『ヘレン古書堂』
品のいいアンティークなドアを開けるとカランとベルが鳴り、来客を知らせた。
ついこの間見たばかりの野暮ったい男はいくらかスマートさがあり、洗練された所作が品の良さを隠しきれていなかった。

男はチラリと来客に目を向け、また手元の本に視界を落とした。そして瞬きを2つすると、勢いよく立ち上がり訪問者へと駆け寄った。
「ヘレン!もう二度と僕の前に現れないと思っていました」
「まさか!僕が約束を違えることは無いよ。でも本当に僕の名前で本屋を開くとは」
店主レオ──もといレギュラスは急いで閉店をすると2階の私室へと誘った。それはまるであの日──レギュラスがヘレンに独白した──とは反対だった。

「ヘレン、最後に会った時からまるで変わりませんね」
「きみはずいぶんと変わったね、レギー。……ああ、とてもハンサムになった」
年齢だけでなく身長までも越されたヘレンは、少しの悔しさを滲ませながらも嬉しそうにレギュラスを見上げた。
ネックレスを取ったレギュラスは、幼さの残るあの頃からずいぶんと変わり、年相応の落ち着きとスマートさを身に付けた大人になっていた。それでもヘレンに褒められ頬を染める姿は、やはりあの頃と何も変わりはしなかった。

「レギー、この14年間で僕と、魔法界に何があったのか聞いて欲しい」
ピーターの裏切り、ヴォルデモートに凍らされたこと──陵辱の日々は告げなかったが──、ポッター家の悲劇、ヴォルデモートの破滅、シリウスの投獄、最後の事実にレギュラスは目を見開き驚いたものの、ピーターを疑うヘレンに安堵の様子を見せた。どれほど兄に冷たくされようとも、レギュラスは兄を憎んではいなかったのだ。

「僕はこれからダンブルドア先生に会いに行こうと思う。僕の生存のことも、分霊箱のことも伝えなければならない」
「僕も行きます」
「駄目だよ、レギー。死喰い人は皆捕まったわけではない。逃げおおせた奴だってたくさんいるんだ」
「僕はあの日もあなたに危険だと告げました。でも聞かなかったのは同じでしょう?」
レギュラスはもう子供では無い。守られるだけの存在ではいたくなかった。言い負かされたヘレンは仕方なしにレギュラスを連れ、ロンドンへと帰ってきた。

「マクゴナガル先生はまだいらっしゃるだろうか」
「きっと現役ですよ。そういえばヘレンは変身術が得意でしたね。アニメーガスを身に付けたとか」
「まあね、でもそれは内緒だ。未登録だからね」
「もちろんです。いつか見せてくださいね」
ヘレンのアニメーガスは黒ヒョウだ。それを聞いたシリウスは自分と同じ真っ黒な生き物であることに、たいそう喜びレギュラスに自慢しに来たのだ。

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