「よろしくね、お義兄さま♡」
弟が恋人を連れて来た。
目に入れても痛くない程可愛い年の離れた弟に恋人が出来た。それを聞いた私は相手を見極める為にも一度会わせて欲しいと弟に伝えた。
それがまさかこんなことになるなんて。
弟が連れて来たのは男だった。いやこの際それは別に構わない。弟を幸せにしてくれる度量があればそれ以外は求めないつもりだった。
しかしどうだ、特徴的な白い髪に青い瞳。
弟が恋人として紹介した男は正に疫病神だった。
確かに私はこの人を信用しており、信頼もしている。だがどうしても尊敬は出来ないのだ。
呪術師としての実力は性格と反比例するのでは無いか、一つ年上の特級呪術師二人を見て常々そう感じていた。
弟の見る目の無さを恨めばいいのか、弟に手を出したこのクズを恨めばいいのか。
そもそも呪術師ではない弟とどのようにして出会ったのか、私という接点以外はないはずである。勿論私が紹介した覚えも無い。
キリキリと痛む胸を押さえながら弟と見ると、あれ知り合い?などと首を傾げている。
成人を迎えたばかりとはいえ、大人の男がするには少し幼い動作も弟がすると違和感を抱かせない。
そんな可愛い弟をこの人にあげるのは私の中の何かが許せなかった。
「いいですか、巴。悪いことは言わないので五条さんだけは止めて下さい」
そう言い聞かせるように伝えると弟は目に涙を浮かべ嫌がるように首を横に振った。
「やだっ!だって悟くん優しいし僕のこと守ってくれたし」
年の離れた弟から“くん”付けで呼ばせていることに軽く引いたが、それよりも守ってくれたという言葉に引っかかった。呪術師ではないが見える体質である弟に祓い方を教えたのは私だ。
低級の呪霊なら苦もなく祓えるだろう。
そんな私に気付いたのか五条さんが口を挟んだ。
「巴のバイト先のカフェでさ、超気持ち悪いおっさんに絡まれてんのを僕が華麗に助けてあげたわけ」
「まあその気持ち悪いおっさんっていうのは店長何だけど」
弟が弁解するように口を開いたが、火に油を注いだ事には気付いていないらしい。そんな不衛生な場所で弟が働いていたと思うと怒りが込み上げる。
「私は何かあったらすぐに言うように、と伝えたはずですが?」
「それは、その…」
誤魔化すように前髪を触る弟に少し溜飲が下がった。弟をさらにか弱く見せるこの癖が私は好きだった。
「まあまあ巴は七海に心配掛けたくなかったんだよ。ねー?」
「それで貴方が釣れているんですから、余計な心配事が増えて寧ろマイナスですよ」
「で、巴はどうしてもこの人でなければ駄目何ですか?」
言葉だけでなく視線までもが僕を咎めているようだった。
「悟くんがいい。悟くんじゃなきゃやだ」
「僕も巴がいい♡」
悟くんの言葉に頬が緩む。けれどお兄ちゃんがピシャリと「貴方は黙っていてください」と言うもんだから悟くんが拗ねてしまった。
「その人は学生時代、何人もの「七海?」」
何かを言いかけたお兄ちゃんを悟くんが止める。でも僕も悟くんの学生時代の話を聞きたかった。
「お兄ちゃん?悟くんがどうかしたの?」
「七海止めて、ホント止めて許して」
悟くんの必死な様子に僕は口を噤む。僕には聞かれたくないことみたいだ。
「巴、隠し事をする人と女性関連にだらしない人はどちらが嫌ですか?」
唐突なお兄ちゃんの質問に驚くも、少し考える。
「人を傷つけない隠し事なら別にいいけど、女の人いっぱい傷つけるのは良くないと思う」
「だそうです、五条さん」
心做しか得意気にお兄ちゃんが胸を張った。悟くんはお兄ちゃんの足元で倒れ伏してる。
「悟くん?大丈夫?」
「大丈夫じゃない、巴がちゅーしてくれないともう駄目」
ちゅーなんて言って僕に手を伸ばす悟くんにオロオロしていると、お兄ちゃんがその手を叩き落とした。そしてはぁと溜息を吐いて言った。
「巴が良いなら私から何か言うこともありません。ただもし巴を泣かせることがあったら私は貴方を許しません」
