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夢探偵フロ イトという小説をオーディオブックで聞いたのですが、なんだか妄想力がかき立てられたので小話を。
*オタ森表記はミスではありません*
私立未来世紀大学の、人目を忍ぶように存在する幽霊森。そこにひっそりと建つプレハブ小屋が、夢科学研究所である。
土曜の夕方、派手なパンツがはためくその小屋に、こんこんこん、と小さなノックが響く。どうぞと言うヲタ森の声の後、薄くドアが開いて凪が滑り込んできた。
「オタ森くん、聞いてよ」
小屋の中には、この研究所のクリエイターであるヲタ森1人。室内を見回した凪は、彼の元に歩み寄る。
「どうかしたんですか?」
ヲタ森はパソコンから視線を外して体を凪へと向ける。普段は声をかけられたところで顔も上げないところだが、彼女に対しては別だ。懐いているのか餌づけされたのかは定かではない。
「ぐちってもいい?」
「珍しいですね、いいですよ」
「その前に、今日はお土産ないんだ、ごめん」
別に毎度毎度お土産を持ってくる必要はないのだから謝る必要はないのだが、彼女は律儀に謝罪する。少しばかり残念に思いながらも、ヲタ森は「そんなこと気にしないでください」と告げた。それでなくても彼女はよく食べ物を持ってきてくれ、自分でもがめついと思っているヲタ森でさえも、多少申し訳ないと思っているのだ。
そうこうしているところに、若くして教授であるフロイトと、不足している単位をもらうために手伝っているあかねがそろって現れた。バラ園で会って一緒に来たのだという。
「凪さんどうしたの?なんだか表情が暗いね」
フロイトが目敏く声をかけてくる。
凪は「先生も聞いてくださいよ、あかねちゃんも」と話を始めた。
彼女はある中小企業で事務員をしている。そこのまあまあ年配でパソコンの苦手な男性社員が、自分の作った見積書を確認してほしいと持ってきたのだった。
「これがもうエクセルの数式は無視して数字そのまま入ってるし、下請けからもらった見積もりの漢字が読めなくて読めない字だけ飛ばして打ったとか言うし…」
「はあ?なんじゃそら」
ヲタ森が呆れ、フロイトはあらあらと眉を下げ、あかねでさえもええ…という顔をしている。
「それでやんわり直したほうがいいところを伝えたんだけど、もう先方には下請けの見積もりの時点で見せてるからいいとかいうんですよ」
風が出てきたのか、幽霊森の草木がざわめく。
「営業さんには営業さんのやり方とか、あるんだとは思うんです。ちゃんとした見積りうんぬんはもちろんですけど、まず自社の見積もりを社内で回して、外に出すオッケーをもらう必要があるわけなんです。その前に社外に出したら意味ないじゃないですか。ルールは守るものだと思うんだけど…」
凪はそう言って疲れたように下を向く。
「わたしはただ、誰にも恥ずかしくないように、胸を張って生きたいだけなんだけどなあ…」
凪のつぶやきを聞いたヲタ森が、彼女の隣へやってきた。
どうしたのと首をかしげる凪に、「手出して」と唐突に告げる。
「え?」
「いいから、早く」
理解できず聞き返した彼女をさらに急かし、胸の前に出された両手の上に、包みを一つ落とす。
それはハッピーターンだった。ヲタ森が非常食と称して大事に大事にとっているお菓子である。
「いいの?」
彼にとって大事なものだと知っている凪は、驚いてその長身を見上げる。
「たまにはね」と言って、ヲタ森はデスクに戻っていった。それに驚いたのはあかねである。
「ヲヲヲヲヲヲヲヲタ森さんが!食べ物を!あげた…!」
声を大にして彼のそばへ近寄ると、「わたしにもください!!」と手を出す。
「ペコはだめ」
「ええええ、なんでですか⁉いいじゃないですか減るもんじゃなし!」
「減るもんでしょうが、ばかなの?」
