私の幼馴染みで初恋の相手、緑谷出久は今どき珍しい無個性で、ヒーローオタクで正義感が強くて、周りの子が勝己に憧れる中で私の憧れはいずくんだった。
「も、もしかして、いずくん?」
「えっ、わわっ!光ちゃん!?」
高校生活二日目、勝己が図書室で時間を潰してれば一緒に帰ってやるって言うからそうして、程よい頃合で校門に向かっていたら、前方で勝己といずくんが話をしていた。
何やら勝己は怒鳴っていたので、会話が一段落したところで声をかけた。
「すごい、久しぶりだね〜!いずくんも雄英生なの嬉しいにゃ!」
「光ちゃんは、随分見ない間に変わった…よね?」
興奮しすぎて昨日猛特訓して直した語尾が出てしまった。まあ、それだけでなく、猫耳に尻尾があるのでいずくんの疑問にも納得なのだけど。
「…うん。でも、いずくんも変わったね!腕大丈夫?」
「ああ!これは、今日の訓練でやっちゃったものだから、平気だよ!」
よく見れば所々擦り傷だらけだし、身につけているジャージはビリビリだ。
あれ、雄英指定のジャージじゃない。自前かな?
他にも話したい事はいくらでもあったけれど、勝己からのコールが入ったので、いずくんに別れを告げる。
「いずくん、これからは同じ雄英生として、よろしくね!」
「…うん。またね。」
浮かれて大きく手を降れば大好きな笑顔で小さく手を振り返してくれた。
やっぱりいずくんが好きだ。
そう確信して、勝己の所まで行けば久しぶりに激おこだった。
「…待たせてごめんね?」
「っせえんだよ。」
よく見れば目元が少し腫れているし、余裕が無さそうだ。
「…勝己、泣いた?」
「あ゛あ゛!?泣いてねえわ!!」
信じられないくらい不機嫌なので、あまり触れないでおこうと思い、話題を変える。
「そいえばね!さっきいずくんに会ったよ。いずくんも雄英に通ってたんだねえ、私嬉しすぎて何話していいかわかんなくて、学科聞き忘れちゃった。」
「…ヒーロー科だ。」
「…え?」
いずくんの話題も地雷だったみたいで、その後一言も喋らず私の独り言大会になった。
寂しい。
「勝己、風呂空いたよー。」
帰宅後一番風呂を勝ち取った私は、髪の毛を拭きながら勝己に呼びかける。
勝己は予習をしているらしく、返事が無い。
「勝己ー。」
「…」
あまりの集中力なので、声をかけすぎるとこっちが痛い目を見るのでもうやめた。
そんな事よりもいずくんだ。
男子、三日会わざれば刮目して見よ。と言うが、まさか無個性の彼が雄英ヒーロー科に入学していたなんて、思いもしなかった。
勝己よりも素質はあったと思う。ただ無個性なだけでその選択は有り得ないと思っていたのだ。私も大概酷いやつだ。
勝己と変わらない。
少しネガティブに突入していたらLINEが来た。
相手は心操くん。
送られてきたのはドジな猫の短い動画。
それを見ていたらネガティブが吹き飛んだ。心操くんナイスタイミングだ。
そう心の中で思った時、隣勝己がやって来た。
「…誰だこいつ。」
「クラスメイトの心操くん。猫好きでね、よく撫でてくれるの。すごい撫でるの上手なんだよ。」
聞いてきた癖に不機嫌そうな顔をして睨むだけで返事がない。
「…私、ずっと考えてたんだけどさ、愛する者の口付けって、勝己でも良いのかな?」
「………………………は?」
一気に間抜け顔になったので笑ってしまった。
まあ、瞬時に睨まれたんですけど。
「だって、愛する者って私が愛してればいいの?それとも逆?それか相思相愛?謎なんだけど。」
「………どれだったとしても俺では無ぇだろうがよ。」
勝己はそう言うと耳だけ紅くしてそっぽを向いた。ガチデレの時の反応だ。
「…何で?私は勝己の事大好きだよ。」
そう言えば勝己は舌打ちをして、でも何かを考えて私を見つめてきた。
「…好きと愛するじゃ掠ってすら無えだろ。」
「…え、」
そう吐き捨てて勝己は部屋から出ていった。
好きの延長線上にあるのが愛するだと思っていた私は価値観を否定されてしまった。
まあ、初恋のいずくん以外に恋愛経験が皆無な私よりかは勝己の方が詳しいのかもしれないけれど、それならば私がこの個性を解くのはほぼ不可能なんじゃないだろうか。
そこまで考えてこれ以上思考するのはやめた。
辛く険しいので。