悟くんはそれを聞いてすくりと立ち上がった。
「泣かせる訳ないじゃん。柄にもなく一目惚れだったんだから」
悟くんの言葉に口元がにやけてしまう。
お兄ちゃんの公認が貰えたからこれで堂々とお泊まりができる。
「五条さん、多忙を理由に巴への連絡を疎かにしないで下さいね。存外弟は寂しがり屋なところがありますから」
「え、僕から連絡しないと全然メッセージとか来ないのに」
お兄ちゃんの暴露に顔が赤くなる。僕は自分でも子供っぽいと自覚している。
だから頻繁にメッセージを送って悟くんに面倒なやつだと思われたくなかった。なのにバラすなんて酷い。
「忙しい貴方に気を遣ってるんでしょう。巴、この人に遠慮は要りませんからね」
「心外だけど、まあ同感」
お兄ちゃんと悟くんにそう言われ曖昧に頷く。
「巴が連絡寄越さなくても僕がするからいいんだけどね」
そんな悟くんの優しい言葉に嬉しくなって思わず抱きついた。お兄ちゃんがこの世の終わりのような顔をしていたけど気の所為かもしれない。
最強たる僕にだって怖いものがある。
今は七海がとても怖い。
付き合い始めは本当に知らなかったのだ。この子が七海の弟だなんて。
同じ名字だな、くらいにしか思っていなかった。別に七海って名字も凄く珍しい訳でもないしね。
付き合って暫くして家族写真を見せてもらった。その時に初めて知ったのだ。
この子にも術式があって、それでも高専に通っていなかったことから七海はこの子を呪術界に関わらせたくないのだろうと察した。
だから僕も手を引くべきだというのは分かっていた。けれどどうしてもその手を離せなくて結局僕の元に縛り付けてしまう。
そんな僕を七海は許してくれるだろうか。
七海の家を訪ねた時、数発殴られることは覚悟していた。僕といるとこの子に危険が及びかねないし、何かあった時僕がこの子を優先できるとは断言出来ない。僕はこの子の幸せを約束できないのだ。
それでも僕は巴といたかった。名前の通り陽だまりのような子だった。
七海に会っていつも通り飄々とした風を装ったけれど、背中に変な汗はかいているし落ち着かない。
そしてやはり反対された。
胡乱気な目で僕を見てくるし、その目には断固反対と書いてあった。
それを覆したのは巴だった。
巴は僕じゃなきゃ駄目だと言ってくれた。六眼や無下限なんて物を知らない巴が僕を欲してくれた。その言葉がどれだけ嬉しかったか巴は知らないだろう。
そんな僕に気付いたのか七海は結局許してくれた。
そして巴を優先しろとも言わなかった。出来ない約束はさせないなんてとても七海らしい。
それはそうと高専時代はちょっと遊んでただけだけど、それをバラされると“かっこいい悟くん”像が台無しになってしまう。どうやって口止めしようか。
七海巴
20歳 大学生
バイト先の店長からセクハラパワハラを受けていたのを五条により助けられる
やや幼い顔立ちで七海には似ていない
軽いブラコン
七海健人
25歳 呪術師
(いつ脱サラしたかわからないので、この時点では呪術師ってことで)
高専で学んだことは呪術師はクソである、つまり弟にそんな道を歩ませたくなかった
労働もクソだから弟に働かせたくなさそう
中程度のブラコン
五条悟
26歳 呪術師かつ教師
たまたま立ち寄ったカフェで働く弟くんに一目惚れ
通い詰めていると店長のセクハラ場面に遭遇
颯爽と現れ救い出すヒーローばりの活躍をしたとか
重度の巴コン(巴コンプレックス)
ピコン
「あ、悟くんスマホ置いてっちゃったんだ」
悟くんのスマホの画面を見ると【恵】の文字が。
表示された内容は[明日うち来ますよね?夕飯用意してます]と書かれていた。
浮気とか疑いたくないけれど、でもこれって…。
恵くん特別意訳
(俺は呼んでないけど)明日うち来ますよね?(津美紀が)夕飯用意してます(だから無駄にすんなよ)
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