しっし、とヲタ森は手を振る。
「オタ森くん!」
あまりのできごとに呆然としていたはずの凪が、すごい速さでヲタ森の後ろに移動して、彼の名前を呼んだ。
「え?」と驚いて振り向くヲタ森の頭を、後ろから抱きかかえる。
「きみはいいこだねえ!!」
「〜〜〜〜〜っ⁉」
ヲタ森は目を白黒させて腕をばたつかせるが、それにもかまわず彼女は頭をなでる。
ひとしきりなでまわして満足すると、凪は耳を真っ赤にさせてデスクに突っ伏すヲタ森など気にもせず、もといた椅子へと戻っていった。
そしてもらったハッピーターンを、きれいなガラス玉でも見るように蛍光灯に透かして見る。
「あかねちゃん、半分こしよう?」
凪は一緒にハッピーターンを見ていたあかねに、それを掲げて見せる。
「え、でもそれは凪さんがもらったものだし…」
「一緒に食べたほうがおいしいよ、きっと」
ね、と微笑まれ、あかねは満面の笑みでうなずく。
ぱきっと音をさせてほぼ半分になったそれを、あかねはつまんだ。
「わたし難しいことはよくわからないけど、凪さんの味方ですから!そんなおじさんにはばちがあたりますよ!」
「うふふ」
こぶしを突き上げんばかりのあかねに、凪はうれしそうな笑みを浮かべる。
「あかねちゃんもいいこだねえ!」
よしよしと頭をなでられ、あかねはしあわせそうに目を細めた。
「ぼくも、全面的に凪さんに賛成。色々あるとは思うけど、せっかくならちゃんと生きたいよね」
3人の様子を楽しそうに眺めていたフロイトが静かに口を開く。
一瞬目を大きくした凪は、フロイトの前に立つとその頭に手を置いた。
「先生も、いいこ」
「いや、ぼくはいいこって年じゃ…」
「いいんです、大人だっていいこいいこしてもらったって」
珍しく照れている様子のフロイトに、凪は笑みを深める。
幽霊森のプレハブ小屋は、穏やかで優しい空気に包まれていた。
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*疲れたOLを癒す夢科学研究所の面々**オタ森表記はミスではありません*
私立未来世紀大学の、人目を忍ぶように存在する幽霊森。そこにひっそりと建つプレハブ小屋が、夢科学研究所である。
土曜の夕方、派手なパンツがはためくその小屋に、こんこんこん、と小さなノックが響く。どうぞと言うヲタ森の声の後、薄くドアが開いて凪が滑り込んできた。
「オタ森くん、聞いてよ」
小屋の中には、この研究所のクリエイターであるヲタ森1人。室内を見回した凪は、彼の元に歩み寄る。
「どうかしたんですか?」
ヲタ森はパソコンから視線を外して体を凪へと向ける。普段は声をかけられたところで顔も上げないところだが、彼女に対しては別だ。懐いているのか餌づけされたのかは定かではない。
「ぐちってもいい?」
「珍しいですね、いいですよ」
「その前に、今日はお土産ないんだ、ごめん」
別に毎度毎度お土産を持ってくる必要はないのだから謝る必要はないのだが、彼女は律儀に謝罪する。少しばかり残念に思いながらも、ヲタ森は「そんなこと気にしないでください」と告げた。それでなくても彼女はよく食べ物を持ってきてくれ、自分でもがめついと思っているヲタ森でさえも、多少申し訳ないと思っているのだ。
そうこうしているところに、若くして教授であるフロイトと、不足している単位をもらうために手伝っているあかねがそろって現れた。バラ園で会って一緒に来たのだという。
「凪さんどうしたの?なんだか表情が暗いね」
フロイトが目敏く声をかけてくる。
凪は「先生も聞いてくださいよ、あかねちゃんも」と話を始めた。
彼女はある中小企業で事務員をしている。そこのまあまあ年配でパソコンの苦手な男性社員が、自分の作った見積書を確認してほしいと持ってきたのだった。
