊郭の朝は遅い。というより、夜と朝が地続きであると言った方が正しいかもしれない。夜が更け、客の出入りが落ち着いたあたりからずっと書類整理と帳簿付け、同指名の客同士がバッティングしない予約日程。やることが多い……! 最近は下が育って今まで以上に仕事の分担ができているから多少は楽だけど結局最終確認するのはおれだから……キングさえ来なけりゃもっとスケジュール緩められるのに!!
遊女が客を見送ったのを確認したら一度門を閉める。そして各部屋の片づけの指示を出し、遊女に一時の休憩をさせる。
「おい、お染。顔色が悪い。とりあえず昼見世は休め」
「え、いいんですか」
「当たり前だろ。うちの大黒柱はお前たちなんだから」
こういうのがあるから自分で見回っちゃうんだよなぁ。今度もっとよく見るように言っとくか。今回のお染の客は面倒な輩だったから尚更分かりやすいし。
懐かしいなぁ、面倒くさい客ってのはいつも一定数は沸くんだよなぁ。最初はそんなことなくても通い詰めて、馴染みになると豹変したりとか。ま、初めから厄介さ前回の輩もいるけどさ。
「コハク〜! 息災で何よりだな」
「クイーンの旦那」
ほら来たよ〜。や、来るのは知ってたけどさぁああ。キングよりはマシだけどこの人は別の意味で大変なんだよなぁ。門閉めたのに何で入ってきてるんだよ、あんたらにすれば門が低くて意味を成してないんですもんね知ってる!! てか息災て。いま二徹してるんすけどぉ? 主にあんたの同僚の営業妨害のせいで! 諸々の処理が終わったらおれも仮眠に入れるが、ところがどっこいこの後もお仕事。時間外労働で人探しに付き合わされるこっちの身にもなってくれ。
「それで? 小紫は何だって? 今夜のライブの特等席を用意してるんだが返事がなくてなぁ」
天井の梁に手をかけながらクイーンの旦那は問うてきた。ふー、焦るなよはやるなよ。落ち着いて口八丁で回避しろ。
「ああ、なるほど。道理で近頃楽しそうに……申し訳ありませんが、小紫は具合が悪いようで」
「なんだって!? ならおれが診る!」
「いえいえ、そんなご勘弁を! ほんの夏バテでさぁ。少し寝れば治ります。ですが今夜の宴は厳しいでしょうね、」
いい人には弱った姿なんて見せたくねーってのが女心でしょう?
「上客には一番いい姿を見せたい。それがあなたの見込んだ小紫って女ですよ」
それらしいことをまくしたて、いい塩梅にクイーンの旦那を持ち上げて。キングさん相手に苦労してることを伝え、それに引き換えあなたは、とまたクイーンの旦那をほめたたえる。むふーと満足気に帰られる頃にはもうげっそり。おべっかも楽じゃない。あえて痩せないタイプのFANKって何?? BMI値で見ろよ。健康体が一番だろ。
本日の山場を越えたことだしもういいかな……ねぇ、君らおれなしでもやれる……? がんばる? あ、そう。なら任せた、黒い翼の悪魔が来るまで休もう。
「コハク」
「今度は何って狂死郎親分ですか」
「悪いな、小紫の気まぐれに付き合わせて」
「まあしょうがないでしょうね。こうも連日将軍や大看板に通い詰められたら気も滅入る。むしろよく頑張ってくれてるとおれは思いますよ」
「はは、お前が言うと説得力が違うなァ」
マジそれな。なんでおれこんな苦労してるんだ?? 大物たちのご機嫌取りやりまくりだし、おれのおかげで救われた命あるんじゃね? 小紫もさぁ……せめて文くらいだそうよ。なんなら代筆するか? 割と自信あるぞ、
狂死郎親分の秘蔵っ子だし、行く気になった時はきちんと接待してるからあの人らも通い詰めるんだろうけど……。はああ、気を使うから疲れる。
ため息をついたら狂死郎親分に肩を組まれて頭をぐりぐりされた。慰められてるのかこれは。
同情するなら金をくれ。この国から亡命できるレベルの大金が欲しい。
それか休み。
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