05



冷たい体を抱き抱え直す。
あまりにも多くの血を失い、だらりと弛緩した体が馬の上で不安げに揺れる。
ジャンは名前を抱えながら馬に乗って北上していた。

「おい、名前」
「……」

途中から合流してきた名前は、それはもうひどい怪我だった。
止血を怠ったせいでかなり失血していた。
ここまでなんとか保っているが、壁内に戻る頃には真っ青で冷たく、遂には死にそうにすら思えた。

それに、先程から返事がないのも不安だ。
なんとか生きて戻って帰れた。
もしかしたら死んでしまったのではないかと思いながら馬から下ろす。
抱きかかえたまま耳を近付ければ、浅く息をしていたのでほっとした。
名前はすぐさま救護室に運ばれ、治療を受けた。
普通に動ける俺は彼に付き添うことにした。
名前は思った通り失血により重傷だと判断されたのだった。
よく生きていたねと医者に言われ、自然と眉が寄る。
……無茶しやがって。



ベッドに横たわる彼がなんだか消えそうに見え、急な不安に襲われる。
手を伸ばせば、冷たい頬に触れた。

「……ジャン」
「名前、大丈夫か」
「うん、なんとか」

その声はあまりにもか細い。
力が上手く入っていない腕が、ゆるく俺を掴んだ。指先はもっと冷たい。

「……寒い。あっためて」
「しょうがねぇなぁ」
「ん、ありがとう」

傷口を上手く避けて名前の隣にいく。
狭くて簡素なベッドが軋んだ。

だらしなく顔を弛緩させた笑み。睨んでもただ笑うだけ。頭も血が足りないんじゃないか。

「ジャン、唇切れてる」
「ん?」

つんつんと唇の右端をつつかれ、確認しようと指でなぞろうとしたところで、生温いものが傷口を掠めた。
名前の舌だ。
こいつが一体何をしているのか、直ぐには分からなかった。

「あ、やっぱりジャンの血もおんなじ味がする」
「……お前、戻ったのか?!」

嬉しそうに名前は頷く。
なんでも、巨人に襲われて死にかけたら戻ってきたらしい。

「……よかったな」
「うん」
「あんま吃驚させんなよな」
「ごめん」

冷たい体を温めるためか、それとも名前にただ触れたいだけなのか。
傷口を気遣いながら、毛布ごと名前を抱き締める。
痛いか、大丈夫、目線だけでやり取りをして、冷たい頬を何度もなぞる。
目が優しく細められた。

「……キスしたら確実に血の味だよな」
「俺は別に血の味でいいけどね」
「おい、危ない趣味に走るなよ」
「走らないし……。なんかお腹すいた」

――ジャンでいい?
物騒な言葉を吐いた名前の唇に、自分の唇を重ねる。
予想通り、うっすらと血の味かした。

「……美味しい」
「どういう意味だ」
「好き、ってことかな」

それなら今は許そう。
味わいたいなら好きにしやがれ。

「俺もだよ」

また唇を寄せる。
紛れも無い血の味だった。


/20130819(完)
好きな設定、展開で楽しかったです。
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