01


父親を亡くした場合、忌引として学校に認められる日数は一般的に七日が多いらしい。わたしの学校もそうで、明日からは公休扱いにしてもらえなくなる。七日でできることなんて本当に最低限の手続きくらいで、故人を悼む間もないほどだった。ようやく悲しむことができると思いきやもう学校か、とわたしは小さくため息を吐いた。
かといって家にいても何かをする気にはなれない。忙しいようで何も手につかない毎日だった。食事と睡眠はしっかり取らないといけないことなんてわかっているけれど、うまくこなせるわけもない。しかしこの痛みすら時間が解決していくことを、前世の記憶があるわたしはよく知っている。

先日わたしは五条さんに、「他の女の子よりも別離の痛みに慣れている」と言った。その言葉に嘘はない。自分は苦しみのやり過ごし方を、間違いなくそのへんの女子中学生より知っていると思う。しかしそれでも深い悲しみはわたしにどろりとまとわりついた。だというのに、現実味のないこの虚無感に涙を流すことすらできない。

(見舞いに行くか……)

このまま家にいたって厄介な思考に絡め取られるだけだ。とりあえず外の空気を吸って、母と妹の顔でも見に行こう。明日からは学校に行く。そして五条さんにも連絡を取る。悲しみには結局、無理やり日常を過ごすことがいちばん効くんだ。わたしはそう言い聞かせて自室のフローリングから立ち上がった。部屋を出たって誰にも会えないという事実が虚しくて、最近は篭もりきりになってしまっている。

……彼らを失ったことをいくら嘆いても、状況が変わるわけではない。通夜も葬儀もその他も、遺された者を慰めるだけの儀式にほかならない。わたしが沈んでいようがいまいが同じだけ月日は流れる。この寂しさに意味が無いのであれば、少しでも誤魔化して少しでも笑って、早いうちに風化させてしまったほうが楽なのだ。

深く息を吐き出してクローゼットを開け、服を着替えて外出の準備をする。玄関を出たとき、包み込むようにあたたかい春の陽気に唇を噛み締めた。










母と妹は相変わらず眠りこけていて、顔を見たからといって特に気分が晴れるわけではなかった。手に触れるとぬくもりがある。息をするごとに体が少し動く。その瞼が持ち上げられてわたしを瞳に映すことはなくても、いつかはそうなってくれるかもしれない。期待をできるという点、死者よりずっと有難いなと先日棺桶に入れられた父と無意識に比べながら思った。だからといって救われるほどの違いではないのだけれど。

日常というものはこんなにも脆かったのか。突然一変して様変わりした人生に息を吐く。家にいたってどうしようもないと思っていたけれど、ここに来たところでたいして変わりはしなかった。病室の窓からは桜が覗いている。とても綺麗だが葉混じりで、満開だった頃に家族で花見に行った日を思い出した。穏やかで幸せな家庭だったと思う。あいつさえ、ーーさえいなければ。

「……?」

そこまで思ってわたしは首を傾げた。あれ、わたしには、家族をこうした元凶に心当たりなんてなかったはずなのに。なんでこんな、誰かに恨み言を言うような……。なんだか最近、こういう喉の奥まで出かかっているのに解答までたどり着けない、みたいなことが増えた気がする。いったいどうして、と思いながらわたしは椅子から立ち上がった。歩きながら考えたほうが答えも出る気がしたのである。そういえば今日もろくにご飯を食べていないな。購買に何か、ゼリーでも買いに行こうかな……そう思って時計を見たらもう17時近くて驚いた。最近は日が長いからどうにも感覚が狂ってしまう。どれだけの時間ここでぼーっとしていたんだと自分に呆れた。さすがにそろそろ帰ろう、晩ご飯も何かちゃんと買って帰ろうかな……なんて思いながら部屋を出た時。

「え、伏黒くん?」
「……苗字」

扉を開けた瞬間、見知った顔と遭遇してわたしは瞬きを繰り返した。どうして、伏黒くんがここに……そう思ってから以前聞かされたことを思い出す。そうか、伏黒くんのお姉さんも。

