「ダンブルドア先生」
「おや?ヘレンにレギュラスか!お主ら生きておったのだな。いやそれとも何故ヘレンが死喰い人と共におるのか、聞いた方がいいかのう?」
「ええ、それも含めて僕の話を聞いてください。いや憂の篩で見ていただくのが早いかと」
ダンブルドアはそれを了承し、ヘレンから取り出した記憶を覗いた。そして一通り見終わると納得したように頷いた。

「ヘレンが目覚めたのはヴォルデモートの分霊箱の一つが壊されたからだと考えるのが妥当じゃろう」
「壊された?」
「ハリーが壊したんじゃ」
ダンブルドアの言葉にヘレンは飛び上がって喜んだ。
「ハリーは僕の地獄を終わらせただけでなく、目も覚まさせてくれたんだ。こんなのハリーの両頬にキスをしたって足らないよ」
「それなら後でしてやるとよい。きっとハリーも喜ぶじゃろう」
「ダンブルドア校長、冗談はやめてください。ヘレンは本気でする人ですよ」
自分では力になれなかったこと、それを20ほども年の離れた子供がしてみせたことにレギュラスは面白くなかった。いやヘレンのキスが贈られることが何よりも面白くなかった。そしてそれを見て「まだまだ青いのう」と笑うダンブルドアにも、レギュラスは不貞腐れた顔を返した。

「それよりも、……ダンブルドア校長、僕はやはりアズカバンに送られるべきでしょうか」
「レギー!きみはそれが目的だったのか?」
ゆっくりと首を縦に振るレギュラスにヘレンは助けを求めるようにダンブルドアを見つめた。ダンブルドアは人の良さそうな笑みを返すと、安心させるようにヘレンの肩を叩いた。
「あの分霊箱に気付いたのはお主が最初じゃよ、レギュラス。その功績を踏まえると、お主にはアズカバンではなくこちら側にいてもらわにゃならんのう」
「先生、ほんとですか」
期待を込めたヘレンにダンブルドアが頷いた瞬間、レギュラスの身体に衝撃が走った。
「レギー、やはりきみは誰よりもかしこかったんだ!」
レギュラスの首に腕を回し飛び付いてきたヘレンは、そのままレギュラスの両頬にキスを落とした。
「ヘレンッ?!」
「こんなに嬉しいことがほかにあるかい?だってきみが命を張って成し得たことが報われたんだから」
「でもまだ分霊箱を壊したわけじゃない」
「だとしても、だ。シリウスだって喜んで、きみを抱えてホグワーツ中を駆け回るに決まってる」
ヘレンの言葉にレギュラスは照れ臭そうに俯いた。シリウスがそんなことをしないと分かってはいるが、あの兄が自分を褒めてくれたらどれだけ嬉しいか、少しだけ幸せな未来に思いを馳せた。

「ああ、そうじゃヘレン。9月からリーマスが教師として、就任することが決まったのじゃ」
「リーマスが?それは良かった……。リーマスは元気でしたか?」
「気になるのならお主も補佐として来るとよい。レギュラス、お主もじゃ」
ダンブルドアは2人の立場の危うさに気付いていた。そして近い未来、ヴォルデモートが復活するであろう可能性も。
そのために1番安全であろうホグワーツへと招いたのだ。

「ダンブルドア校長、ありがとうございます。その任、拝命いたします」
丁寧な素振りで礼をするレギュラスと、同様に頭を下げるヘレンにダンブルドアは楽しそうに笑っていた。


「Mr. オルティス、Mr. ブラック……また会えるとは思いませんでしたよ」
「マクゴナガル先生!僕もまたお会いできて嬉しいです」
マクゴナガルとそこまで親しくなかったレギュラスは、礼を返すだけに留めた。そもそも他寮の寮監と親しい方が稀だが、ヘレンが変身術が得意であることに加え、悪戯仕掛け人の被害者同士、マクゴナガルとは良好な関係を築いていた。

「それにしてもオルティス、あなたは不自然なまでに変わりませんね」
「マクゴナガル先生、その事についてわしから後で説明しよう」
心配そうなマクゴナガルから庇うようにダンブルドアがそう言うと、ヘレンに向けて茶目っ気たっぷりにウインクした。
「それと間もなくセブルスも来るでしょう」
マクゴナガルの言葉から程なくしてやや乱雑に扉が開く音がした。

