1981年10月31日──運命が選ばれた。
ヴォルデモートの脅威は退かれ、魔法界に平穏が訪れた。死喰い人だった者たちは投獄を逃れようと、散り散りに逃げ出した。ヴォルデモート卿がたった1歳の赤ん坊にやられるとは、誰もが思いもしていなかったのである。
故にヘレンは誰にも気付かれることなく氷の中で、その時を止めていた。


時は流れて1993年5月。
秘密の部屋の扉が開かれ──そして分霊箱である日記が壊された。
同時刻、凍ったままだった棺が溶け、やがて一人の麗人が目を覚ました。

「ここは……?」
とある館の奥まった一室に隠すように置かれていた美しくも冷たい棺は、既に役目を終えていた。
目を覚ましたヘレンはしばし逡巡した後、ここを離れることを決めた。数年どころではなく放置されていたこの場所に、ヴォルデモートや死喰い人が戻ることはないだろう。

マグルの町まで姿くらましを使い、軽い変装道具を拝借する。ヘレンには生憎手持ちが無かった。心の中で詫び、ダイアゴン横丁に飛ぶ。
そして新聞に書かれた1993年という文字に驚愕した。最後にヘレンが明確に記憶した日付はピーターに呼ばれた1979年10月のものだったはずだ。それから何度も使われた・・・・とは言え、14年もの月日が経っているとは到底思えなかった。

グリンゴッツで幾らか懐に入れると、適当な本屋に入り本を物色する。ふとヘレンがゴシップ誌に目を向けると『生き残った男の子、ハリー・ポッター』という言葉が見えた。ポッター姓にまさかと思いつつ、それを手に取るも、後ろから店主の咳払いが聞こえ慌てて購入した。

こじんまりとした喫茶店で雑誌を開くと、到底信じがたい言葉が数々と飛び込んできた。
リリー・ポッター、ジェームズ・ポッターの死。2人を裏切りピーターを殺したシリウスの投獄。そして何より、リリーとジェームズの子供が僅か1歳にして、ヴォルデモートを打ち倒したのだ。
そして2人の子のハリーが少し前にホグワーツに入学したということで、雑誌は終わっていた。

それを読んでヘレンはある疑惑を覚えた。
2人を裏切ったのは本当にシリウスだろうか、と。ヘレンを巧妙に騙しヴォルデモートの元へ連れ出したのは、紛れもなくピーター・ペティグリューである。もしかしたらシリウスも嵌められたのかもしれない。
そこまで考え、レギュラスのことを思い出した。全て落ち着くまでと約束したが、ヘレンは14年も眠り続けていたのだ。もうレギュラスも待ってはいないだろう。しかしシリウスの投獄によりブラック家は没落したと記載があったことから、レギュラスはまだアメリカにいるに違いない。レギュラスが元気でいるか、それだけでも見に行く価値はあると一人アメリカ行きを決めた。

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