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「東京だー。久しぶりだな〜」

本当に久しぶりの東京だ。一年ぶりかそれ以上か。
東京支社でシステムトラブルが起きたのが昨日の事。本来ならこの案件の担当者が出張する予定だったのに、どうしても手が離せない優先案件ができたからと、さつきにその後処理が丸投げされた。

「問題自体は殆ど解決もしてるし、大丈夫だろうから如月、行って来て。外部の業者が入るんだけどその立ち会い。様子を見る位でいいと思うし。だ〜いじょうぶだって! 何かあった時は電話してくれたら俺も席にいるしさ〜」

だったら支社の人に立ち会ってもらえばいいじゃない。
そう思うのだが、どうもそれではまずいらしく、とりあえず担当部署の人間が行く必要があるとかなんとか、そんな理由で白羽の矢が当たってしまったのだった。

(こっちにだってやらなきゃいけない仕事はあるっつーの。毎日残業してる姿を見た上でそれを私に頼むのか)

いや、皆忙しくて余裕が無いのは分かっている。
でもこっちだってキャパ以上の仕事を抱えて、毎日それなりにぎゅうぎゅうなのだ。
それなのにと思う気持ち半分、物を頼める程度には暇だと思われているのかと悪く考えて凹む気持ち半分。

(仕方ない。仕事だ仕事)
しかし若干ブルーな雰囲気が漂う様子を見ていたのか、
「如月さん。申し訳ないけど頼むよ」
そう上司に頼まれてしまっては快く了承するしかなかったのだが……
「そうだな、有休も全然取ってないだろう。この際だし仕事が大丈夫なら二、三日東京で羽根でも伸ばしてきたらどうだ」
その言葉でぱぁっとさつきの表情が晴れたのを見て、思わず苦笑いされてしまった。

(休めるのか)
二、三日休んだら結構な量の仕事が溜まるのだろうなとは思うのだが、来客の予定はないし急ぎの仕事も今の所は特にない。
休んでもいい。それは何気ない言葉だったのだろうが、我ながら現金だ。
仕事というよりもプチ旅行に出かけるような気持ちになった。

地方に住むさつきは東京に住めといわれると尻込みするが遊びに行くのは好きだ。
東京は博物館も多いし美術館も多い。偶にライブやコンサートの為に上京するし、とにかく行きたいと思う所が多い。
それもここ最近は忙しさに負けて全部見逃してきたのだった。
出掛ける所か大抵の休みは寝倒して、掃除洗濯で終わってしまう。

(どこに行こう。おいしいものも食べたいし。国立博物館も今日なら遅くまで開いてるかな)

立ち会うだけでいいよという言葉の通り、さつきはほぼ業者の作業に立会うだけで良かった。
作業中は特に話す事もないので空きパソコンを借りて自分の仕事をしていたが、考えるのは遊びに行く算段ばかりだ。
休みだ。
これが終わると休み。
本社で忙しくしている先輩同僚には悪いが、そう思うとニヤニヤするのを止められない。
早く作業終われ〜早く作業終われ〜と心中呪文のように唱えていると、声を掛けられた。
「如月さん、終わりました。確認お願いしまーす」
「あ、はーい」
これ以上ないというような明るい声で返事をした。

「作業の方は無事終わりました。はい。詳しい内容はメールでさっき送りましたので確認お願いします」
あいよ〜、ごくろーさん。まだ早いけど上がっていいぞ、という声に内心拳を握り締めると携帯を切る。
時間的にそう言われるだろうと思ってさつきは既に支社を後にしていた。

(どこへ行こう)

信号が青に変わったのを尻目にキャリーバッグを引いて歩き出す。
今はまだ四時過ぎだ。動くにも時間はあるし、カフェかどこかでゆっくり計画を立てるのもいいかもしれない。
そう思った時だった。

キー!ギャギャギャギャ! キャー!

けたたましい急ブレーキの音と共に、多くの悲鳴が辺りに響く。

事故?前が見えないほど混乱した人ごみの中で、近くっぽい、なんかヤバそう、そう思いながら何とか信号を渡りきろうと小走りになった時、ぱっと急に視界が開けた。

「危ないっ!」

そんな声と更に多数の悲鳴が耳に入った時には、すでに目の前に大型車が迫っていて、大きな衝撃と同時に自分の体が宙に浮いた。
死ぬのかな。
そう思う頭の片隅で、車に跳ね飛ばされた時世界がスローモーションで回転するって話本当だったんだ、そんな呑気な事を考えながら、そのまま意識を失った。











「おい、大丈夫か」

ふっと意識が浮上した時、掛けられたのは多分そんな言葉だった。

(生きてる……?)

軽く揺すられて、ゆるゆると瞼を上げると暗い世界にゆっくりと光が差し込んでくる。
薄ぼんやりとした意識の中で視界に写り込んだのは濃紺の詰襟を着た人物だった。



陳腐な滑り出しですいません

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