異常な日常


突然降ってきた冷たい水。

ポタリ、ポタリ、と自分の長い髪の毛から、
水が滴るのを見てやっと状況を把握した。
水をかけられたんだ。
昨日のゴミよりはマシだと思う私は
おかしいのだろうか。


「Good Morning,Yellow!!」


キンキンと煩い声が談話室に響く。
目の前には私の大嫌いな
あいつが立っていた。

「アンタも懲りないわね……
もしかしてわざとされにきてんの?」

ニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべる、
そいつの名前は、ローラ・グランディア
緩くパーマをかけた髪を、
前髪と一緒にまとめあげている。
上がり気味の眉毛がキツそうな性格を表していた。


「ちょっと……無視?」


ツカツカとこちらに近づいてくる。


「.....聞いてるわよ、おはよう。ローラ 」


するとローラは心底嫌そうな顔をして言い放つ。

「うへぇ、名前よばないでくんない?陰気が移っちゃうわ」


じゃあどうしたらいいんだ……
本人には言えないけれど。

毎日毎日理不尽なことを言いつけられる。

もう慣れてしまった。


「ほんっと朝からそののっぺり顔、
どーにかなんないワケ?
見ててムズムズしちゃう……わかる?」

そういうと、ローラは手を振りあげた。
バシッという音と同時に頬が
じんわり熱くなった。


「…… 何?その目。文句あるの?」


わざとらしくキョトンとした顔をするローラ。
前までは言い返していたけど、
今ではされるがままになってしまった。
怒りも湧かない。もう疲れた。


「……ないよ」


あっても聞いてくれないでしょ?
とは言わないでおいた。


するとローラが急に笑い出した。


ねぇ、みんな!


「こいつ打たれても文句ないんですって!
とんだクレイジーだと思わない?」


そういうと周りがドっと湧いた。
なにが面白いのか、みんな私を指さして笑ってる。
私は耐えきれず俯いたまま立ち尽くしていた。


「ねえ、ローラ、もう朝ごはん食べに行こ〜。
私お腹空いた〜」

「……そうね、朝のご挨拶はもうこの辺でいいわ 」


ローラの取り巻きがいうと、彼女は踵を返して談話室を出ていった。


傍から見たらこれは異常な光景かもしれない。
だけど、私たちにとってはこれが当たり前の光景になっていた。


あの日、4年生になって半年たった頃、両親が闇堕ちしたと報告があった。
噂っていうのはどこから湧いてくるものなのか。
その情報は瞬く間にホグワーツ中に知れ渡った。


ーーフローレンス一家は闇側の仲間だった!!


まあ間違っていないんだけど。
私の親はそうなってしまったのだけれど。


親がそうなら子もそうだ、という単純極まりない結論によって、私の周りは一変した。

昨日まで一緒に話してたハリーやハーマイオニーたちは気まずそうに私を避けるようになった。
誰も私と会話をしてくれなくなった。
周りの視線が攻撃的になった。
すれ違いざまに罵声を囁かれることもあった。
そうして、先ほどの女子生徒、ローラを筆頭に私へのいじめがはじまった。


ローラとはあまり関わりはなかったのだけれど、
グリフィンドールなのに少し意地悪な性格が顔に滲み出ているので、私は前から好きじゃなかった。
現に今、噂が流れた途端にこれだ。
ほんと、いい性格してるわ。


毎朝、ローラは【朝のご挨拶】と称して私につっかかってくる。

スリザリンのマルフォイがハリーにするあれとは違って、ローラのは陰湿だ。


「(まあ今日はまだマシだったかな)」


機嫌がよかったのかもしれない。


水をかけられ、片頬を打たれるのがマシだと感じてしまうところ、私も大分イッちゃってるんだろう。



ーーだけど、今日はちょっと違った。



ふっと後に気配を感じた。

振り返ると、そこにはハリーが気まずそうに私をみていた。


「ぁ.....は、ハリー.....」


後ろにいたのらハリーだった。

突然のハリーに驚きすぎて、しどろもどろになりながら話しかけた。

「え、あの、ハリー、その、え、っと、」


突然のタイミングに、ちょっと嬉しくなる。
今ならちょっと話せるかもしれない。
噂は誤解だって言うんだ、それとおはようって、
あれ逆かな、えっと、えーっと.....!!


久しぶりに対面した嬉しさと緊張でワタワタしてしまう。



だけど、ハリーは意を決した様に目の色を変えた。



「打たれて何も思わないの?言い返したりしなよ。………ヴォルデモートがバックに付いてるんだから……」


………え?


言ってる意味が理解出来ず、何も言えなかった。
私のそんな様子を全く気にせずハリーは通り過ぎようとする。

「どういうこと、それ」

「.....君は僕らを騙してたんだ。」

「私は騙してなんかないわ……私だってなにも知らなかったのよ!」

「嘘言うな!!騙して僕らの情報を、闇側に流してたんだろ.....!? 」



違うよ、そんなこと、してないよ


言わなきゃいけないことが、どうしても声にならない。



「君のことは友達だと思ってた.....信じてたのに.....」


今にも泣き出しそうな顔でそう言って、
彼は私の横を過ぎ去っていった。





ボーーン ボーーン.....

談話室にある鳩時計が鳴り響く。
その音にハッと我に返る。


朝から何時間ココに突っ立っているんだろう。
ローラにかけられた水はもう乾いていた。
自分がこれだけ長い時間ここに立っていたことにも驚いた。

周りにはもう誰もいなかった。


授業さぼっちゃった。


そんなことよりも、ハリーのあの表情と声と言葉が忘れられなかった。

前まで、あんなに仲が良かったのに。
同じマグル出身で、話が盛り上がったあの頃が懐かしい。

もう元に戻れないんだろう。
そしてもう誰も私と会話してくれないんだろう。
戻ったとしても、元の仲には戻れない。


味方が、いない。


ずっと分かっていたのに、今やっと理解したような気がする。

大好きな両親はもういない。
大好きな友達ももういない。


今、私はなんでここにいるの?


特に志も夢もなかった私にとって、両親と友達を失うということは、自分の存在意義を失うこととほぼ同等のことだった。


ぐっ.....と目頭が熱くなる。


「.....なんでよ.....なんでわたしばっかり.....ッ! 」


誰に対しての怒りなのか、もうなにもわからなかった。

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