おとぎ話の仕舞い


 ジェイドの目の前には、暗い空間の中に壊れた額縁や割れたガラスが広がっていた。食べ物の匂いもすることなく、人気のない廃屋にはただただ冷たい風が流れていた。ジェイドは廃屋の中へ進んでいく。

 聞こえるのはジェイドが歩くたびに軋む床の音と、隙間風ばかり。元々リビングルームだったであろう広い部屋に入ると、窓際に写真が飾ってあった。そこには、見覚えのある少女の笑顔が写っている。

「無事、帰り着いたんですね」

 彼はその笑顔に微笑みを返して、廃屋を後にした。



 ジェイドはナイトレイブンカレッジまで戻ってくると、モストロ・ラウンジ店内にあるVIPルームを訪れた。彼の兄弟と友人が、彼が戻ってくるのを心待ちにしていた。テーブルの上には、ジェイドが作成した「おばけ山」で採れる魔法物質の資料、数年前の落雷事故に関する新聞記事、学生たちの証言を集めた資料が広がっている。

「ジェイドおかえり。うまくいったんだ」
「ええフロイド。彼女は無事、旅立っていきました」
「貴重な素材を見つけた上、哀れなゴーストの未練を晴らして山の出入りを容易にする、こんな大掛かりな計画を成功させるとは思っていませんでした。よくやった」
「ありがとうございます。アズール」

 アズールは得意げな顔をして、今までの功績を振り返る。ジェイドが「山を愛する会」の活動中に偶然見つけた薬草……通常であれば数時間かけて危険な森の中でしか手に入らないとされる貴重品。ジェイドが調査していくうちに、それを始めとする多数の魔法物質が、ナイトレイブンカレッジの向かいにある山で採れることがわかった。しかし、そこはアズールたちが入学する何年も前から、心霊現象により散策が困難とされていた。その上、近年では学生向けの心霊スポットとして有名となってしまい、まともに素材を徴収することが難しいとされていた。彼らは何度もしもべであるイソギンチャクをつけた生徒に向かわせたが、失敗に終わるばかりで頭を悩ませていた。


 ジェイドはテーブルの側まで寄ると、落雷事故の取り上げられた新聞記事を手に取り眺めている。アズールはそのまま言葉を続けた。

「……人に触れたいと言われたときは、さすがに僕も驚きました。フロイドも気づいていたなら、早く言えばスムーズに進んだものを」
「だって、絶対アズールの反応面白いのわかってたから。実際面白かったし」
「まあしかし、彼女の未練を晴らすこともできて、僕たちも貴重な材料を手に入れることができました。やはり人助けというものは気分をよくさせますね、ジェイド」

 ジェイドは、アズールに話しかけられてやっと新聞記事から顔を上げ、2人を見た。

「……ええ。そうですね」
「ジェイドは、部員がいなくなって寂しいんじゃないのぉ」
「それはもう、寂しいです。アズールとフロイドは山に興味すら持ってくれませんし」
「興味はありましたよ。ただ、山登りの魅力は僕には理解しがたい」
「この間行ったからいいや」
「残念です」

 ジェイドは2人に微笑んで見せ、テーブルの上に散らばった資料を丁寧に集めてファイリングし直した。そして自身の右手を握りしめる。先ほどまで一緒にいたはずの彼女の存在を確かめるかのように。


おわり


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