灰燼の走馬灯

Reason for fight.


「かかれ!!」


少女のその言葉を合図に政府軍(ヒト)魔王軍(モンスター)が正面衝突してから、早数時間。実に激しい戦闘だった。打撃音に金属音、そして銃声や怒号が跡を絶たず、人間も魔物も入り交じり、 目についた敵には攻撃を、押されている味方には加勢を。戦場は最早地獄絵図だ。やがて立っている者より臥せっている者の方が多くなり、両部隊の勝敗は一目瞭然となる。政府側の部隊は数人負傷者が出た程度、しかし魔王軍の兵士達は全て戦闘不能に陥っていた───ただひとりを残して。

屈強な身体、龍のような容貌、真紅の鱗を携えた、魔王軍将校だ。顔は龍、身体はヒトの彼は、小柄な少女よりも二倍近くの差をつけて大きい。残るはこの将校ひとり。彼を倒せば今回の進軍は成功する。つまり、戦争の終わりが近付く。外の国へ行ける。

薄浅葱のスリットワンピースを靡かせる少女。
鱗と同じ、真紅の軍服を身に付けた将校。
ふたりの瞳が交わった───刹那。

一騎打ちが始まった。


片や魔王軍将校。
数多の魔物を率いて人間の制圧を狙う龍。
片や政府軍軍人。
数多の命令を受けて魔物の排除を行う少女。

とても激しい攻防が繰り広げられる。互いが互いに攻撃を仕掛け、避け、防ぎ、そして受け。大柄な魔物と小柄な人間による一進一退のせめぎ合い。

将校は片腕で巨大な剣を薙ぐように振るう。それをしゃがんで避けた少女は彼の懐に潜り込み、銃口を向ける。至近距離で発砲された弾丸。将校は首を傾けて対応、弾丸は顔の直近を通り過ぎた。避けられた事に特に焦りを浮かべる事もなく、少女は冷静に二発目を撃つ。しかしそれすら将校は避けてしまう。何度か発砲を繰り返したが全て避けられた。

手強い。流石は一部隊を任せられるだけの事はある。 至近距離から発砲された弾丸を避け続けるなど、並大抵の事ではない。二丁拳銃で連射をするも、今度は手にした大剣(クレイモア)で纏めて叩き切られてしまった。弾がなくなったので少女は浅はかとは思いつつ距離を取りマガジンを取り出す。装填時間は極僅かではあるが、その間は丸腰で無防備だ。しかし将校は攻撃を仕掛けて来ず、距離すら詰めて来ない。彼女が準備を終えるのを待っているかのようだった。

……どういう事だろうか。一度疑問に思ってしまえば、次から次へと疑問が湧いてくる。目の前で発砲された銃弾を避ける素早さがあるのなら、一旦離れようと取っただけのこの距離など一瞬で詰められるはず、彼にとってチャンス以外のなにものでもないはずだ。寧ろ少女はそうだと思って、距離を詰められ先程の弾丸のように叩き切られると思って、自らを浅はかだと戒めたのに。

舐められている?
政府軍と同じで彼も女で子供の自分を見下しているのだろうか。
慎重になっている?
いくらチャンス同然とは言え特攻を仕掛けるのは憚られるのだろうか。

そのどちらも違うように見えた。将校は少女を侮っている訳でも警戒している訳でもなく、ただ準備を終えるのを待っているだけだった。装填し終えた銃を構えると彼も剣を構える。そしてまた戦闘が始まる。再度繰り返す攻防の中でも、彼女は疑問が、違和感が消えない。勝利を諦めているのでもない。かと言って、勝利を確信して余裕を感じているのでも少女との戦闘を楽しんでいるのでもない。

この違和感は何だ。
この攻防に果たして意味はあるのか。

彼は何の為に、自分と闘っているのか。


「(あ、)」


まずい。違和感と疑問が頭を埋め尽くし、少女は反応が遅れた。目の前には大剣を振り上げる将校……避けられない。振り下ろされる刃が鋭く光り、少女に迫る。避けられないのならせめて負傷は最小限にしよう、不思議なぐらい冷静な頭でそう考え、彼女は防御体勢をとる……とろうと、した。だが。


将校の腕が、剣が……止まった。


「(な…んで、)」

「──今だ!!!」


信じられず目を見開いた少女。しかしその直後聞こえたのは味方部隊の叫び声。視界の端には此方に向かって何かを投げる彼ら。将校との間合いに入って来た「それ」は───火のついた爆弾だった。

裏切り?……否、見棄てられた。
今この瞬間、少女は捨て駒となったのだ。

刺すような光に目を瞑る。襲いかかる爆発に備えながら、彼女は走馬灯のようにひとりの男を想った。

───嗚呼、

彼に会いたかった。
また会って話がしたかった。
……共に外の国へ行きたかった。

少女は男の名を呟く。


「   」


耳を(つんざ)く音と共に爆風が少女を、そして将校を巻き込んだ。


闘いの理由