死ぬまで踊るという罰




私が殺そうとした天子は、入れ違いでやってきたユニティーオーダーにより、アークへと連行されたとコノエから聞いた。

私は地上に戻る事にした。
一刻も早く12地区に戻って、天子を殺す方法を考えたかったから。

地上につながる道は、コノエの言った通り気が遠くなるほど長かった。
おかげで普段考えないような色々な事が頭をよぎった。

「行くのか」

去り際、カバネが私を呼び止める。
できるだけ振り向かないようにした。これ以上こいつの顔を見たくなかった。

「天子がいない以上、ここに残る理由はないもの」
「そうか」

どうしてそんな悲しそうな声なんだ。
お前を1度でも殺した女だ。頭がおかしいのではないか。
これではまるで、お前が私のことをーー……。

「リア、お前の幸せを願っているよ」

ぽつりと落ちたカバネの声が、やけに耳に残った。



地下に来たことを後悔した。
地下に来なければこんなに感情を乱されることなどなかったのだ。
早く地上に戻りたい。戻って、ヴィダに会えばきっとスッキリするから。



けれど、やっとたどり着いた地上の空気はたいして美味くもなく、薄汚れた世界に戻ってきてしまったと反吐が出そうな気持ちになった。
胸にずしりと、何かが突っかかっているような、窮屈な感覚が増す。
無意識にため息がこぼれた。

そうだ。この世界はどこにいても地獄なんだ。
荒廃したこの土地に希望なんてないのだ。

「リア……お前、リアか……!?」
「……オルカ!?」

聞きなれた声に振り向けば、そこにはオルカがいた。
1か月ぶりのオルカは全身傷だらけで、ひどく疲弊している事が見て分かった。

「お前、死んだはずじゃ……」
「勝手に殺さないでよ!私が死ぬわけないじゃん!」
「はは……やっぱ兄弟だな、お前ら」

「ヴィダもそう言ってた」そう、オルカが寂しそうに言った。
その悲し気な表情に胸がざわついた。

「ねえ、プラセルは?どうしてオルカが1人でここにいるの?ヴィダは何して……」
「……プラセルは死んだ。数日前に」

オルカは伏目がちに、地面を眺めてぽつりと言った。
風が止む。音が世界からなくなって、耳元で小さく「ごめんね、」と声がした。

「プラセルだけじゃねえ。黒縄夜行は全滅した。全員、ユニティーオーダーにやられた。生き残ってるのは俺と、お前ら兄弟だけだ」
「じゃあなんで……なんでオルカが1人で……」
「俺は自分の声を信じていくと決めたんだ」

迷いを振り切るような、力強い声だった。
初めて聞いたオルカの声に強い意志を感じて、もう何を言ってもダメなんだと悟った。
そんな私を見かねたのか、オルカが小さく笑って言う。

「リア。お前も自分の声を信じて進め。ヴィダほど声は聞こえねえんだろ?好都合じゃねえか」
「自分の声……?」
「ああ。……お前、どこにいたか分かんねえけど変わったな。少しは美人になったんじゃねえか?」

オルカの手が私の肩に触れる。
それはまるで私に、縋るような手つきだ。

「お願いだから、生きてくれよ。俺たちのお姫様」

オルカが初めて見せた表情だった。
去って小さくなっていく背中を、見えなくなるまでずっと見ていた。
こみ上げてくるもので輪郭が何度もぼやけてしまったけれど、瞬きするのも惜しくて、ずっと、ずっとその背中を追い続けた。

オルカはこちらに振り向く事なく、真っ直ぐと自分の見据えた道を進んでいった。










辿り着いた故郷はオルカの言っていた通り人の気配がなく、私が知っている場所とは打って変わってしまっていた。

もちろんプラセルの家も、もぬけの殻だった。
出掛ける前にプラセルが横になっていたベッドに座る。冷たいシーツに触れると、また耳元で「ごめんな、リア」と、声が聞こえた。

「ヴィダをよろしく頼むよ」そう、声が続く。



一縷の望みをかけるように12地区を歩き回るが、荒れ果てた惨状を目の当たりにするだけだった。

「黒縄夜行は全滅した」
まるで答え合わせをするかのように、オルカの言葉が確信めいたものになっていく。

「本当に、終わっちゃったの……?」

私の独り言は闇に溶けて消える。
もう誰もこの声にこたえてくれる人は、ここにはいないんだ。
変なの。私、黒縄夜行の事、別に好きでもなかったはずなのに。
私が好きなのはヴィダと、プラセルと、オルカの3人で――……





「お前にも聞こえたのか」

声がした。
振り向いた先には私がずっと求めていた人がいた。

「うん、聞こえた。ヴィダ、聞こえた……」
「……そうか」

久しぶりに会ったヴィダはボロボロだった。
心なしか痩せた気もする。
でも私を包み撫でる手と、香りと、体温と――……私が大好きな、ヴィダらしさは何1つ変わっていなかった。

ヴィダは何も言わず、私の肩にもたれるように顔を埋める。
思わず背中に回していた手を彼の頭へと移した。
そのままゆっくりと撫でる。細く軟い髪が指の間をすり抜けていく。

「何泣いてんだ」

ヴィダは顔を上げて私を見た。
いつの間にかこぼれ落ちていた涙をそっと掬い上げてくれる。
声が出せなかったからかぶりを振った。
ヴィダは困ったように眉を下げて小さく笑う。

「泣くなよ、リア」

どちらともなく瞼を下ろし、顔を傾けて唇を重ね合う。




その晩、私はヴィダに包まれたまま眠りについた。
とても心地よいこの空間は、地獄にいるという事を忘れさせてくれる。

存在を確かめるように、髪や頬に触れる。時折くすぐったそうに身を小さくよじる。
普段のヴィダからは考えられない、あどけない子供のような一面を垣間見れて、胸の奥が暖かくなる。同時に締め付けられるような感覚が走って、私幸せだなって思ったの。

だから私、この時間を邪魔されたくなくて、何度も、何度もあなたに囁き続けたわ。

「ヴィダ、愛してるわ」って。



『殺せ――……俺たちの名前を刻め……戦え――……』

一瞬だけ聞こえた、けれど彼の中では何度も反芻されているであろう、魂の声をかき消せるように。



Aoao