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《主公にとって私は必要でしょうか。》
 それだけ書いて、使いに託しておいた。もう何日前に出した文だろう。五日は経っただろうか。曹操の返事を、寿春にて待ち続けていた。
 寿春に留まったのも、一月も前のことだ。曹操の命により濡須へ向かっていた最中のことだった。曹操が自分を疎ましんでいるという噂を聞いた。視界が一瞬、ぐにゃりと歪んだ。たしかに曹操とは、赤壁での大敗以降、意見の食い違うことが増えていたため、納得がいった。そうして、元々病を得ていた身が、ますます動ける体ではなくなり、寿春で療養することを余儀なくされたのだ。朝起きて薬を服し、わずかな食事をやっとの思いでとり、また寝て、一日が終わる。体のことだけでなく、曹操とのことが気がかりとなり、鬱々とした日々を過ごしていた。そうして、気が付けば文をしたためていたのだ。たった一文。我ながら、女々しいことをしたと思っている。しかし、曹操に必要とされなくなることがこれほど恐ろしいことだとは思わなかったのだ。あの文を見て曹操は何を思うだろう。もちろんだ、と返事をくれるだろうか。それとも、もう不要だ、という擲り書きを寄越すだろうか。そもそも、読まずに捨てられるかもしれない。
(……あまり悲観的になりすぎては、病も良くならぬ。)
 荀ケは、か細いため息を吐きながら、目をつむる。綺麗な思い出だけ、喚び起こそうと思った。瞼の裏、真黒な世界の中にぼんやりと、透き通る海と、二十年ほど前の曹操の顔が浮かびあがる。
 二人で海を見に行ったのは、荀ケが曹操に仕官し、司馬となって間もない頃のことだった。