皮膚の下で生きていたい



※人食を仄めかす描写あり(主=喰種)



辺り一面は暗く、疎らに立つ街灯と民家から洩れる光だけが道を照らしていた。季節のせいか、日が暮れるのが早い。街灯には数多の
蛾をはじめとした夜の虫が集っていて、どうにもその下を通る気にはなれなかった。
段々と喧騒を帯びてゆく街を早足で抜けて、複雑な路地に入った。はじめは迷ったこの道も慣れてしまえば楽なものだ。
カラフルなネオンの光のもと密かに肩を寄せていた少女たちが、こちらを見た途端縄張りを主張するかの如く睨んできた。単純に警告しているのかも知れない。その刺々しい視線に柔らかく微笑んで、ばつの悪そうな少女たちの前を素通りする。
ふと思う。健康に気を遣うおじさんと、君たちみたいに薬物漬けの女の子。一体どちらが美味しいんだろう。
今度試してみようか。獲物に選り好みはしない質だけれど、純粋な好奇心による食べ比べだ。許されるはずだ。
冷え切ったコンクリートジャングルの果て。絡み合った巣窟の奥。目的の扉を開けて、作業中の店主に声を掛けた。

「ウタさん、名前です」
「あ、いらっしゃい」

作業を一旦止めて僕の顔を確認したのち、小さく笑った。奇抜な容姿と、このふわふわとした性格。はじめはギャップに戸惑ったけれど、"アーティストだから"というナンセンスな理由で納得することにした。
最近の日課は、こうしてマスク製作に勤しむウタさんをひたすら見ることだ。
彼はまた再びマスクに手を加えていく。そのたびマスクは形を変え、彼のイメージへと近づく。それを見て彼は表情を数多に変え、うっすらと微笑むのだ。

「……ねえ、名前は見ていて飽きたりしない?」
「ウタさんは同じもの造ったりしないでしょう?」
「しないね」
「だから飽きたりとか、ないです」

飽きたりなどするものか。僕はあなたが好きで、あなたの指先が、脳が、感性が生み出す作品が好きだ。
彼にとっての僕ってなんだろう。紅い瞳には、どんな風に映っているのだろう。

「君を見てると飽きないよ」
「奇遇ですね。僕もです」

あなたの皮膚に刻まれた文字。学がない故難しい言葉は読めないのだけど、前に意味を教えてもらった。そしてそれに対するウタさんの思いも教えてくれた。僕もそうありたいと思う。
ヒトよりちょっぴり頑丈な体と命を携えて、今日も明日も、無事平和に生きていられるうちはここに通いたい。この空間の空気でありたい。我儘だろうか。
願いが叶うのなら、ひとつだけ。僕という小さな存在があなたのこころに引っ掛かりますように。


/20141010
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