その出会いに祝福を

それは奇跡と呼ぶにはあまりにも不完全で、けれど偶然で片づけるには不自然なほどに出来すぎた出会いだった。


あの日俺は駅のホームから突き落とされた男を助けようと手を伸ばして、死んだ。
そう、一緒に落ちて轢かれたはずだった。



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目が覚めた先で見たのは高校の同級生の顔だった。といってもアラサーになった今の姿ではなく、姿形は当時のままだ。
そして俺も制服姿で手には今は懐かしきガラケーを握っていた。その画面越しに見た俺も高校3年のときの俺だった。若者にしか許されなさそうなシルバーアッシュの髪が懐かしい。今の俺がやったら若白髪がいいところだ。

「太郎〜お前また彼女にフラれたんだって〜?」
「うっせ」
絡んでくる友人と軽口を叩き合いながら、当時のことを思い出す。ガラケーで確認したところ今日は7月4日らしい。確か7月の頭に彼女にフラれたんだった。理由はいつもと同じ「私のことを好きなようには見えなかったから」だった気がする。
「今日の合コンのヤツら、全員超カワイイ子らしいから安心しろって」
「は?合コン?」
そういえばそうだった。彼女にフラれた可哀想な俺を慰めよう会という名の合コンに無理やり連れて行かれた覚えがある。それが今日だったのか。


「太郎くん来てくれたんだー!」
「最近フラれたばっかだから、今が狙い目だぜ?」
「おい勝手なこと言うなよ」
俺相手に勝手に盛り上がる女子も女子だが、友人も口が軽すぎる。お調子者だというのは知ってたけどいい格好しいだから、こういう時めんどくさい。
「アタシ太郎くんに会いたくてダメ元で頼んでみたんだけど、来てくれて良かったぁ」
「別に来たくて来たわけじゃ…」
ベタベタベタベタ引っ付いてくる女子がウザい。適度な距離感ってあると思うんだが。
…それに俺は何かを忘れているような気がする。



思い出したのは既に手遅れになってからだった。

「オイ兄ちゃん。なに人の女に手出しとんじゃゴラ」
「ちょっとヤマちゃんやめてよ〜」
ヤマちゃんやめてよじゃねぇんだわクソ女。ビッチな女に引っ付かれたら、世紀末覇者みたいなヤンキーに絡まれた。なんだこれ美人局か。
「…悪かった。彼氏持ちとは聞いてなかったからな」
俺から声をかけた訳でもないし、そもそも男いるくせに合コンに来るような腐れビッチはこっちから願い下げだ。だからといって女を売るのは性に合わない。素直に頭を下げた方が円満だろう。
というのはこのヤンキーには通じなかったらしい。
「じゃあイシャリョー払えよ。それで許してやる」
「ヤマちゃん!アタシから誘ったから太郎くん関係ないってば〜」
ほんとな。俺関係ないし。ていうか友人消えたし。世紀末覇者が来てすぐ帰ったのか。そういえば確かにそんな記憶がある。
「や、払える金ねぇんで」
「はァ?人の女に手出しといてそりゃねぇだろッ」
外に連れ出されたかと思えば殴られた。店の中では迷惑になるとか気を遣えたことに驚きだ。
そんなことより前はこのままサンドバッグだった気がする。面倒事に巻き込まれるよりかはと思ったが、結局金も取られて殴られてパシられて散々だったな。なら今度はやり返してもバチは当たらないはず。
「これからやるのは正当防衛だよな」
「は?何言ってんだ?」

顔面に向かって後ろ回し蹴り。いきなりやれば大体の奴はノせる。
「ちょっと何すんのよ〜ッ!!」とか何とか叫ぶ女の金切り声はこの際無視だ。第一俺は悪くない。一発くそ雑魚パンチを食らったし正当防衛である。

飲食代だけは払って帰る。もう手遅れだが、出来るだけ面倒事は避けたいのだ。





そして気が付いたら俺は駅の医務室にいた。

「…何だ今のは。夢でも見てたのか?」
「え、もしかして君も!?」
俺が助けようとした男が身を乗り出して問い掛けてくるのを何とか押し返し、詳しい状況を尋ねようと口を開いた。
が、それを新たにやって来た男に阻止された。
「少し彼らと話をさせてもらってもいいですか?」
そう話した男は橘直人と名乗った。
そして隣の男をタケミチと呼び、何やら話し始めた。よく分からないから聞くことしか出来ないが、とりあえずタケミチも俺と同じように過去に戻っていたことが伺えた。

「あとその…君は?」
話が落ち着いたのかようやく俺に向き直る橘。確かに俺だけが部外者のようだ。
「そこのタケミチと一緒で、俺も12年前の今日に戻ってた」
自己紹介をしてそう告げれば、さっきまでの出来事が徐々に現実味を帯びてきた。

