01
壁外の古城。すっかり夜になり、巨人たちの気配はなく、澄んだ夜空と広大な森林が広がっていた。二人の男女がマントを靡かせながら闇夜を駆けて行く。
食堂に会していたリヴァイ班一同。食後の紅茶を丁度ペトラが淹れ終わったところだった。バターンとけたたましく扉が開けられる。
「やあ、みんな元気かい? リヴァイは今日も湿気た面してるね!」
ハイテンションで挨拶をするこの人は、ハンジ・ゾエ。巨人を誰よりも愛する変人っぷりも相まり、かなり名前が知られている人物である。ハンジが目的の人物であるエレンに話しかけている最中、もうひとりが遅れて食堂に現れた。
名前だ。――人類最強と呼ばれるリヴァイと同じく地下街出身、東洋人の血を引く美しい見た目で知らぬ兵士はいないと触れ込みである。
二人とも数々の噂と、かなりの実力を有する調査兵団の有名人であった。
「……おい名前、遅いじゃねーか」
名前に向けてリヴァイの発した言葉に皆がさあっと凍りつく。だが彼は表情ひとつ変えずに淡々とリヴァイに向けて事情を告げた。
「ハンジが馬も繋がずに走っていったから事後処理、許せ」
「あ、名前ありがとねー!」
「バカ、馬ぐらい繋げ」
げんなりした名前を軽快に笑い飛ばすハンジ。そうか、と無表情で流すリヴァイ。他の面子はこれでいいのかと互いを見ては首を傾げる。実際彼らの付き合いは長い。
微妙な空気のなか、気まずそうに名前はエレンに歩み寄った。
「……俺は名前。皆より遅れたけど、これからリヴァイ班として合流するからよろしくね」
「よ、よろしくお願いします!」
エレンは差し出された白い手をぎこちなく握って、改めて名前の顔を見た。自分の記憶に狂いはない。エレンは一度だけ名前の顔を間近で見たことがあった。
名前はエレンがまだ訓練兵のとき、東洋人の血を引くミカサを訪ねてきたことがあった。いきなり食堂の扉が開き、ミカサやエレンたちの座るテーブルまで歩いてきたのだ。ひどく整った顔立ち。皆がこぞって騒ぐのも頷けるものだ。
ミカサは一時席を外し、何やら二人きりで話をしていた。彼が帰った後に、ミカサは同輩に色々聞かれたようだったが、口を割ることはなかった。東洋人同士なにかあったのだろう。
「ミカサちゃんの幼馴染みだったっけ」
「そうです」
「いや、確認しただけ。ありがとう」
「は、はい……」
ふわりとエレンに笑いかけて名前は踵を返してリヴァイの方へ歩いていく。リヴァイに何やら耳打ちをし、リヴァイは頷いた。
「じゃあ、下がらせて貰うね」
「えっ、もうですか?」
「色々片付けないと……遅れを明日に響かせるわけにはいかないし」
「じゃあ私、手伝います」
「ありがとうペトラ」
彼はペトラを引き連れて部屋を後にする。再び大きな音を立てて扉が閉まった。
「……」
名前の目は皆とは違う。何が違うのか分からないが、その黒い瞳の奥に潜むものをエレンは恐れていたし、知りたいとも思った。
/20130810(脳内占拠の騒音)
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