タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
これの前日 サンジくんバージョン
2021/10/10


 サンジくん、と可愛らしくすり寄ってくる姿は本当に可愛らしい。可愛すぎて可愛い以外の思考回路が死んでしまうくらいには可愛らしい。本当に可愛い。ここがおれの家で、ふたりきりで、そしてレディがおれにぴったりくっついてくれている。この世にこれ以上の幸せがあるんだろうか。
 これ以上の幸せなんてないと断言できるけど、これ以上の地獄もないと矛盾した気持ちが心のうちで争い合う。だってレディとおれはただの友達で。恋人なんていう甘い関係じゃない。どうしてナミさんやロビンちゃんはこの状態のレディを置いて帰ってしまったのか。野郎どもは帰っていい。だけどストッパーとしてナミさんたちだけは残ってほしかった。おれのメシ目当てにおれの部屋を飲みの会場にすることは多々あって、野郎どもはともかくレディたちがこの部屋で楽しそうに飲んで食べてしてる姿を眺めるだけでおれは幸せなのに。いつもはレディだって酔いにテンションが高くなることはあれどしっかり意識もあってみんなで慌ただしくこの部屋を後にしていたのにどうして今日はこんなにも酔い潰れ、そして酔い潰れることなんてないナミさんも男の家に友達をひとり置いていってしまったのか。
 どこで間違えたのかを考えるために半ば現実逃避のように思考を飛ばしていたのに、サンジくん、と甘い声と共に腕を絡め取られて固まる。口から飛び出そうなほどばくばく動く心臓を落ち着かせる努力をしながらレディを見ればほんのり赤く染まった頬に、酔いでなのか眠気からなのかとろんとした潤んだ瞳でおれを見上げていて呻きそうになる。

「れでぃ、レディ、タクシー呼んであげるから帰ろう、ほら、ね?」

 その柔らかな唇に吸い寄せられそうになるのをどうにか堪えながら紐のように細い理性をどうにか手繰り寄せて告げる。だめだよ、レディ。おれはレディを好きだけど、好きだからこそ大事にしたいからこうしてほっそいほっそい理性を総動員させてどうにか家に帰そうとしてるけど、クソ野郎ならこんなお酒のせいでゆるゆるふわふわしているレディがひどい目に遭う可能性だってあるんだからね。ほら、帰ろう、と絡め取られている腕の柔らかな感触に体温が上がりそうになりながら立つことを促す。

「やだ」
「え?」

 ふわりと絡まっているだけだったレディが、レディの体の形までばっちり伝わるほどきつく抱きつかれて心臓が止まったかのような衝撃に中途半端にソファから腰を浮かせたまま固まる。やだ、……やだって言った? 目を見開いたままレディを見下ろせば、ぱちんと目が合う。

「サンジくんならだいじょうぶだもん」
「……は?」

 酔っているせいかどこかしたったらずな声で紡がれた言葉に低く間抜けな声が溢れる。おれなら大丈夫? なにが? どう? 大丈夫? パニックになる頭で、だけど最後の砦の理性の紐だけは千切らないように必死に思考を巡らせる。サンジくんなら大丈夫だもん。それは、関係を持っても大丈夫だってこと? 真っ先に浮かんで、そのまま肩を引っ掴んで押し倒しそうになった思考を跳ね除ける。だって小さな子どもが甘えてむずがるような、そんな仕草だった。だからきっと、信頼されているだけ。このまま押し倒して、込み上げる劣情をぶつけてしまえば友達という関係も壊れてしまう。それは嫌だ。いっときの欲望のために何もかもを壊して、レディを傷付けてしまうのは絶対に嫌だ。
 淀んだ欲望を体の中から全て追い出すように深くため息をついて、苦く笑った。

「わかったよ、レディ。もう帰れなんて言わねェさ」
「ほんと?」
「ほんと」

 嬉しそうにはにかむ姿は本当に可愛くて愛しい。しょうがねェ。

「だけどレディ、良い子は寝る時間だから……頼むから寝て」

 おれの切実な言葉に無邪気に頷く姿にまたひとつ息を吐いて笑った。おれは今日はもう寝らんねェや。