タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2022/04/15


 ブンッ、と重たい音と共に青い膜が張られて身構える。身構えたところでもう遅くてどうしようもない。ふ、と体の内側から何かがなくなった気配がして自分の体をまさぐる。綺麗に中身だけ抜き取ったのか、外側からは何が取られたのかわからない。
 こんなことができる人物はただ一人しかいなくてキョロキョロと辺りを見回してもサニー号の甲板には船番の私しかいなくて、気配もない。青い膜が届く範囲にはいるんだろうけど。海にいるのかと視線を移してもあの能力の持ち主の船は潜水艦で探しようがない。

「ま、いっか」
「よくねェだろ、能天気か」
「ピャッ」

 なんとなく体が軽い気がするけどまあ特に支障もないし、と呟いた瞬間背後から声が聞こえて飛び跳ねる。

「びっくりした。自首が早いね」

 振り返ればこの世の怒りを全て背負ってるのかと思うほど機嫌の悪い表情で私を睨みつける犯人、ローが突っ立っていた。いつもの長い刀を携えて、もう片方の手の上には臓器のことはよくわからない私でもさすがに知っている心臓。私の中からなくなったのは心臓だったのか、と胸の上から触ってみれば確かに全く鼓動の音がしなかった。あの手に乗っかってるのは私の心臓。

「自首じゃねェ」
「今サニー号にはお宝何もないよぃったい!」
「本当心底腹が立つな」
「なんで被害者の私が怒られてるの?」

 ぎゅう、と心臓を軽く掴まれて呻く。だって自首じゃないなら犯罪は続行ってことでしょ。まあお宝が乗ってたとしても私の心臓はそこまで価値あるものじゃないですけどね。ふふん。いたたたた。なんで何も言ってないのにまた握ったんだこの人。

「腹が立つ顔をした」
「理不尽! んも〜……何がしたいの」

 心の声と会話しないでほしい。じっとり睨み付けても既にローは手の中の私の心臓を見ているから視線は交わらなくて思わずため息をついた。

「お前こそ心臓取られてるのに何もしないな」
「?」

 今度はこの世の憎しみ全てを煮詰めました、みたいな暗い声音で呟かれて首を傾げる。だっていつもと変わらない。

「何かしたらどうだ」
「私たちサンジくんに甘やかされてるから客用のお茶の場所とか知らない。私用のドリンクならわけてあげられるけど」
「もてなせって言ったわけじゃねェ馬鹿なのかなんだこいつ」

 ねえ後半の言葉は心の中で思っといてくれない? お茶でも出せって言ってるのかと思ったのにそうじゃなかったらなんなの。わからない。首を傾げてローを見れば呆れたような馬鹿にしたような目とばっちりかち合ってむかっとする。

「心臓取られてるんだからもうちょっと慌てるなり取り返そうとするなりなんなりしろ」
「……ええ?」

 ボソッと落とされた言葉を頭の中で繰り返して、結局困惑した声を出すことしかできなかった。

「なんだその反応」
「そんな無茶なこと言われても……」
「あ?」
「取られちゃったものは慌てても仕方ないし、それ取り返そうったって私には無理だし」

 どんどん機嫌が下降するローにどうしたものかと考えを巡らせたってそもそもローの犯行動機がわからないからどうしようもない。

「同盟相手とはいえ海賊に心臓奪われてて怖くねェのか」

 自分で取っておいて忠告してくる海賊はなんか面白いし怖くはないなあと思わず笑ってしまって鋭い目つきで睨まれた。

「取られちゃったものは仕方ないし」
「またそれか」
「ローの手の上にあるか私の胸の中にあるかの違いでしょ?」
「大きな違いだろうが。……もういい、返す」

 吐き捨てられるような大きなため息と共にブンッ、と再び体が青い膜に包まれてローの手の中の心臓がなくなる。胸元に手を当てれば心臓の鼓動。おかえり私の心臓。

「そんな感じで返してくれたら助かるのになあ」
「……だから今返しただろ」

 不思議そうに眉を顰められてしまう。

「心臓以外は何も取ってねェよ」

 チッと舌打ちまでされて思わず笑った。

「私の心。まあ盗られちゃったものは仕方ないんだけど」
「……は?」