あまくてつめたい恋心
※夢主(社会人)と赤司(高校生)
完璧なまでに積み上げられているであろう赤司の人生に、少しずつ俺という存在を滑り込ませてみたい。いつか俺がいなくなったら全てが崩れてしまえばいいと願ってしまう。将来そうなるのならば、それはとても幸せなことだ。
歪んだ俺と、何も知らない赤司。綻ぶこともなければ、何かが補正されることもない不思議な関係。
茹だるような夏の夜から解放され、ようやく自宅に戻ることができる。電気が灯っているのが見えたが、それが合鍵の持ち主によるものならば構わない。鍵を開け、彼に声を掛ける。
「赤司ただいま。連絡くらいしろよな」
「おかえり。昨日電話の最後に言ったはずだが」
「悪い……全く記憶に無いんだけど」
呆れた。そう呟かれ、溜め息を吐かれた。返す言葉もない。
べろんべろんに酔った挙げ句、真夜中だということも配慮せず赤司に電話をかけた――それ自体は覚えている。肝心な内容はちゃちな脳味噌から完全に抜け落ちていて、これっぽっちも思い出せなかった。やることなすことが残念で、我ながら悲しい。
「ほどほどに、と言っただろう」
「うん、そうだね」
高校生に酒についてたしなめられる社会人ってどうよ。恥ずかしいことこの上ない。
一応それなりの仕事を任せられている身とはいえ、人間として出来ているわけではない。よっぽど目の前で説教を垂れ始めた赤司の方が出来た人間だ。周りからはその冷徹さを責められたこともあったのだが、人間いつかは皆冷めていくものだ。何が悪いのか分からない。ーー以前そう言ってやったら何故かありがとうと返された。今時の人間関係は複雑だなぁ。
「……でも何で来たの? 忙しいとか言ってなかった?」
「名前さんが寂しいと泣きついてきたので」
「俺そんなことまで言ったの?!」
「はい」
昨日の自分の言動に心がへし折れそうになる。記憶のないうちにどれだけ彼に無茶を言ったのだろう。申し訳ない。けれど、それによって今日会えているのだから良しとすべきか。
いや、そもそも優秀なお坊っちゃんの赤司が凡人な俺にわざわざ時間を割いてくれている時点でそうか。関係性のカテゴリーはおそらく恋人だし、こうして俺の要望にも健気に応えてくれている。
本当に恵まれていると思う。この立場を誰かに譲るつもりは毛頭ないし、誰かに自慢したいわけでもないけれど、声高に叫びたい気分だ。
「そうだ、赤司」
「はい」
「アイス食べようか」
お前が幼少から食してそうなお高級じゃないやつ。乳脂肪分の規定による名称がアイスクリームじゃないやつ。ラクトアイスとか氷菓とか言うやつ。スーパーの特売で買った一箱に何本も入ってるやつ。
冷凍庫を漁ろうとキッチンへ入る。赤司が背後から責めるように声を上げた。
「名前さん、夕食は」
「昼御飯食べ損ねたからもう食べた」
「……また不健康な」
「いいの。俺みたいな奴は長生きすべきじゃないし……勿論、赤司はいっぱい生きてね」
包装を破いて剥き身のまま渡してやる。赤司はそのまま大人しく受け取って口をつけた。練乳の安っぽい甘さに顔をしかめたのが分かる。
「……甘い?」
「甘すぎると思います」
「そう?」
べろりと垂れてきたアイスを舌で掬い取り、へらへら笑いながら赤司を見る。
「最近別用途のために貯金してるから安い奴しかこの家にないんだ。勘弁してよ」
「貯金?」
「そ。いつでも赤司と逃避行できるようにね」
「……っ!」
強ばった赤司の顔。片方の手で優しく頬を撫でながら、俺から逃れようとする鼓膜へと直接語り掛ける。
「誰がどんなにお前を責めようと、俺が許すよ。どうしようもなくなったら俺の所においで。一緒に逃げちゃえばいいんだ」
俺は世間一般の大人としては不適合なんだろうけど、この目の前にいる子供を守れる大人でありたい。間違っていると言われても、俺はそれでいい。
別に英雄願望なんて持ち併せていないから、俺なんかを好きだという可愛い子供の事しか考えていない。独善的で結構。
「……かないませんね」
「何が? ほらアイス溶けるよ」
赤司がやっと頬をゆるめた。俺はね、君のそういう顔が見たくて仕方ないんだ。
/20140822
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