「病室、向かいだったんだな。気づかなかった」
「そうだったんだ。わたしもぜんぜん気づかなかった……」
「お互いそれどころじゃなかったんだろ。……特にお前は大変だったな」
「あはは、ありがとう。伏黒くんだって大変なのに、気を遣わせちゃってごめんね」
「…………俺は別に。今から帰りか?」
「うん。伏黒くんも?」
「ああ」

そこからはなんとなく、ふたりで一緒に病院の廊下を歩いた。少しの無言の後、わたしは黙っている方がなんとなく気まずくて口を開く。

「明日から学校行くんだ。みんな元気? ……って、伏黒くんも休んでたりする?」
「俺は普通に登校してる」
「そっか、偉いね」
「偉かねぇだろ、姉が寝てるだけだ」
「……そうだよね、そっか。伏黒くんは強いね」
「……」

たとえ虚勢だったとしても、彼の言葉はたくましかった。わたしはそれが眩しくて苦しい。わたしもそんなふうに言えればいいのに。
伏黒くんはいつも通りのクールな表情である。あれ、なんだか、何を話せばいいかわからないな。わたしいつも伏黒くんと何を話してたっけ? 彼はもともと口数が多い方じゃなかったけど、それでも別に一緒にいて苦じゃなかったのに。どうしてだろう、と思ったところで彼が口を開いた。

「……そんな無理して明るく振る舞う必要ないだろ」
「え、」
「そうは言ってもどうせ明日から無理するんだろうけど。事情を知ってる俺の前でまで取り繕う必要ないだろ」

その言葉はとてもぶっきらぼうだったけれど、明らかにわたしを労わってくれたもので。わたしは思わず目を見開いて、そのあと少しだけ視線を落とした。

「……顔だけでも笑ってたらさあ、心も元気になっていくもんなんだよ」

それはよく聞く話でもあるし、人より長く生きてきたわたしの持論でもある。しかしどうにもそう発した声は情けなく震えてしまって、こんなんじゃダメだ、と思っていたら伏黒くんが静かに続けた。

「……いま元気な必要あるか? 落ち込んでて普通だろ」
「…………」

そう言われた瞬間、ぼろぼろっと両の眼から涙が溢れ出す。わたしはそれにびっくりして立ち止まった。伏黒くんも目の前で同級生が突然泣いて驚いたのか一瞬固まる。まずい、心配かけちゃう、とわたしは慌てて手のひらで涙を拭うも、流れ始めたものはなかなか止まってくれなかった。

「あ、あれ? ごめ……。ず、ずっと、一回も泣いてなかったのに、なんで……」

ごめん、ごめんね。そう言いながらゴシゴシと手で顔を拭う。ああやばい、これじゃ腫れちゃうな、そうわかっているのに泣きやめなくてほとほと困っていると、伏黒くんはわたしに背を向けて少し歩き、端に置かれている自販機に向かった。そしてわたしに「水でいいか? ……甘いもののほうがいいか、ミルクティーとかか? あったかいやつか?」と聞いてきた。

「えっいいよ、ごめ、気にしな……」
「いいから。どっちがいいんだ」
「じゃ、じゃあ、ミルクティー……」
「ん」

圧に負けて答えると、伏黒くんはピッとICカードをタッチして、あったか〜いと書かれたミルクティーのボタンを押した。ガコンと音を立てて、ペットボトルが落ちてくる。伏黒くんはそれを取って、わたしに渡してくれた。

「……飲め。あと、食え。で、なるべく寝ろ」
「……」
「だいぶ痩せたろ。笑ったりすんのは後でいいから、落ち込んでても別にいいから、ちゃんと飲んで食って寝ろ」
「伏黒くん……」