「これがもうエクセルの数式は無視して数字そのまま入ってるし、下請けからもらった見積もりの漢字が読めなくて読めない字だけ飛ばして打ったとか言うし…」
「はあ?なんじゃそら」
ヲタ森が呆れ、フロイトはあらあらと眉を下げ、あかねでさえもええ…という顔をしている。
「それでやんわり直したほうがいいところを伝えたんだけど、もう先方には下請けの見積もりの時点で見せてるからいいとかいうんですよ」
風が出てきたのか、幽霊森の草木がざわめく。
「営業さんには営業さんのやり方とか、あるんだとは思うんです。ちゃんとした見積りうんぬんはもちろんですけど、まず自社の見積もりを社内で回して、外に出すオッケーをもらう必要があるわけなんです。その前に社外に出したら意味ないじゃないですか。ルールは守るものだと思うんだけど…」
凪はそう言って疲れたように下を向く。
「わたしはただ、誰にも恥ずかしくないように、胸を張って生きたいだけなんだけどなあ…」
凪のつぶやきを聞いたヲタ森が、彼女の隣へやってきた。
どうしたのと首をかしげる凪に、「手出して」と唐突に告げる。
「え?」
「いいから、早く」
理解できず聞き返した彼女をさらに急かし、胸の前に出された両手の上に、包みを一つ落とす。
それはハッピーターンだった。ヲタ森が非常食と称して大事に大事にとっているお菓子である。
「いいの?」
彼にとって大事なものだと知っている凪は、驚いてその長身を見上げる。
「たまにはね」と言って、ヲタ森はデスクに戻っていった。それに驚いたのはあかねである。
「ヲヲヲヲヲヲヲヲタ森さんが!食べ物を!あげた…!」
声を大にして彼のそばへ近寄ると、「わたしにもください!!」と手を出す。
「ペコはだめ」
「ええええ、なんでですか⁉いいじゃないですか減るもんじゃなし!」
「減るもんでしょうが、ばかなの?」
しっし、とヲタ森は手を振る。
「オタ森くん!」
あまりのできごとに呆然としていたはずの凪が、すごい速さでヲタ森の後ろに移動して、彼の名前を呼んだ。
「え?」と驚いて振り向くヲタ森の頭を、後ろから抱きかかえる。
「きみはいいこだねえ!!」
「〜〜〜〜〜っ⁉」
ヲタ森は目を白黒させて腕をばたつかせるが、それにもかまわず彼女は頭をなでる。
ひとしきりなでまわして満足すると、凪は耳を真っ赤にさせてデスクに突っ伏すヲタ森など気にもせず、もといた椅子へと戻っていった。
そしてもらったハッピーターンを、きれいなガラス玉でも見るように蛍光灯に透かして見る。
「あかねちゃん、半分こしよう?」
凪は一緒にハッピーターンを見ていたあかねに、それを掲げて見せる。
「え、でもそれは凪さんがもらったものだし…」
「一緒に食べたほうがおいしいよ、きっと」
ね、と微笑まれ、あかねは満面の笑みでうなずく。
ぱきっと音をさせてほぼ半分になったそれを、あかねはつまんだ。
「わたし難しいことはよくわからないけど、凪さんの味方ですから!そんなおじさんにはばちがあたりますよ!」
「うふふ」
こぶしを突き上げんばかりのあかねに、凪はうれしそうな笑みを浮かべる。
「あかねちゃんもいいこだねえ!」
よしよしと頭をなでられ、あかねはしあわせそうに目を細めた。
「ぼくも、全面的に凪さんに賛成。色々あるとは思うけど、せっかくならちゃんと生きたいよね」
3人の様子を楽しそうに眺めていたフロイトが静かに口を開く。
一瞬目を大きくした凪は、フロイトの前に立つとその頭に手を置いた。
「先生も、いいこ」
「いや、ぼくはいいこって年じゃ…」
「いいんです、大人だっていいこいいこしてもらったって」
珍しく照れている様子のフロイトに、凪は笑みを深める。
幽霊森のプレハブ小屋は、穏やかで優しい空気に包まれていた。
2024/03/11(Mon)
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