いつかの恋



「先輩」

彼女はスカートを翻して駆け寄ってきた。両足を揃えてぺこりとお辞儀をし、朝の挨拶をしてから、最近寒くなってきましたが体調はいかがでしょうか、とまるで社会の付き合いめいた言葉を投げてくる。おう、と返せばそれはよかったと顔を綻ばせ、やっと本当に俺が待ち望んでいた言葉を口にした。

「宮地先輩、お誕生日おめでとうございます」
「ありがと。つか言うのが遅えよ、開口一番に言うべきだろ」
「ちゃんとした順番を踏まえなくては失礼じゃありませんか」

申し訳なさそうに眉尻を下げるものの、これは彼女にとって外せないことらしい。うちのエース様の我儘に比べれば可愛いものなので、了承の意味を込めて頭を撫でた。

「いきなりは緊張するので慣れるまで暫くの無駄話は許してほしいです」
「饒舌なわりに緊張するんだな」
「私、宮地先輩が好きですから」

変わり者、だと思う。
顔だけで近寄る女はいたけれど、素の俺を見て好きだと言ってきた女は初めてだった。最初のうちは好奇心だけで付き合っていたものの、直ぐに惹かれるものを感じた。
華奢な体格をしているのはそっちのくせして、俺をまるで壊れ物みたいに扱ってくる。何かあってはいけないとあたふた思案し、手を回す。俺のことを第一に考えてくれる。他人目から見たら可笑しく映るのだろうか。

「先輩、ポッキーと手作りマフィン、どっちがいいですか」
「両方」
「みゆみゆのサイン入り写真とバスケ関連消耗品、どっちがいいですか」
「待て、どこで入手した」
「愛の力、もとい親戚のコネクションです」
「……どっちも貰うに決まってんだろ、わざわざ聞くな轢くぞ」
「ありがとうございます。先輩が優しくて嬉しい限りです」

プレゼントが入っているであろうラッピングされた袋と、小腹が空いたら食べられるよう箱に入ったマフィン。それからお友達をからかうのにどうぞとポッキー二箱。持ち運びやすいようにすべて紙袋に入れて渡してきた。用意が良すぎるにもほどがある。
時々、こいつの頭はどうかしているのではないかと疑いたくなる。その行動力はどこから来るのだろうか(自惚れている訳ではないが多分俺)。どの流れでその台詞なのか、全くついていけない。けれど、悪い気はしない。寧ろ嬉しく感じている。
幸せそうに笑っている手前、何も言えない。細かいことは気にしないことにした。俺も彼女も幸せならそれでいいじゃないか。
楽しそうに自分の前を歩く彼女の名前を呼ぶ。
返事をして元気よく此方を振り向いた柔らかな頬に軽いキスを落とした。あまり調子に乗ると逃げられてしまうが、今日の主役を放って逃げ出すほど愚かなことはしないはずだ。
今日だけ、ほんの少し無茶をさせて欲しい。

「……せん、ぱい」

案の定茹で蛸みたく赤面している。ぱくぱく言葉にならない呼吸を繰り返して、目を細めた。

「私本当に幸せです。死んでもいいくらいです……いつかこんな高揚感の中死にたいものですね」
「縁起でもないこと言うな、させるかよ」
「先輩がお望みなら、何だって」

できますよ、とは言わなかった。その代わりに構いませんよ、と言った。
そしてまだ赤みが残る顔であどけなく笑ってみせた。



/20141111

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