ラッキーガール・ローリンガール

甘やかされて、ぬくぬくと育ってきたと思う。

親も兄弟も親戚も基本的にわたしにゲロ甘だし、友達にも、先生にも、近所のひとにも恵まれた。(あ、ただあんまり男運はなかった)


平凡でしあわせな人生だ。


もしもいま息絶えたとしても、普通の後悔しかない。もっと親孝行してたら、とか、最後にみんなにお礼を言いたかった、とか。

どうしても俺には成し遂げなければならないことが…!!!とかそんなんもない。

だって普通の女子高生だもん。



ぽつりと真っ白な空間に浮かぶわたしは。

曲がり角で車が自分に向かって直進してきたのを冷静に思い返していた。



「死んじゃったん…だろうなぁ……」



あの運転手さんはそんなに悪くない。むしろなんかもう謝りたいレベル。
わたし妄想しながら自転車飛ばすので精一杯だったから、注意力散漫どころか無いに等しかったし。あまりわたしのことなんて気に病まないでください…


まあただ親兄弟にはものすごく申し訳ないなと思う。

わたしのお墓の前で泣かないでください…あ、やっぱりあっち、かたちあるもののほうがいい。あれをお葬式に流してください。


なんて、伝える術ももうな…

「すまない…!!!!!」


もうないと苦笑しかけたところ、真っ白な空間に突如男の人の声が響いた。
ばぃんと何かが出現するSEみたいな音とともに緑色がこの場に増える。


みどりいろ。


長い緑の髪に、ひらひらした緑の服。青い瞳で豪華絢爛な杖を持つ男のひとは、どう考えても二次元だった。



「・・・SF?」



あ、もう意味わかんねえや。


























みどりいろの男のひと(よく見たらものすごいイケメンだった)は自分を時空の管理人と名乗った。

なんてこった。厨二病患者なのだろうか。イケメンなのに。


「ここは時空の狭間。すべての時空から隔離され、そして繋がる唯一の場所」

「(あ、やっぱこいつ厨二病だ)」

「断じて中二病などではない。本当のことだ」


あらやだ顔に出てたかしら……ぺたぺたと自分の頬を触ると時空の管理人殿はこほんとひとつ咳払いをして続けた。


「けして互いに干渉することはなく、混ざり合うことも知ることもないが、この世には数えきれないほど膨大な量の世界が存在する。

ここは、それらすべてを統括し、監視する場。時空の狭間だ」

「は、はあ」


おぉおぜんぜんわからん。ちっともわからん。
さっぱりわからん。

とりあえずここはわたしの知ってる、ていうか今まで生きてきた世界とは違うんだろう。

そしてここは時空の狭間。全世界(?)を統べる場所…っていうことは、そんなところにいるこのひとはめっちゃえらい、神様的なひと??

じゃあ死んだらみんなここに来るの?かな??天界みたいな??天国?????????????


「あ、じゃあわたしは死んじゃってここに…?」

「それが、違うんだ。君は死んでいない……いや、死ぬはずじゃなかった、と言うべきか」

「え?」


「車に轢かれても君は奇跡的に無傷で済むはずだった。運転手も車も無事。強いていうなら少しスカートが破れたくらい」


は?????

何を言ってるんだこのひと。
頭にはてながいっぱい飛ぶわたしに、男は話を続ける。


「それが、わたしの不注意によって生まれた時空の歪みに吸い込まれ…肉体が滅び、精神だけがこの場所にさ迷いでてきてしまった。君は生きている。しかし、死んでしまったのだ。私のせいで……………」



苦しそうに告げる彼の言葉は飲み込み難いものではあったけれど、わかる言葉だけ拾い上げて頭の中で反芻する。


・・・つまり、わたしは殺されてしまったの?


目の前の、緑色に。



声も出せないでいると、時空の管理人と名乗ったその緑色は深く深く頭を下げた。

え、土下座しろ。
とか一瞬頭によぎったけどそれで生き返るわけでもないだろう。


やっぱり死んでしまったのか、わたしは。


死んで、しまったのか。





「…君が望むなら新しい地に、君が望むように転生させよう。それが私にできる唯一の償いだ」

「へ、え。異世界トリップ、ですか」


よくわからないことをたくさん言われて頭がパンクしそうだった。
ただ、自分が今まで読んできた漫画とか、アニメとか、そういうもので得たちっぽけな知識から無理やり言葉をひねり出す。

どうやらそれは合っていたようで、男はひとつ頷いた。


「そうだ。…君が知っている書籍の世界に行く可能性もある。書物はある世界の出来事と筆者の脳がシンクロし、世に出されたものだからな」

「元の世界には?」

「帰せない。キミの体をより確かなものにするため、キミと関わりのある人物すべての記憶をキミの体に作り替えるからだ」


どういう原理かはまったくわからないけれど、その瞳を見ているともう希望はないんだろうな、とすぐに理解した。



「…じゃあ、わたしはみんなから忘れられるの?」

「すまない」



・・・なんてこった。意味がわからない。
帰りたい。せめて最後に母さんの作るおいしいごはんが食べたい。…ううん、むしろ、作ってあげたい。

いままで、親孝行なんて、なにひとつ、



「別の世界で、生きてくれるか。アオイ」

「そうでなければ、死ぬんですよね、きっと」

「ああ。人間に、精神だけでこの異空間をさ迷うことは不可能だ」


それならば、頷くしかないじゃないか。
たとえどんなに辛くとも。



「…せめてもの償いだ。このロッドを君に渡そう。

交通事故でも死なないはずだった。君の力は誰も気づかなかっただけで、うまく世界に反映しなかっただけで、とても強大だ。可能性に満ち溢れている」

「は、あ。」

「願わくばその力が正しく君の未来を照らしますように」


その杖に埋め込まれた赤い石が輝いた。



わたしは。


どうなるのだろう。




ポウ、とあたたかい光に包まれ、少しずつ感覚が消えていくのを、わたしはただ黙って感じていた。


「しあわせになれ、アオイ」




どうやら世界が変わるらしい。


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