油断注意報
「小鳥さん、明日はちゃんと学校行ってくださいね。」
「えっ?」
「…えって貴女まさか…退学しようなんて考えてませんか?そんな事言うのはこの口ですか。」
「い、いひゃいれすあむりょしゃん…」
安室は両手で小鳥の頬を掴み左右に引っ張る。彼女が間抜けな声を上げれば「ふは」と笑った。キャベツを洗っていた安室に触れられたせいで小鳥の頬が少し濡れる。
「…良いじゃ無いですか、少しくらい普通に戻っても。せめて大学に通っている間は『僕らの仲間』じゃなくて『ただの桜庭小鳥』で良いと思いますよ。」
指先で彼女の髪を梳き、毛先に唇を寄せる。リップ音を鳴らして再び彼女の顔を見れば、頬どころか耳まで赤くしていた。
「小鳥さんって反応が初々しいですよね。揶揄いたくなる。」
「か、揶揄わないでください…!遊んでないで、キャベツ巻きますよ!」
小鳥は頬を膨らませ、黙々と作業に戻った。今日の夕飯は待望のロールキャベツだ。
形が崩れないようにベーコンで巻き、真ん中に爪楊枝を刺す。全て巻き終えれば、水、コンソメと共に鍋に入れ味を調えながら煮れば完成だ。
「ん…コンソメ届かな…」
小鳥は台に乗って精いっぱい手を伸ばす。元々安室の慎重に合わせて並べられた調味料の棚は小鳥には高すぎる。届いた、と安心したときには既にバランスを崩していた。
「う、わあああっ」
「小鳥!」
衝撃を覚悟して目を瞑るも、痛みは一向にやってこない。ゆっくり瞳を開ければ安室に抱き留められていた。
「あ、危なかったですね…。届かないなら言ってください、僕が取りますので…。」
「す、すみません安室さん…。助かりました…。」
「怪我がないなら良かったです…もう、心臓とまるかと思いましたよ。」
「うう…ごめんなさい…。あの、安室さん?」
抱き留められたときに、安室の上に乗る形になった小鳥はそこから退こうとするが、何故か彼に腰をホールドされていて動けない。不思議そうに首を傾げると、そっと安室の唇が額に触れた。
「ひゃ、わ…」
「こんなに細くて折れそうなのに…芯が強い。貴女はとても魅力的な女性だ…。」
彼女の戸惑いをよそに、安室は指を滑らせて小鳥の唇へと触れる。
「油断したら駄目ですよ。次はここにしますので、覚悟しておいてください?」
安室は口角を上げて挑発的に笑う。そして彼女を離し、立ち上がって服を叩いた。小鳥は、むすっと頬を膨らませ、背伸びをして安室のエプロンを引っ張る。突然の事に彼はよろめき、気が付いた時にはお互いの唇が触れていた。
「…奪っちゃった。」
してやったり、そんな顔で小鳥は舌を出す。途端、安室の中の何かがプツン、と音を立てて切れた。
*前次#
top