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「やっとでてこられたのよねえ。どれだけこの時をまったか!ったく、この子ったら私のこと否定し続けるんだもの。」

もう一人の人格、といった六花は高らかに笑う。

「ああ、科学者たちは私のこと、妖精女王(ティターニア)って呼んでたわ。こんな姿見て妖精なんて、あいつらもいかれてるわよねえ」

妖精女王は結っていた髪を下ろした。

「あんたにはこのかっこの方がいいだろ?初めてヤったとき、この子はこんな格好してたはずだから」
「……!」
「ぶははっ!今の顔、傑作だねえ。やっぱりあれ?大好きな六花ちゃんの姿じゃ攻撃できませんって?」

妖精女王は静かに俺の方へと詰め寄った。

「まだ理解できてないようだから、一つ一つ説明してやろう。
 まず1つ。私が出てくる条件だ。あんたの絶対能力進化のために、この子が受けてたカリキュラム。最近は体晶を使ってた。それで、私が生まれた。体晶を使えば私が出てくるようになった」

妖精女王は床に転がっている空のケースを足で蹴飛ばす。
カランカラン、と音を立てて俺の足元へ転がってきた。

「2つ。この子は実は、Lv5になる本当に手前だった。だけど、この子がその事実を無意識に否定していた。だからいつまでたってもLv5候補でとどまっていたってわけだ。本当は、Lv5に到達できていたのに。
あとはわかるよな?能力を暴走させる体晶を使っちまえば……いとも簡単にLv5の完成ってわけだ」

俺は空のケースを思わず踏みつけた。
パキン、と乾いた音が足元から響いた。

「3つ。私が生まれた理由だ。簡単に言えば、この子の自己防衛ってやつだ。Lv5に到達したいけどしたくない気持ち。いいように使われて、挙句の果てには使い捨てのようなモルモット待遇。そして、突然いなくなったお前。全部全部、この子は自分の中に溜め込んだ。次第に、そんな運命にはむかう気持ち……私が生まれた」

妖精女王は愛おしそうに自分の胸に手を置いた。

「この子は馬鹿よ。バカでバカで、本当しょうがない子。ほおっておけないわ。あたしはこの子が大事でしょうがない。だから決めたの。この子の邪魔になるものすべて排除してでも、この子を守るって。
ねえ垣根……あんたは邪魔よ。この子の苦しみ、悲しみはすべてあんたと関わったことで生まれた。あんたに出会わなければ、この子は幸せに過ごせたはずなのよ!」

一方通行が、残り少ない力を振り絞って立ち上がる。

「さっきからきいてりゃ戯言垂れ流しやがって。被害者ぶってんじゃねえよ」
「あんたに発言権は与えてないわ」

妖精女王は一瞬にして一方通行の両下肢を凍結した。
身動きが取れず、マイナス零度以下の感覚が一方通行を襲う。

「もうその首元にあるチョーカーもさっき凍らせちゃったから、あんたは能力を使えない。ざまあみろってかんじよね。そこのおばさんだって、手足凍らせたらぴくりとも動かなくなっちゃったし。本当、Lv5なのかって拍子抜けしちゃった」

思わず息をのむ。
今までの六花とはまるで別人なそれを、まじまじと見る。
妖精女王は俺に向き直ると、挑発的に笑った。

「いいねえ。やる気になった?じゃあ始めましょうか。あなたのために用意された、絶対能力進化(レベル6シフト)計画を!!」