タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2022/07/11 ロー
揺らめく幻想・鋭い棘を言葉で包む・闇に浮かぶ白い首筋
これのロー視点


 好きな女に好きだと言われて浮かれない男なんていない。浮かれてその真っ赤に染まった頬を挟み込んで唇を奪いたい衝動に駆られたのをどうにか我慢して唸るように言葉を紡いだのだけは覚えてる。口の中を噛み締めていないと馬鹿みたいに緩んだ顔と声になってしまいそうで、せっかく好きだと言ってもらえたそれを撤回されてしまわないよういつも通りを心掛けるのに必死だった。緊張のせいかふるふる震える可愛い姿に、後から思ってたのと違ったと思われてしまわないように一番最初に大事なことを伝えて、頷かれた瞬間から薔薇色の生活が始まった。
 好きだと言われておれもだとその場ですぐに返せることがとても嬉しい。だからこそ、愛してる、と言ってしまえばコラさんのように消えてしまうかもしれないのが怖くて、愛してるのにそれだけは言えないと思った。でも、言葉以上に態度で愛せば良いと思ったから。デートをするたびに贈り物をするのは当然で、外では他人に恋人だと見て一瞬で分かるようにべたべたと引っ付いて他の男たちを牽制して、愛してる、だけは言えなくてもそれ以外でたくさん愛を注ぎ込んでいた。他のクルーたちに祝福されつつも「キャプテンって恋人できるとそんなに浮かれちゃうんすね」と若干引かれるほどキャラじゃないことだってした。好きな女さえおれに引かなければ何も怖くはなかった。指輪だって作って、あとは名実共に一緒になるだけだった。
 なのに。
 なのに、この現状はなんなんだ?
 別れたいと咽び泣く恋人に呆然と固まることしかできない。嫌われてしまったのかと肝が冷えたのも束の間、好きだから別れたいと訳のわからないことを言われて混乱する。意味がわからない。好きなら別れなくていいだろ。何が嫌だったんだ。外でべたべたと引っ付くのが男らしくなくて気持ち悪かったか? 喜んでもらえてたとばかり思っていた物が実は重荷だったか? クルーにすら引かれるほど浮かれてたおれを見て幻滅したのか? それなら外じゃもうべたべたしない。お前がほしいとねだる物以外贈らない。お前の前では浮かれないようにする。お前に惚れてもらえてたいつものキャプテンに戻る。だから別れるなんて言わないでほしい。頼むから、と追い縋ったおれに一言、愛されたい、と悲痛な声が届いて息を呑む。
 愛していたつもりだった。言葉にできなくても態度で示していたつもりだった。嫌とかそういう問題じゃない、そもそも愛が届いていなかった。伝わっていなかった。体を繋げたことはあっても、心は繋がっていなかった。どうして。こんなにも好きなのに。狼狽えて何も言葉を返せず呆然と涙を流す恋人をただ見下ろすことしかできない。愛されたい、と泣く姿に言っちゃいけない言葉が喉まで迫り上がってくる。あの言葉は、愛の言葉だけど別れの言葉だ。言ったら消えてしまう言葉だ。嫌だ。これ以上失いたくなかった。どうすればいい。わからない。

「頼む、別れないでくれ」

 喉から飛び出てきてしまいそうな言葉を飲み込んでみっともなく縋り付く。

「頼む、」

 愛してるんだ。

「……?」

 両手で覆い隠されていた瞳と目が合って固まる。ぼろぼろと痛々しいほどに真っ赤に熟れて泣いている姿に胸が締め付けられる。泣かせたくない。笑っていてほしい。瞬きをしてまつ毛を揺らす恋人に拒絶されないか不安になりながら恐る恐る手を伸ばして目尻に触れる。跳ね除けられなかったことに安堵して涙を拭いながら何度でも懇願した。

「さっき、……なんて言った……?」
「別れないでくれ」

 お願いだ、と何度でも同じ言葉を繰り返すおれに、どこか驚いたように目を丸くしたまま固まっている。泣き止んでくれたのは嬉しいし、そのまま別れるのも取りやめにしてほしい。

「そうじゃない、……愛してる、って、……言った?」

 服の裾を引っ張って涙を拭い吸っていた隙に聞こえた言葉に固まる。反射で口を手のひらで覆って思い出す。言ったか? 言ってしまった? 口から勝手にこぼれ落ちてしまったらしいことを自覚した途端、離れ離れになってしまうかもしれないことが不安になって慌てて掻き抱く。真っ白な雪に囲まれた場所じゃない。おれは宝箱に押し込められてなんかない。敵はあたり周辺に存在しないし、おれもこいつも怪我一つしてない。守るべき仲間も、守ってくれる仲間もいる。わかっていても、その言葉を言ってしまえば目の前から泡のように消えてしまう気がして怖くなった。だからぎゅうぎゅうと腕の中に閉じ込めて離せない。ただでさえなぜかわからないままに別れられそうなのに、あの言葉を言ってしまったことでまた目の前から大事な人がいなくなるかもしれないことが怖くて、別れないでくれ、とひたすら懇願することしかできなかった。


365日