不器用な優しさに驚きながらも、伏黒くんが有無を言わさずわたしを壁際のベンチに座らせてきたので、促されるままペットボトルを開けて一口飲み込んだ。優しくてあたたかい甘みが喉を落ちていって、体がじわりと暖かくなる。もう春なのに、病院は適切な室温を保っているはずなのに、自分の体が存外冷えていたことに気づいて驚いた。

「……あったかい」
「ホットだからな」
「伏黒くんは本当に優しいね」
「別に普通だろ」

その物言いに少しだけ笑ってわたしはまたミルクティーを飲む。ああ、ありがたいなあ。伏黒くんがいてくれてよかったなあと、しみじみ噛み締めた。

「……五条さんから聞いた。忌引が明けたら特訓して任務にもついて、呪術高専に入る気でいるって」
「……」
「本気か?」

その声は明らかに不満そうな色を孕んでいて、わたしは思わず苦笑してしまう。

「……なに笑ってんだよ」
「だって嫌そうだなと思って」
「嬉しいわけないだろ」
「そういうもん?」
「なんで俺が嫌がってんのか苗字がわかってないから余計に嫌なんだよ」
「そっか」

その言葉は真剣で、呪霊を倒すにあたって数々の地獄を見てきたからそう思うんだろうな、とわたしに感じさせるには十分だった。

「……お父さんの敵討ちとか、お母さんや妹の目を覚まさせる手がかりを探すためとか、そういう理由じゃ不十分かな」
「理由の問題じゃない。それに、そういう私情はいざというとき判断を鈍らせる」
「……そっか。心に刻むね」
「…………」

伏黒くんはきっと、今までいくつもの修羅場を経験してきたんだろう。だからこそ出た言葉だ。重い言葉だ。そしてそれは彼自身に言い聞かせているようにも聞こえた。伏黒くんだってお姉さんに危害を加えられたんだ、冷静でいられるわけがない。でもきっと、そんなあまっちょろい気持ちじゃ呪術師なんてできないんだろう。それを彼はわかっている。わたしなんかより、ずっと。

「……まあ、そんなに長い付き合いじゃねえけどお前が頑固なのはわかってる。聞かないんだろ、俺がなに言っても」
「ふふ。……うん」
「じゃあせめて、ちゃんと飯食って寝ろ。それができないやつは、呪術師になんかなるな」
「……はい」

伏黒くんの激励は、どんな慰めよりも効いた。わたしはもう一口ミルクティーを飲んで、立ち上がる。

「……よし。今日は久しぶりに晩ご飯ちゃんと作ろっかな。伏黒くんも食べてく? って家に用意されてるか」
「……ない。もともと姉と二人暮らしだ」
「えっそうなの? ……苦労してたんだね」
「別に、慣れた」
「でもそっか、じゃあお互い家に一人か。……ならよかったら一緒にごはん食べよ、わたしが作るのでもよければ。紅茶のお礼もあるしさ」
「……助かる」

何が食べたいかな、というわたしに伏黒くんはなんでもいいと答えた。なんでもいいって言われるのが一番困るんだよ、と冗談めかしていうと、「甘いおかずじゃなければ嬉しい」と返ってきたから少し笑う。しかしそんなわたしに彼は「苗字が食べられるものでいい。最近あんまり食ってなかったなら変なモン入れると胃がびっくりするだろ」と続けたので、目をぱちくりしてしまった。……伏黒くんはよく気がついて、優しくて、聡い。

「確かに。簡単だし男の子なら喜ぶかなってカレーとかにしようかと思ってた」
「カレーは重すぎるだろ、お前自分がどんだけ痩せたかちゃんと確認したほうがいいぞ」
「えーそんなに……? じゃあおかゆとかうどんとかのほうがいいかなぁ。でもそれじゃ伏黒くんが物足りないじゃん」
「俺は食えたらなんでもいい」
「うーん」

