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恋人設定。
「すまん、遅くなった」
「大丈夫。さぁ、帰ろう?」
いつもの通り部活を終えて教室へ向かうと、やはりいつもの通りに森がそこで待っていた。もう窓の外は夕焼け色から紺色に変わりつつあり、急がなくてはと思いながらせっせと帰る支度にさしかかった。
「植木…」
帰る準備が整い、いざ帰るかと振り返ると、やけに神妙な顔つきをした森が立っていた。思わずどうした?と問い掛けてみたのだが森は黙ったままで、少し経ってようやく口を開いたかと思えば、口をもごもご動かす。俺がクエスチョンマークを出して何も言えずにいる事を気付いた森は、こう言った。
「…植木も、その、あの…。植木も、女の子の体とかに興味あるの…?」
その突拍子もない質問に思わずぶっと噴き出してしまう。即座に森がきたないよと言ったが、それでも構わず続けた。
「い、いきなりなんだよ?」
「えっと…、何となく?」
「…誰に吹き込まれた?」
「ど、どうでも良いでしょ」
明らかにおかしい森の態度。こんな事を森に吹き込む奴に俺は心当たりがあった。こんな事言う奴は一人ぐらいしかいない。
コバセンだ。コバセンが森に何か言ったのだろう。でなければ森がこんな事を言う筈がない。
「で。興味、あるの?」
森は、何故か目をキラキラ輝かせて俺を見ていた。そんな森にはぁとため息をついた俺は、こんな事を吹き込んだであろうコバセンと、それを紛れも無く健全な男子中学生である俺に聞いてきた森自身に心底呆れた。
…言ってしまえば俺だって、そういう事に興味がないわけではない。思春期真っ盛りの健全な男子なのだ。そういうのがあって当たり前だと思うし、森の事を100%そういう目で見てないと言えばそれは嘘になる、と思う。
だけど森の事を大切に思っているし、そういう目で見ているのだと、…マセているのだと森に思われたくはなかったんだ。
「森…」
「わ、私っ。…植木の為なら良いよ?」
「な、」
森、それは爆弾発言というものじゃないのか?とツッコミを入れようと思ったのだが、顔を赤く染めながら真剣な顔をしている森を見たら、言える筈もなく、逆に笑ってしまう。
「わ、私は本気なんだからねっ」
ガタッ。
俺は、何も言わず森を机へと押し倒した。森の手首を締め付けない程度で押さえて、あと数pという所まで顔を近づけて。森の方は流石に予想外だったのか、真っ赤になりながら口をぱくぱく動かしている。
抵抗しようとしているが、外そうとも無駄だ。逃れようとも無駄、俺の瞳からは逃さない。
「植木…。わ、私…」
「…森は、俺の為なら良いって言ったよな?」
「……あ、でも…。こんな、所で…?人が来ちゃうよ…?」
「そんなの関係ねぇよ」
握る手にぐっと力を込める。真っ直ぐ森を見つめた。これが冗談ではない事を思い知らせていく。
森の方はといえば、視線を合わせない事が精一杯らしい。必死に俺の視線から逃れようとしている。その目からはほん少しの雫。潤んだ瞳を見て、可愛いと思った自分は性格が悪いなと内心で笑う。
しまいにはぎゅっと目つむってしまった。潤んだ瞳がもう見れないと思うと、少し残念で仕方がない。
「…これが、森の言った事だぞ」
そう言いながら、ぱっと森の体を離し、体を起こしてやった。…今までのは全て演技。森の言っている事を理解させる為の嘘。
しかし、森に自分自身が言った事に対してどういう意味を持つのか教える為とはいえ、ショックを与えてしまった事に後悔した俺は、森から一歩遠ざかった。
「う、植木…」
「ごめん、ちょっとやりすぎた」
「ううん、私の方こそごめんね。私、分かってなかった」
「………」
「…私、自信がなかったの。私が植木の彼女で、植木は満足してるのかなって」
「森…」
何言ってんだろうな。
満足とか不満とか、俺は森が良いのに。森じゃなきゃ駄目なのに。
「私、あまり可愛くないし、スタイルとかも良くないし、だから…」
「そんなに自分を卑下にするなよ。俺まで悲しくなるだろ。俺は、森の外見を好きになったんじゃないんだ。森が森だから好きになったんだ」
確かに初めは顔や体を見るさ。でも、違うだろ。俺は森を心から好きになったんだ。優しい森を。俺を心配してくれる森を。愛おしいって、守りたいって思うようになったんだ。
「俺は森の全部が好きだ」
君が君だから
(…コバセンと同じ事言うのね)
(やっぱり、コバセンの仕業かよ!)
(………?)
これの数時間前のお話も宜しければどうぞ。
10.5.9
//君が君だから