∵neta∵

11/05
あたまよわよわな話(金カム)
僕は昔から佐一くんのあとばかり着いて回っていた。
いじめっ子から守ってくれるおっきい背中とか、意外と可愛いものが好きなところとか、全部好きだった。

なのに佐一くんはある日を境に姿を消した。
家を燃やして。

原因は分かってる。村の人たちがみんな、佐一くんとその家族を忌むべきものとして扱うからだ。
……村の人の誰かが結核にかかるとみんな人が変わったように迫害するのだ。昨日まで一緒に笑いあってたとしても、そんな過去なんてなかったかのように知らんぷりして、遠目で見ながらひそひそと声を潜めて悪口ばかり言う。

僕はそんな大人にはなりたくなかった。
それに僕は佐一くん以外に友達なんていなかったし。
寅次くんと梅ちゃんは僕から佐一くんを取るからちょっとだけ苦手だった。すごく優しいんだけどね。

佐一くんの家族が結核だって分かったあとも、僕はいつも通り佐一くんの後ろを着いて回った。
そしたら佐一くんが怖い顔して僕に「着いてくるな」と言う。僕はやだったからそう伝えたら、今度は泣きそうな顔して「着いてきちゃ駄目だ」って。
僕は何度もやだって言ったけど、その度に佐一くんは困ったような泣きそうな顔をする。しがみついて何度もいやだと伝えたら、「もう、仕方ないなあ」って僕の頭を撫でてくれた。佐一くんのおっきい手が暖かくて、ひひって笑ったら佐一くんも嬉しそうに笑ってくれた。

これが佐一くんと会った最後の記憶。


本当はわかってた。佐一くんの怖い顔も悲しい顔も、僕のせいだって。僕まで村の人から迫害されないように守ってくれようとしたんだと思う。
出て行ったのだってきっと僕が言うことを聞かないからだ。


佐一くんがいなくなったあと、やっぱり標的は僕になった。父様も母様も僕を結核と疑って近くに置きたがらなかった。そして僕は北海道の祖母の家へ送られることになった。

兵役も体格の関係で免除されてしまったけど、身体の弱いおばあを側で支えてあげられるから結果的に良かった。



そんなおばあも息を引き取った。
父様と母様からは音沙汰がない。でも2人がおばあのことを快く思っていなかったことは知ってたから、きっと仕方ないことなんだと思う。
だから僕をおばあの元に行かせたのだろうし。



一人になってしまった僕には何も無かった。
身体が弱く勉学もさほど出来なかったし、手に職なんてことも当然ない。

だから売れるものなんてこの身しかなかった。
初めて僕を買った人は僕に10銭の値をつけた。高いのか安いのか分からないけれど、ただ少しの間は食べるものに困らないで済んだことは確かだった。





そんな生活の中、再び佐一くんに出会ったのは偶然だった。
まさか北海道にいるとは思わなくて、びっくりして後を着けてしまった。だって仕方ないと思う。
久しぶりの佐一くんだったし、偽物だったら諦めも着くと思ったのだ。

そしたら急に押し倒されて銃の先を向けられて、心臓が止まるかと思った。
「ひ、久しぶりだね、佐一くん」
何とか声を絞り出したら、佐一くんもびっくりした顔で銃を下ろして「…なっちゃん?」と僕の名前を呼んでくれた。
ひひっ、覚えてくれたの嬉しかったな。



「ふむふむ。梅ちゃんの目がそんなことに」
佐一くんは砂金を集めに北海道に来たそうだ。梅ちゃんの目が見えなくなって、寅次くんが亡くなってしまって、きっと佐一くんもいっぱいいっぱいだっただろうに。
「そしたら僕も手伝うよ!」
「ぱしゃぱしゃって川の中から砂金を探せばいいんでしょ?」そう尋ねると佐一くんは困ったような顔をした。
僕の見る佐一くんはいつもこんな顔ばかりしている気がする。

「あー…なっちゃん?砂金を集めるって言ったって山の中だし、ヒグマだっているんだぞ」
坊主頭のシライシと名乗った人が怖がらせるようにそう話してきた。
「白石の言う通り、そういうのはなっちゃんには危ないんじゃないかな」
「大丈夫だし!」
諭すような言い方にむっとして言い返すと、それまでずっと黙っていた女の子、アシリパさん?までが2人に同調した。
「お前はまだ嫁入り前だろう。傷でもついたら大変だ」
「僕はれっきとした男だし!」
もう怒った!ぷいとそっぽを向いて怒っていると態度に出すと、案の定心優しい佐一くんはおろおろと焦りだした。
「あぁ…なっちゃんが怒ってる」
「杉元〜!お前ちょっとなっちゃんに甘いんじゃねえの〜?」
シライシが好機とばかりに佐一くんに絡みに行くが「うるせえ」と吠えられて、「くぅ〜ん」とアシリパさんの後ろに隠れてしまった。

「なっちゃん、ほんとに危ないんだ」
「そうだぜ。第七師団もいるしな…あっ」
「「シライシ〜!!!!」」
アシリパさんがどこからか出した棒でシライシをぽかぽか殴り始めた。
それよりも、それよりもだ。
「第七師団って陸軍の?なんで?」
「あー……。くそ、白石お前ふざけんなよ!」
佐一くんは誤魔化すように頬をかいて、シライシを怒鳴りつけた。




──────

刺青人皮というものを探しているらしい。
金塊とかよく分からないけど、色んな危ない人達がそれを狙ってて、巻き込まれたら危険なんだって。

シライシのを見せてもらったけど、変な柄だった。
アシリパさんは暗号だと言っていたけど、こんなの僕じゃ絶対解けない。
でも何か見覚えがあるような、ないような?
















