タイトルを考えるのが死ぬほど苦手
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2022/03/04
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ふわりと香った甘い匂いに洗い物をしているサンジくんに近付く。背後からすん、と鼻を鳴らして、あれ、と首を傾げた。
「うゎッ!」
私が立ち止まったことを不思議に思ったのか顔だけ振り向いたサンジくんが、思いの外私がぴったり背後にくっついていたことに驚いたのか悲鳴をあげて小さく笑う。
「レディ、どうしたの?」
「うん」
きゅ、と水を止めて手の水を拭きながら体ごと向き合ってくれたサンジくんからさっきよりはっきり甘い香りが漂ってきてどこが発生源なのか気になって返事もおろそかに更に近付く。えっまってまってまってなになんのごほうびと頭上からぽろぽろとサンジくんの悲鳴のようなものが落ちてくるけど気にせず鼻を鳴らす。
すんすん。ここじゃない。すんすん。ここでもない。すんすん。ここだ!
嗅覚を研ぎ澄まそうと目を閉じてすんすんすんすんとサンジくんを嗅いで、匂いの出どころを発見して目を開いた。瞬間、さすがに瞠目する。さっきまで騒がしかったサンジくんがぎゅっと唇を真一文字に引き締めて顔を真っ赤にさせて固まっている。どちらかが動けば私の鼻がサンジくんのその唇にちょん、と触れてしまいそうなほどの距離。
「ご、ごめん!」
慌てて一歩下がれば安心したように安堵の息を吐いたサンジくんから甘い匂いが降ってきてまた性懲りも無く困らせてしまいそうになるのをどうにか耐えた。
「どっどどどうしたの」
「その、ええと、サンジくんからすごくいい匂いがして」
すん、と鼻が鳴ることだけは許してほしい。だって本当にいい匂いがする。なんの匂いなんだろう。レディ、と裏返った声が聞こえてハッとする。一歩離れたはずなのに、また距離が縮まってた。ごめん。もう一度下がってサンジくんを見上げる。
「美味しそう」
「ウエッ、アッ、デッデザートかな?! 今日のデザートはレディに捧げるマチェドニアだよ! ちょっと早いけど食べる?!」
混乱にうわずった声で早口に喋るサンジくんは、私の言葉をデザートに向けられたものだと勘違いしてくれている。けど、私が思わず呟いてしまったのは、真っ赤に染まるサンジくんの白い肌と、甘い匂いを振り撒く震えた唇で。
「オアッちょっと待ってレディほんと待ってまって」
サンジくんの腰がキッチンにぶつかる音と、待って、の言葉にぴたりと止まる。止まる、というか、いつの間にかまた距離を縮めて、爪先立ちになってサンジくんに迫る私の両肩を優しく掴まれて止められていた。
「ちっちちかい! うれしいけど! 近すぎる! 待って!」
サンジくんが小さく喚けば喚くほど、甘い匂いが充満する。デザートの匂いなのかな。そうじゃない気がする。
待て、と言われたから犬のように一応大人しく待っている。だって、待て、の次は、よし、が来るはずで。でもよくよく考えたら私は犬じゃないんだからそもそもよしを待たなくていいんじゃないか、とひらめく。
「あのレディほんとさっきからどうしたのなんか変なものでも食っいやおれがこの船のコックである限りレディに変なもの食わせるわけねェし、ッ?!」
支えるだけの弱い力で止められている体は簡単に前に動かすことができて、ぴん、と爪先を伸ばして顎を上げるだけで忙しなく動く唇に触れることができた。ぶつぶつと放たれていた声が途切れたサンジくんの唇は、甘い匂いにつられたから食べたのに全然甘くなくて、たばこの味しかしなくて、だけどやっぱり美味しかった。
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