ナオトの家に連れて行かれ、東京卍會について叩き込まれる。過去に戻れるならお前も姉を助けるのに協力しろということらしい。
俺仕事あるんだけど無断欠勤して大丈夫か?いやもうこの際大丈夫ということにするしかない。




A

目が覚めた場所は校内だった。
外からブルンブルンとバイクの音が聞こえる。
バイク集団は「太郎く〜ん遊びまショ〜」なんて叫んでやがる。

「お求めの太郎くんですよっと」
他の生徒の迷惑になるため、嫌々向かえば下卑た笑みを浮かべたヤツらに囲まれた。
「太郎く〜ん。お前がやったヤツウチのチームのモンなんだわ。どう責任取るつもりですか〜?」
ギャハハハとこれまた下品な笑い声と共にそう言われ、わざとらしく首を傾げる。
「でも俺正当防衛だったんで」
「はァ?知らねーよ。いいから来い」
無理やりバイクに乗せられドナドナされる。
着いた先は汚い倉庫で、確か以前はここでもリンチされたなあと他人事のように思い出した。
「待ってたぜ〜太郎くん」
「そうですか」
ニヤニヤ笑うコイツは長内だったか。
「スカした野郎だな。気に食わねぇ」
「そっすか」
早く殴ってくれないかな。そしたら正当防衛って名目でどうにか出来るのに。

「オラッ」
「ッ!」
痛い。普通に痛い。でもこれで反撃しても問題ない。
型的にボクシング経験者だろう。ならパンチを打ったその一瞬の隙を狙えばいい。
ただ蹴り上げるだけでも、顎を狙えば脳震盪を引き起こせる。
「正当防衛、な?」
倒れた長内を放置して、その舎弟共を見ればズリズリと後退りしていた。
「おいおい、逃げんのかよ」
そう声を掛ければ一斉に逃げ出した。マジかよ。長内人望なさすぎだろ。



「………痛てぇ…」
「俺が言うことじゃねえけどさ、お前喧嘩すんのやめたら?」
「…なんでいんだよ」
長内が目を覚ますのを待ってそう言えば嫌そうに顔を顰められた。だが最初会ったときのようなキマった感じのテンションではない。
「別に。お前の人望のなさに同情してんだわ」
「フッ、最初のイイコちゃんは猫被りだったってわけか」
長内も長内で人望がない自覚があるのか、周りに誰もいないのを見て何も言わなかった。
「やっぱ本来のオレはこんなもんだよなァ」
「何それ」
「別に。ま、いいぜ。太郎くんの言う通り喧嘩やめてやる」
長内は現実を受け入れたのか随分とスッキリした顔をしていた。だが俺の言う通りというのは少し気に入らない。そういうのは自分の意思で決めろよ。言わないけど。



翌日、かの友人に謝られた。そういえば世紀末覇者が属していたチームに俺を売ったのは此奴だった。
別に過ぎたことだからどうでもいいし、何ならボスの長内倒してチャラになったみたいなもんだし。
それより現代にいるときにナオトからタケミチと合流するようにと言われたけど、アイツ今いくつだ?

途中で学校をふけ、適当に歩く。最悪タケミチじゃなくても東京卍會の連中に会えれば良かった。目標は同じマイキーと稀咲だしな。

「オイ今喧嘩賭博やってるって」
「またかよ?キヨマサくんもよくやるなあ」
「イイじゃん見に行こうぜ」
ダサい中坊ヤンキーがそう話しているのを聞き、興味本位で見に行くことにした。
そこでは頭の悪そうなヤンキーたちが頭の悪そうな賭け事で盛り上がっていた。

もしかしてあそこにいるのタケミチか?
金髪でボコボコにやられているのはタケミチみたいだ。応援席から僅かにタケミチと呼ぶ声がするから多分間違いない。
「バット持ってこい!」
キヨマサと呼ばれたタケミチのタイマン相手のセリフに反吐が出る。ガキの喧嘩にしゃしゃり出るほど落ちぶれてはないつもりだが、流石に堪忍袋の緒が切れそうだ。
だが俺の出る幕は無かったようで東京卍會の総長、副総長が揃って登場した。よく分からないがタケミチが気に入られたのは確からしい。
全員が解散したあとタケミチの傍に行く。ボロボロでみっともないし、汚いけど、確かにタケミチはカッコよかった。

「おつ」
「太郎くん!来てたんスか!」
「まあな。カッコよかったよタケミチ」
「ッス!」
持っていた消毒液と絆創膏で応急処置をすると照れ臭そうに笑った。
「た、た、タケミチ!もしかしてその人…あの太郎くん!?」
「?太郎は俺だけど、別に有名になるようなことしてないはず」
俺がそう言うと眼鏡の少年はホッとしたように胸を撫で下ろした。逆にそこまで怯えられる太郎くんに会ってみたい。
「昨日、愛美愛主の総長がその太郎くんに潰されたらしくてこの辺じゃ話題なんスよ」
「あ、それオレも聞いたわ」
タケミチの友人たちが口々に話していてふうんと相槌を打つ。愛美愛主か、聞いたことがある気がする。