「ダンブルドア、どういう……ヘレン?」
怒りに任せて、と称しても過言でないほどにセブルスがダンブルドアに噛み付こうとして、そしてヘレンに気が付いた。
「生きて……いたのか……?」
「セブ、きみの方こそ生きていて良かった」
「あの人はお前を殺したと……」
ああなるほど、ヘレンはようやく合点がいった。ヴォルデモートが打ち倒されたとしても、あまりにもヘレンは放置されすぎていた。それこそヘレンの体質を知っていれば、その機会に是が非でもものにしたいと考えてもおかしくない。
死喰い人である──少なくともヘレンから見てセブルスは、まだ死喰い人としての認識であった──セブルスですら、ヘレンの存在を知らなかったのだ。最も近しい人だけ、下手したら誰にもヘレンの存在を伝えなかったのかもしれない。捕えた後、ヴォルデモートが「ヘレンは殺した」と公言してしまえば、あの場にいた死喰い人ですら疑いもしないだろう。

「私が道を誤ったと気付いた時には全て手遅れだった。ヘレンも……リリーも……。お前はいつも私を止めてくれていたのに」
「セブ、きみがホグワーツここにいるということは、まだやり直せるということだ」
小柄なヘレンを腕の中に閉じ込め、セブルスはしばらくの間そうしていた。まるでもう2度と取りこぼさないとでも言うかのように。

「Mr. スネイプ」
「ああ、あの忌々しい男の弟か」
坊主憎けりゃ袈裟まで憎いとまでとは言わなくとも、セブルスはレギュラスを好いてはいなかった。大事な友人であるヘレンに──それこそ兄のシリウスのように──ベタベタと付き纏う後輩を疎ましいとすら思っていた。まさか己と同じ道を辿るとは思ってもいなかったが。

「それで我輩に何か?」
ヘレン以外に用はないとでも言いたげな言葉に、「セブ」と小さく注意が入る。だが今はかつて袂を分かったヘレンの存在を感じていたかった。
もヘレンも9月からホグワーツでお世話になりますので、どうぞよろしくお願いします」
セブルスはフンと鼻を鳴らし不機嫌さをアピールしたあとに、ようやくヘレンを解放した。


ホグワーツを後にする直前、セブルスが再度ヘレンに声をかけ長方形の木箱を手渡した。
「セブ、これは?」
「お前の形見だとあの人に譲り受けたものだ」
「杖!きみが持っていてくれたんだね」
久しぶりのその感覚にヘレンは何度か振って自分のものであることを確かめた。手に馴染んだそれは間違いなくヘレンのものである証拠だった。


「ヘレン、あなたの家に行きますか?」
「いや僕の家はもう例のあの人によって潰されていたんだ」
「なら僕と一緒に帰りましょう」
姿くらましができる場所に移動したあと、ブラック家へと飛んだ。ちなみにレギュラスは未成年のうちに死喰い人になり、そのままマグルとして潜伏していたため姿くらましの免許を持っていなかった。レギュラスを連れながらも、当然のように使いこなすヘレンを見て、ホグワーツに行く前に必ず免許を取ることを決意した。


「クリーチャー、いるかい?僕だよ、レギュラスだ」
「坊ちゃん!」
おいおいと泣くクリーチャーを見て、瞳を潤ませるレギュラス。そんな2人をヘレンは眩しいものを見るかのように眺めていた。
「ヘレン様、お久しゅうございます」
「クリーチャー久しぶり。あれから大事ないかい?」
「はい、はい…!」
優しい言葉をかけるヘレンに感激したように身体を震わすクリーチャーだったが、やがて大事そうに分霊箱を取り出した。

「坊ちゃん、ヘレン様。こちらを……」
「ありがとう。これは僕が預かるよ」
レギュラスが言うより早くヘレンはそれを受け取った。分霊箱が体を蝕むことに気が付いていたのだ。
「ヘレン、大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。僕は血縁的にこういうのには強いんだ」
ヴィヴィアンとして流れる浄化の力がはたらき、分霊箱の力を限りなく0に抑えることができた。本来はヘレンがずっと所持する予定であったが、死んだと思われているクリーチャーが持っていた方がいいとクリーチャー自身に言われ、仕方なくクリーチャーに預けていたのだ。
だがその後すぐにピーターに嵌められたため、結果的にそれが功を成したと言える。

「とりあえずレギュラス、掃除しないとだね」
「そうですね。せめて寝る場所だけでも確保しないと」
2人は片っ端からスコージファイ清めよをして、眠れる場所を確保する頃には朝日が登り始めていた。

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