その回答にわたしはうーんと唸る。あれでもないこれでもないと考えて、そうだ! と閃いた。

「じゃあ肉うどんにしよっか。わたしはお肉の量とか調節したらいいし」
「……肉の脂、しんどくないか」
「ここのところごはん食べてなさすぎて食べてみないとわかんないかも」
「俺は別におかゆでいい」
「いいからいいから。きつかったら別で卵うどん作るしさ、わたし病人なわけじゃないんだから大丈夫だよ」
「……」

そう言ったわたしに、伏黒くんは少し考えるように黙ったあと「頼む」と言った。そんな彼にはーいと返事し、二人でわたしの家の近くのスーパーを目指す。
誰かのためにご飯を作るなんて本当に久しぶりで、なんだか少しだけ救われる気がした。














それから二人で食材を買って家まで辿り着き、テレビでも見ててと待ってもらってわたしはその間にキッチンへ向かった。……見慣れたリビングのソファーに伏黒くんがいるのは、なんだか不思議な感じがしたし、彼も彼でなんだか少しそわそわしているように見えた。わたしは久しぶりに包丁を握り小鍋を出して料理に取り掛かる。こういう作業は案外自分の心を落ち着けるのにもいいかもしれない、と思った。ご飯を作るとまず嗅覚が満たされるし、味見をして調味料を振るのは楽しい。出汁を最後にもう一口飲んで、よしと頷いたわたしはそれをテーブルに運んだ。美味そう、と少し目を輝かせる伏黒くんにお口に合えばいいけど、なんて言いながら食卓につく。そして少しドキドキしながら伏黒くんが箸をつけるのを待った。

「……うまい」
「ほんと? よかった〜」
「苗字、料理できるんだな」
「まあ、一通りは……?」

前世で曾孫を抱くくらい生きているしそれなりに母の手伝いはしていたので大概の家事はできるんだけれど、褒められるとほっとする。安心しながらわたしも自分のうどん(お肉少なめ)に口をつけた。うん、おいしい。

「なんか、久しぶりにまともなご飯を食べた気がする……」
「だろうな」
「えへへ、これからはちゃんと食べるね」
「ああ」

相槌を打つ伏黒くんは、元気にもりもりと箸を運んでくれている。それを見ていると、思わず笑みが零れた。

「なに見てんだ」
「美味しそうに食べてくれるから、つい」
「……まあ、美味いからな」
「よかった」

飾り気のない彼の言葉は、思っていたよりも疲弊していたらしいわたしに沁みる。四人用のテーブルは、伏黒くんと二人並んでも少し広く感じたけれど、それでもわたし一人の時よりずっとマシだ。伏黒くんが静かにうどんのスープを啜る音がする。顔も綺麗なのに食べ方も綺麗なんてずるいなあ、と思った。そして、これからもわたしの料理を食べてほしいなあ、とも。

「……伏黒くんさあ」
「なんだ」
「一緒に住まない? ここで」
「っげほ!! げほっ、ゴホッ!!! げほっ!!!」
「あっごめん、ティッシュティッシュ」
「っ、ティッシュティッシュじゃないだろ! ッゲホ、」

軽い気持ちで言った言葉にどうやら伏黒くんは相当驚いてしまったらしい。慌ててティッシュを渡すと彼はそれを口元に当て、鋭い目付きを向けてきた。

「……なんてこと言うんだ、いきなり」
「んー? いやぁ、伏黒くんがあんまりにも美味しそうに食べてくれるから嬉しくて」
「だからって一緒に住むはおかしいだろ」
「あはは、まあそうなんだけどさ。……一人じゃ広くてねえ、この家」

そう言うと伏黒くんは少し考えるように黙り込んだあと、水を一口飲んで口を開いた。

「……さすがに一緒には住まないけど、たまにこうやって飯食わせて貰えたら俺も助かる」
「おっ。じゃあ次は伏黒くんの好きなもの作っちゃおうかな、リクエスト考えといて」
「……ん」

