-幕間-
それはある一人の子供の話
昔々あるところに赤い目を持つ一人の童がおりました
赤目と呼ばれた童は村で忌み嫌われておりました
農作物の不作は赤目のせい、神の御恵みが与えられないのは赤目のせい、子供が生まれないのは赤目のせい
それはこの村での常識でした
余りにも不幸が続くもので、村人たちは赤目を神に贄として捧げることを決めました
そして赤目は白装束を着せられ村の祭壇へと担ぎ込まれようとしていました
そんな時、一人の男が現れました
男は赤目を売ってくれないかと村人たちに頼みました
しかし村人たちはそれに難色を示しました
それでも男は諦めません
やがて男はこう口にしました
『私は宮廷に仕えし者である』
その言葉を聞き村人たちは赤目を売ることを決めました
そして男の後ろから運び込まれる沢山の米俵
それは十や二十ではありませんでした
村人たちは赤目が米に変わり大層喜びました
赤目はとある貴族の屋敷へと連れていかれました
そこでは呪術師と呼ばれる者達の育成を行っておりました
そして赤目は訓練を受け、呪いを倒すことを役目付けられました
元服さえ迎えていない幼い赤目は呪い討伐に精を出します
呪いを倒すこと以外、赤目には何一つ許されていませんでした
ある日赤目が訪れたのはあの村でした
村人たちは赤目のことなど、すっかり忘れ今は宿儺という童を迫害していました
四本の腕に四つの目玉を持つその幼子は、周囲の悪意に害されていました
赤目はそれを見て、初めて自ら何かをしたいと思いました
それから赤目は宿儺を抱え村から逃げ出しました
赤目を買ったあの屋敷に帰ることもしませんでした
宿儺はそんな赤目の行動を疑問に思います
しかし聞くことはありませんでした
もしかしたら聞いて裏切られるのが怖かったのかもしれません
それからというもの赤目と宿儺は共に旅をしました
そして次第に宿儺は赤目という名に不満を覚えるようになりました
赤い目は忌み子を表します
赤目とは忌み子だと名で体現するものだからです
宿儺は赤目に『巴』という名を授けました
宿儺は年上の赤目に名をつけることに緊張していました
しかし赤目元い巴の喜ぶ顔に安堵しました
宿儺と巴は旅を続けます
度の道中に出会った女は言いました
赤い目なんて不気味ね、と
すれ違う童は巴を見てこう歌います
赤い目、鬼の子、禁忌の子、と
宿儺はその度に女も童も殺してしまおうと思いました
しかし巴は言うのでした
──宿儺が巴と名付けてくれたお陰で、僕は人で居られますよ
どれほど二人で旅をしたでしょうか
宿儺は巴と一緒なら地獄にだって行く覚悟がありました
ですが巴には宿儺を地獄へと連れて行く覚悟がありませんでした
そして、月が綺麗な晩のこと
巴はふらりと、眠る宿儺の傍から消えました
宿儺の眠る村の隣の村には松明を持った集団がおりました
それは正しく巴の追っ手でした
巴は追われていることをわかっていました
追っ手である呪術師たちの前に姿を表した巴は言います
「私の名は巴と申します。私を殺しに来たのでしょう?もう逃げませぬ、どうぞ殺してくださいな」
その言葉に呪術師たちは我先にと巴を殺しにかかります
無抵抗の巴は避けもせず、その命を散らしました
朝目が覚めた宿儺の横にいつもの温もりはありませんでした
巴の気配を辿り隣村まで行くと、そこには血塗られた巴が倒れておりました
既に息はありません
冷たくなった骸を抱き締め、宿儺は復讐を誓うのでした
宿儺は腕が沢山あるから多くの人と手を繋げますね、そう巴が褒めてくれた腕で多くの人を殺しました
宿儺は目が沢山あるから困っている人にすぐ気付けますね、そう巴が励ましてくれた目の視界に入った人を殺しました
そうして巴が居なくなった後、残されたのは孤独な呪いの王でした
宿儺は巴があの日自分を助けた理由を聞かなかったことを今でも後悔しているのでした
おしまい
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