僕が高専に初めて足を踏み入れたその日、兄に再会した
この身体だと初めて会うのだが、兄の纏う雰囲気も最後に会った日のままで、兄は変わらずに兄のままだった
さすがにいきなり抱きつかれてさらに頬っぺにキスをされたのは驚いたが
兄に再会して色々あったが、恵くんが弟を連れ少し遠くに行った隙に兄に向き直る
一つ兄にどうしても確かめなければならないことがあったからだ
「兄様。恵くんをあの家に、禪院に売ったというのは本当ですか」
じっと目を見つめ兄の様子を伺う
「チッ、坊が言ったろそれ」
「?五条先生です」
「あれー、何か巴にバレたら疚しいことでもあった?ごめんねー」
五条先生が白々しい態度でそう言った
恐らく兄が恵くんを売ったというのは本当で、それは僕にバレたくない事実だったのだろう
「あーその何だ、止むに止まれぬ事情があってな」
兄にしては珍しく言い淀んでいる
「いえ、兄様が良かれと思っての行動なら仕方ないのだと思います」
きっと相伝の術式なら大切にされる、そんな期待があったのかもしれない
「確か十億だっけ?恵を売った値段」
「ッこのクソガキ」
兄様が五条先生に殴りかかったが、何かに弾かれてしまった
しかしそれよりも
「…十億ってどういうことですか、兄様」
「あーいやその、な?」
兄は僕から視線を逸らし、誤魔化すかのように僕を宥めようとした
「お金欲しさに恵くんを売ろうとしたんですか!あの家に!」
「だから話を聞けって」
「話を聞いたところで事実は変わんないけどね」
「おいクソガキお前は黙れ」
目の前が真っ暗になった気がした
兄は優しくてかっこよくて僕のヒーローだった
あの地獄のような日々も兄がいたから生きてこれた
それなのに、兄は大切なはずの息子を、恵くんを売ったのだ
それもお金欲しさに
「…もういいです」
「巴?」
「兄様が恵くんを大事に出来ないなら僕が貰います!!!」
「「巴!?!?」」
僕の大声に兄と五条先生の慌てた声が聞こえたが聞こえないふりをした
自分でも何を言っているかわからないが、兄の不始末は弟がつけると相場が決まってる
だから僕が恵くんを育てるのだ
「兄ちゃん伏黒と結婚すんの!?絶対だめ!結婚なんてまだ早いって」
先程の僕の声が聞こえたのか弟が駆け寄ってくる
「おい俺の意思は!?」
同じく慌てた様子の恵くんが弟の後に続いてやってきた
「恵に巴はやらねぇ」
「兄様逆です。僕が恵くんを貰うんです」
「伏黒にも兄ちゃんはやらねえからな!」
「だから俺の意思は!」
「なら間をとって僕が巴も貰ったらいいじゃん」
「やんねぇよ死ね」
「五条先生もだめだから!」
「“も”ってやめてください」
┈┈┈┈┈
昨日の修羅場を通りがかった夏油先生が治め、俺は無事に部屋に戻ることが出来た
その前に俺が巴さんを何と呼ぶか論争が巻き起こったのだが、クソ親父は相変わらずクソ親父でしか無かった
俺が巴さんと敬称をつけて呼ぶと新妻気取りかよと睨まれ、巴と呼び捨てにすると亭主関白のつもりかと凄まれた
だが巴さんが「兄様がそんなんじゃ、僕恵くんに名前呼んでもらえないじゃないですか」と至極真っ当なことを言ったため巴さんと呼ぶことを許可されたのだった
親父の弟の生まれ変わりだという巴さんは、一見して儚く見える
五条先生も親父も年齢を抜きにすると禪院巴と虎杖巴の姿は全く同じだと話していたが、“あの”クソ親父の弟には到底見えなかった
線が細いというのもあるが、表情も柔和で、男に使う言葉ではないが大和撫子のような人であるからだ
結婚云々は単なる虎杖の勘違いだった訳だが、少しむず痒い気持ちになったことは墓場まで持って行こうと思う
┈┈┈┈┈
「僕だけお留守番ですか」
しゅんと肩を落とす巴を甘やかしたくなるが、巴の術式は不完全故に他の1年生と一緒に使うと巻き込まれかねない
「傑と一緒だから、ね?」
「…わかりました」
ほぼ初対面の傑と二人きりで特訓させるのは可哀想だが、そこは諦めて欲しい
傑もあれで不器用だから、僕達が帰ってくるまでに二人が仲良くなるのは少し難しいかもしれない
だから
「悟!巴を私にくれないかい?」
などと、帰ってきて早々に言われるなんて思ってもいなかった
「傑が知り合ったばっかの生徒を下の名前で呼ぶなんて、巴の何をそんなに気に入った訳?」
「彼の術式、呪霊の味を変えられるんだ!」
六眼で見えた術式は確か…
「歪曲の性質を持つ術式だったね、それがどうして味まで?」
「認識すらも歪曲できたみたいだよ」
その言葉に驚く
「それもう何でもありじゃん」
「そうだね、何でもありだ」
珍しく傑が心の底から嬉しそうだったので、巴の修行は一任することにした
僕は僕で他の生徒も見なければいけないし
「巴、ただいま」
一人残って呪力を安定させる練習をしていた巴に声をかける
「あ、五条先生」
僕を見て僅かだが嬉しそうな顔をした巴に僕も破顔する
そんなに僕に会いたかったのかな
「僕が呪力を込めた呪霊の玉みたいなやつを食べてから傑先生の様子が可笑しいんです」
「傑がおかしいのは元からだとして、何で傑先生?僕も悟先生って呼んでよ」
一体一での訓練だったためか、僕より近い巴と傑の距離感に嫉妬を覚える
傑と修行することになったとしても、巴は僕の生徒です
「違うんです、何か酷く上機嫌で。あの、僕の呪力って薬物的な効果ありますか?」
なるほど、傑は薬物をキメたと思われてるのか
そのままにしておくのも面白いけど
「安心していいよ、ただ単に不味さから解放されてテンション上がってるだけだから」
巴が思い詰めてるようだったので安心させてあげることにした
それよりも僕のことも悟先生♡って呼んでくれないのかな
「そうだ、巴おいで」
「?はい」
巴を連れ新入生─釘崎野薔薇─の元へ向かう
「野薔薇、こちら悠仁のお兄ちゃん」
「えっとノバラさん?虎杖巴です、よろしくお願いします」
そう言って巴はぺこりと頭を下げた
「釘崎野薔薇よ、虎杖の兄って双子な訳?にしても似てないわね」
野薔薇に紹介したため同級生ということは理解して貰えたようだ
「年齢は野薔薇たちの一つ上だよ、色々あって1年生してもらってるんだ」
「ふうんまあいいわ、よろしく」
そうして1年生全員の顔合わせが済んだ
→