2.口も八丁手も八丁



誰だコレ。こんな人間知らん。
広瀬武夫って広瀬武夫って広瀬武夫って女に潔癖だったんじゃなかったのか。某小説でもしかしてドーテーかもとか言われてたんじゃないのか。ていうか今の今までこの人をそういう風に認識していたんですけれども。

(誰だよコイツ!)

最早コイツで十分だ。
いきなりめっちゃいい笑顔で処女かとか聞いてくるような奴とは思わなかった。
しかしながらやばい。何がやばいってさっきのキスのせいでこのまま流された先にある気持ちよさを身体が期待し始めていることだ。
でも流されたその更に先にはものすごくややこしくてめんどくさい事態が待っているのも確定している。
もちろんさつきはこの家での平和な生活を望んでいるのだから、選択肢はひとつ。

「待て武夫!ストップ!!ハウス!!!」

慌ててそう言い放ち、「ハウスって…」と呟く広瀬を無視して、腰や下胸のあたりをいやらしく這う手を捕まえる。
すると不満が見え隠れする瞳とかち合った。なにが不満だこんちくしょう。

「私は、付き合ってもない人と、そんなことしない」
「ふーん…なら付き合う?」
「え?」
「俺じゃ嫌?」
「は?」
「俺じゃ、ダメかな」

こてんと頭を横に倒していつものように破顔する。
その様子に胸の奥がきゅっと鳴いた。

しかし。
(………)
有無を言わさない行為への持ち込み方いい、今の笑顔といい、なんだか場慣れしすぎている。
そう思うと冷えかけていた頭が、更に冷えた気がした。

これはあれだ。要するに暇潰しのつまみ食いだ。
さっき本人が言っていたじゃないか。遊ばない?と。
それが分かっているのにぶっちゃけときめいた。きゅんときた。悔しいがさつきはうっかり頷きかけた。
今まで何人この手で騙してきたんだ。
さつきは確信する。

――――― こいつは女の敵だ。

「さつきさん」
名前を呼ばれてはっと見上げる。

「沈黙は肯定と取るよ」
「え?…あ、ちょっ…と!」

いつの間にかブラウスのボタンがいくつか外れていて、そこからのぞく鎖骨に広瀬が顔を近づけるとチリっと甘い痛みが走った。

(やばいやばいこれはやばいって!)

いつの間にか自由になっていた両手で抵抗するも、それはまた簡単に、しかも片手で頭上に纏めて拘束されてしまう。流石に冷や汗が流れた。

「ヤらない!付き合わない!」
「え〜…」
「え〜じゃない!本当にどいて!このヘンタイ!!」
「はは。酷いなぁ変態はないよ」
「…!ちょっと変なトコ触らないでよバカ!どさくさに紛れて揉むな!」
「抵抗されると燃えるんだけど」

話を聞けこの馬鹿!!

「ぎゃあああ あっきー助けて!!」
「あはは!色気ねー」

その一言で何かがぶちーんと切れた。

「大人しくしてりゃ調子に乗りやがってこの野郎あんたの ピー もいでこの先一生使えなくしてやろうか」

「…………………え?」


ぽかんとしたその顔は見物だったとだけ言っておく。

(10/12/29)


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