「別人じゃん?ま、いいや」
「あー、太郎くん!連絡先!交換しましょ!」
そうだ、忘れてた。タケミチに会ったら交換しようと思ってたんだ。
「んじゃ、赤外線な」
自分で言ってて違和感がすごい。タケミチも口元がニヤついているのがわかる。今は使わないもんな、赤外線。



タケミチと別れて家に帰る。珍しく弟が先に帰っていたようで靴が脱ぎ捨ててあった。
「おーい靴揃えろって言ったよな?」
「悪かったって。兄ちゃんおかえり」
「はいはい、ただいま」
見てくれは不良だが、きちんとおかえりと言ってくれる弟が可愛い。そしていそいそと靴を揃える素直さも可愛い。
「兄ちゃん聞いてよ」
「んー?」
「オレらのチームの一応トップ?が潰されたんだけど」
さっきもチームのボスがやられてたな。流行ってるのだろうか。
「へえ」
「めっちゃ興味ねえじゃん」
特徴的な笑い声を漏らす弟は俺の適当な返事に腹を立ててはいないようだった。聞いてよと言う割には聞かせる気がないのか、俺にそこまで求めてないのか。
「潰したの兄ちゃんだろ?」
どうやら本題はこっちだったらしい。
「さあ?そもそもトップ誰?」
「んー長内」
弟の言葉に飲んでいたコーヒーを吹き出した。長内はあの弟が属すくらいデカいチームの総長には見えなかった。

「まじ?」
「大マジ。やっぱ兄ちゃん?」
「あーうん。俺だわ」
素直にそう言うとまたバハッと笑い、嬉しそうに俺の肩に腕を回してきた。
「兄ちゃんのお陰でおもしれーことになってんだわ」
「お前の言う面白いことが面白かった試しがないけど、まあ人の道は外れんなよ」
「はぁい」
こんな適当な返事だが、なんだかんだ俺との約束は守ってくれる可愛い弟だ。言葉尻を捉えて、その裏をかいてくるところもあるが。



それからは特に何もすることがなく、時々タケミチとメールして終わった。




気付いたらナオトの家で寝ていた。
役に立ててないし俺がいるとナオトの負担も増えそうだが、別に構わないらしい。というか現状、タケミチ1人でのタイムリープが出来ないから仕方ないというのもある。

そしてタケミチ曰く佐野万次郎はイイ人らしい。その辺俺には分からないけど、タケミチが言うならそうなのだろう。で、どうやらタケミチが過去を変えたからアッくんとやらがキヨマサを刺さなくて、しかも今の東卍の幹部になってるらしい。
なるほど、分からん。

「太郎くんの方はなにか進展ありましたか?」
「進展って言われてもなぁ。俺佐野との稀咲とも会ってねえし」
「そうですか」
「ま、タケミチが俺を呼んでくれればいつでも行くわ」
それしか出来ないし。というか当時高3の俺が意気揚々と中坊のチームに混じれない。
アッくんに連絡を取るためタケミチは自宅へ帰るようだ。そしてナオトもそれに着いていく。
俺は勿論、俺の家に帰る。同居人が煩そうだし。
「また戻る時連絡してよ。そしたらナオトん家行くからさ」
「はい!」
そう言って俺たちは別れた。





俺の家が無い。
いや部屋自体はあるけど、俺の家じゃない。
表札がまず違うし鍵も刺さらない。というか俺ん家の鍵はカードじゃなかったはずだ。なんでカードキーなんかが俺のポケットに入ってるんだ。
免許証を確認すれば住所は別の場所になっていた。全く身に覚えがない。過去を変えたせいなのか?
同居人は大丈夫だろうか。

とりあえずナオトかタケミチに電話しよう。
「おかけになった電話番号はおでになりません──」
彼奴らも彼奴らで何かあったのか。
それも心配だけど、マジで俺の家どうしよう。
住所を頼りに行ってみるか?いや流石にな。何か怖い。いやチキらずに行くべきか。クソ、でもやっぱ男は度胸だよな。
適当にタクシーを止めて俺の家(推定)に帰ることにした。鬼が出るか蛇が出るか、出たとこ勝負といきますか。






太郎(18) 現代では30
この度長内という舎弟が出来た
喧嘩はまあまあ強い
弟には勝てるレベルだが、ドラケンには負ける
モテるがすぐフラれる
優等生のガワを被ってる


いったいどこの死神なんだ
超絶(隠れ)ブラコン
兄との約束は破らない
兄とはつむじが見える身長差