01
訓練兵の中には、おかしな奴がいる。
無駄に壁の外への志が高い奴、初日に芋を食っていた奴……。凡庸な奴も多いが、変わった奴も一定数いる。
変わった奴な程まあまあ優秀で上位十名の憲兵団争いに関わったりするのだ。
そんな中今まで"普通"だと思って気にも留めなかった奴が、急に気になり始めた。
名は名前。
部屋が同じなこと位しか接点が無かった。ある日を境にがらりと印象を変えた。
違う。ただ見た目や言動からでは分からなかっただけで、やはり変わった奴だったのだ。
はじめは、味オンチの部類かと思っていた。
たまたま調理担当がミスをして、普通に作っても微妙なスープがさらに不味くなったある晩。皆がいやいやスープを啜るなか、名前は顔色ひとつ変えずにあっさりと飲み干したのだ。
「……お前、よくこんなの飲めるな」
「大事な栄養だから」
「けどよぉ……」
つい、声を掛けた。彼は困ったように笑いながら空のスープ皿をスプーンでつつく。
その流れで改めて自己紹介をした。ウォールマリア出身で、家族を亡くしたらしい。
「よろしくな、名前」
「こちらこそ。ジャン」
名前は座学が苦手らしい。
開拓民として労働しているうちに抜け落ちたのだと本人は語っていたが、なんだか嘘臭い。
しかし、疑うのはよくない。
飲み込みの悪い名前に自分の復習も兼ねて教えることが多くなった。
名前がお礼として仕事を代わりにしてくれている手前、咎める気にはならなかった。
「……あのさ、ジャン」
「なんだ?」
今日は自分達の班が食事当番だった。皆で着々と調理を進めていく。自分と名前はスープを担当していた。
「……スープの味見任せていい?」
「は? お前もしろよ、サボるな」
「違うんだ、味がよく分からないから」
「味オンチか? でも念のため味見しろよ。ちょっと多くスープ飲めるぜ、微妙だけど」
名前は一度開きかけた唇を閉じた。
瞳がやけに揺れている。
なにをそんなに動揺している? 揺さぶることを口にした覚えはないが。
「……ジャンが誰にも言わないだろうって勝手に思って言うな」
「なんだよ」
「……俺、味覚が機能しないんだ。意味ないだろ。だから、頼むよ」
背後から殴られたような衝撃。
信じられないのに、名前は真剣にこちらを見つめてくる。
頼むよと半ばすがるような声色で懇願され、反射的に頷く。
「……ありがとう、ジャン」
「おう」
ぎこちなく視線をそらして、名前が鍋から掬ったスープを飲む。味はよく分からなかった。
結局、皆で味見した方がいいと無理矢理な理由で解決させた。
名前は悲しげに再びありがとうと囁いた。
/20130818(なくしたと紡ぐ唇)
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