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季節はあっという間に師走になった。受験勉強も大詰めの時期。外も学校内も、どちらも張り詰めた空気が流れ、冬の訪れがひしひしと感じられる頃、私は運よく合格通知を一足先に手にした。推薦入試で第一志望の大学に合格したのだ。春から地元を離れ、東京の大学に通う。受験勉強から解放された喜びはあるものの、なんだか実感が湧かず、手放しでは喜べないような、腑に落ちないような気持ちだった。けれど身内や友人たちが「おめでとう」と口々に褒めてくれるのは素直に嬉しかった。

「それで、お祝いがここでいいのかよ。別にお前がいいならいいんだけど」
「ここがいいの。ずっと食べたかったんだ、ここのラーメン」
「そうかよ」

そんな私は今、久しぶりに会った幼馴染の岩泉一くんと一緒に、中華料理屋に来ている。高校から近くて比較的安価な、学生も多く立ち寄る街中華屋だ。合格を報告したらお祝いご飯をご馳走してくれると言うので、リクエストしたのだ。
この店でいいのかと心配しながらも、あっという間にラーメンを平らげ、ちゃっかりと替え玉を頼んでいる一くんを見て、ここをリクエストして正解だったと思った。

「葵もついに女子大生か」
「一くん、おじさんくさい」
「うるせえ。俺からしたらお前は娘みたいなもんだろうが」
「私、一くんの事お父さんだなんて思った事ないけど」
「親不孝者が」

ズズっと豪快に麺を吸い込む音で会話が閉じられる。店内は私たちだけしかおらず、鍋の煮込む音と、店主が刻む包丁のリズミカルな音で空間が満ちていた。一くんは水を勢いよく流し込み、一息ついてこちらを見る。

「あいつには報せねえの」

あいつ、とは誰を指すのかはわかっていた。でもすぐには返事をしなかった。トントントントン、と包丁の音が私の代わりに間を埋めてくれていた。

「その様子じゃ連絡とってねえんだろ」
「だって連絡する事がなかったから」
「出来たじゃねえか。教えてやれよ。幼馴染だろ。一応、元彼だろうがよ」

及川徹くん。
私の幼馴染で、1つ上の先輩で、小学校から高校までずっと一緒だった人。
私の初恋の人。
そんな彼と恋人同士になったのは、春高予選が終わった秋だった。付き合った期間はたった数ヶ月。最後はあっけなく振られて終わった。
恋人だった期間より、ただの親しい友人だった期間の方が遥かに長いのだ。そう考えれば当然の別れだったのかもしれない。

そんな彼は今、アルゼンチンにいる。
憧れの師にバレーを教えてもらうために、彼は単身、海外へと行ったのだ。

「うん。頃合いを見て連絡しようかな」
「頃合いってなんだよ。いつだ、それ」

残り少ない麺を流し込み、ゆっくり咀嚼する。一くんは黙っていた。食べも飲みもせず、じっとこちらを伺い、待っていた。ようやく飲み込み、一息ついて、視線を合わせる。

「全部、飲み込んでから」