そう言って柔く笑んだ彼に今日だけでどれほど助けられたんだろう。伏黒くんのおかげで、明日からの学校もなんとか頑張れるようなそんな気がした。

そして夕食後、伏黒くんが洗い物をやると言ってくれたのでわたしはそれをソファに座りながら待った。無事に片付け終えたらしい彼にお礼を言うと「こちらこそ」と返ってくる。現在の時刻、19時過ぎ。

「もうこんな時間か。そろそろ帰る」
「えっもう帰っちゃうの? せっかくだしもうちょっとゆっくりしていきなよ」
「……そんなに長居したら悪いだろ」
「わたしが悪くないって言ってるんだからよくない?」
「…………」
「あっもちろん伏黒くんが嫌ならいいんだけど」
「………………別に嫌ってわけじゃないけど」
「ならもうちょっといてよ、アイスあるしテレビでも見ながら食べよ」

ちょっとめんどくさい女になっちゃってるかな、そう思いながらも冷凍庫の中のファミリーパックのアイスクリームを取り出した。だってこんな大量のアイス、わたし一人で食べるなんて寂しすぎるし。でも残しておくには冷凍庫を圧迫しすぎるし。
いまは落ち込んでいていいと伏黒くんが言ってくれて、随分わたしの心は穏やかになった。だからある程冷静になるまでは落ちこもうとも思っている。……けれども悲しみに打ちひしがれていたって、日常を過ごすことは生者の務めだから。

アイスクリームを伏黒くんに渡すと、彼はサンキュと小さく言った。見たいテレビある? と聞くと別にどれでもいいと返ってくるので苦笑する。そしてなんとなくつけたバラエティーをくすくす笑いながらふたりで見た。もっと無表情なんだと思っていたのに、時折ふっと彼が隣で吹き出すから、新しい一面を知れたようで嬉しかった。

久しぶりにちゃんとご飯を食べて、テレビなんか見ちゃって、笑って。なんだか少しずつだけれど、大丈夫になれるような気がした。伏黒くんと過ごす時間はゆっくりと流れる。座り慣れたソファの沈みが心地よい。わたしはクセで自分がよく座っていたところに腰掛けていた。今までは座っても孤独が身に染みるだけで切なかったから避けていたのに、伏黒くんがたまたまお父さんの特等席に座っていてくれたから、それがありがたくてわたしも腰掛けることができたのだ。妹の好きな俳優が番宣に出ていて、お母さんが行きたがっていたお店が紹介された。胸は苦しいけれど、きっと少しずつ乗り越えていける。大丈夫、大丈夫。そう自分に言い聞かせる。なんだか優しい疲労感が体をそっと自分を包んだ。

















「苗字?」

気づいたらわたしは眠ってしまっていたようだ。遠くで伏黒くんがわたしを呼ぶ声が聞こえる。覚醒と睡眠の狭間、ぼんやりとした意識。よっぽど疲れがたまっていたのか体はどうにも動かせない。まずい、起きないと。そう思っているのに、四肢は泥に沈んだように重かった。

「……寝てんのか。まあ、疲れてたんだろうな」

伏黒くんがぽつりと独り言を言う。だめだ、起きなきゃ伏黒くんも困るだろうに。そろそろ帰してあげないと、でも……なんて思っていた時。彼はゆっくり言葉を紡いだ。

「…………頑張ったな」

そう言って伏黒くんがそっとわたしの髪に触れて、慌てて手を離した。何してるんだ、と自分に言わんばかりの慌てぶりが少しだけ面白い。面白いのに、目頭が熱くなる。うん、そうなの、頑張った。頑張ったんだ、この一週間。まだまだ頑張らないといけないけど、これからはもっと頑張らないといけないけれど、それでも。

伏黒くんがそう認めてくれて、なんだかとても救われる思いがした。

泣いてしまったら眠っていないことがバレてきっと伏黒くんをさらに動揺させてしまうだろう。だからわたしは奥歯を噛み締めなんとか涙を零さないように耐えた。もう少しだけしたら目を開いて、明るく「ごめん寝てたね」って言おう。でもいまは、君の優しい声をただ抱きしめさせていて。

落日