「彩海ちゃん、なんか今日は嬉しそうだね」
「ふふ。わかるー?」
行きつけの花屋さん。
舞い上がっている私の様子に、店長のおばさんは少し驚いていた。
「とってもいいことがあったの」
「彩海ちゃんの顔見てたらすごく伝わってくるよ」
慣れた手つきで施されたラッピングはとても綺麗だ。
あっという間に可愛らしい小さい花束が完成した。
「はい、じゃあいってらっしゃい」
「いつもありがとう。行って来ます!」
心なしかいつもより体が軽い気がする。
軽快な足取りのおかげか、あっという間に目的地に辿りついた。
ドアの前にたどり着く。
深く長い深呼吸を1回と、リズミカルなノックを2回。
「彩海です。入ります」
いつもここにやってくると行う、私のジンクスみたいな儀式。
ゆっくりと扉を開くと窓から通り抜ける風が私の髪を大きく揺らした。
「彩海ちゃん」
窓辺に佇む1人の女性は私を見てわずかに口角を上げる。
「今日もお願いしてもいいかしら」
女性へ花束を手渡す。
いつものようにゆっくりと顔を近づけて花の香りを楽しんでいた。
「何がいいかな」
「なんでも」
再び風が吹く。
「彩海ちゃんの歌声は、とっても綺麗だから」
仄かに香る、花束の匂い。
穏やかな風を感じながら私はメロディーを口ずさむ。
窓辺から差し込む夕日が女性の唇を彩っているように見えた。
timbre
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