書きたいところだけ


「鯉登さん」
「お前か、どうした?」
「僕を買ってくれませんか?」
「キエエエッ!(猿叫)」
けたたましいその声に思わず耳を塞ぐ。突然大声を上げた鯉登さんは浅黒い肌からでも分かるくらいに首元まで赤く染めあげていた。
「わいはまちっと自分を大事にせんか」
「…だってお金が欲しいんだもん」
「何か欲しいものでもあるのか?」
落ち着いたのか薩摩弁じゃなくなってしまった。僕、鯉登さんの薩摩弁結構好きだから残念。
「佐一くんの手冷たかったからね、手袋を買ってあげたいの」
「ふん、なぜ私が杉元の為にお前を買わなければならない」
確かに鯉登さんと佐一くんはあんまり仲が良くないみたい。これは頼む相手を間違えたかもなあ。

「いいよ。そしたら別の人に頼むから」
「…待て。身体を売るのか?」
「悪い?僕ほかにお金の稼ぎ方なんて知らないもん」
「……私がお前を買う。幾らだ?」
「10銭」
「ならお前の一生を買うなら幾らだ?」
「僕の一生か。うーん…………あ、200円かな」



「佐一くん!手袋あげる」
「えーなになに、どうしたの?」

「ふん、私に抱かれて得た金で買ったものだ」
「は?何それ。なっちゃんどういうこと?」
「……」
「言葉の通りだが?」

「なっちゃん」
「……」
「返す」
「…佐一くん?」
「…ごめん。しばらくなっちゃんの顔見たくない」
「…………僕間違えた?」
「なっちゃん、あのな。なっちゃんはもっと自分を大事にしなきゃ駄目だ」
「自分を大事にとかわかんないもん。でも僕を買った人はいつも僕をいい子だって褒めてくれたし、お金もいっぱいくれたよ」
「なっちゃんッ!」
初めて佐一くんに叩かれた。いたい。いたい。
なんで叩くの。わかんない、僕佐一くんのこと全然わかんない。
「もういい。佐一くんのばか!」
貰われなかった手袋と赤くなったほっぺ。
全部僕にはわかんない。だって何も考えずににこにこ笑って買われていれば、みんないい子だって言ってくれた。
なのになんで佐一くんは怒るの?

─────

「あいつの一生は200円だそうだ」
「あ?」
「その200円で貴様の望みを叶えて、危ないことをやめさせるのだと話していた」
「な、んだよそれ……」
「哀れだな。一晩たったの10銭で身売りなど」


──────
1日10銭ということは何日で200円になるかな。
佐一くんは手袋よりも、200円の方がきっと喜んでくれるはず。僕が無駄遣いしたからだめなんだ。
でも自分を大事にってどういうこと。わかんない。

僕がもっと頭が良ければ200円なんてすぐに用意できたかな。

──────

「なっちゃん、もうやめて」
「ん?」
「身売りするのをやめてほしい」
「でもそしたら僕何も佐一くんにしてあげられないもん」
「そんなこといいから、頼むからやめてくれ。なっちゃんは家で俺におかえりって言ってくれれば、それでいいんだ」
「でも僕……」
「なっちゃん、お願い」
「……うん、分かった」
つらい。佐一くんは僕をきっと役に立たないやつだと思ってる。何の力にもなれないって。アシリパさんは僕より年下で女の子なのに、ずっと頼りにされてる。
シライシだって役立たずって言われてるけど、信頼されてるのわかるもん。なのに僕だけ何の役にも立たない。昔からそうだ。佐一くんのお荷物にしかならなくて、家族からも疎ましがられた。

だからせめて200円集めて、佐一くんを喜ばせたかった。



「そうか、君は友人のために200円が欲しいのか」
「そうです。でも僕頭悪いからあんまりお金稼げなくて、10銭で僕を売るの」
「ほう?しかし君には10銭以上の価値があるように見える」
「ほんとに?初めに僕に値をつけた人が10銭だって」
「それはそれは。きっと君は騙されていたんだよ。私だったらこんなに可愛らしい君に1円は払ってしまうね」
「うそだあ。僕にそんな価値はないです」
「いやいや本当だとも。もし君の一生を買えるのなら300円を払うと約束しよう」
「300円?ほんとに?」
「ああ。君の友人に200円あげても100円残る。悪くない話だろう?」
「うん!でも100円はいいよ。そんなにいっぱいはいらない」



────
「喜べ杉元ぉ、可愛い可愛いなっちゃんが君に200円をくれるそうだ」
「なんでなっちゃんがてめえのとこにいんだよ!」
「んん〜、なっちゃんは私と一生を共にすることを誓った仲なのだよ」
「佐一くん、鶴見さんいい人だよ。僕のことを200円で買ってくれたの」
「なっちゃんッ!」
「可愛い幼馴染じゃないか。なっちゃんの幼馴染愛には正直妬けるが、私も鬼じゃあない。この200円で金塊から手を引くなら、お前たちには手を出さないと約束しよう」
「無理だな。アシリパさんの目的が達成できない」
「そうか。それは残念だ 。では月島軍曹」
「は」
月島が構える銃の先にはなっちゃんがいた。
「鶴見さん……?」
「すまないね。どうやら交渉は決裂したようだ」

「てめえッ……!!!!」


newtopold
- site top -