お湯をかぶると男になっちゃう女に人生をめちゃくちゃにされる凛くんの話


 糸師凛は激怒した。必ずこのブルーロックとかいうふざけた施設で一番を取らねばならぬと決意した。糸師凛は最近公開された小説のサンプルページによると壊滅的に勉強ができない。けれども自分よりサッカーが上手い人間に関しては、人一倍に敏感であった。

「なあ〜まだトレーニングやってんの? いい加減そのへんで終わらせないと体壊すぜ?」
「黙れ、うせろ」
「酷くない? 心配してやってんのにさあ」
「誰が心配しろっつった……ぬりぃんだよ。お前こそとっとと部屋に戻れ」

 ここはブルーロック伍号棟。そのトレーニングルームにて、チームVに所属しているブルーロックランキング221位の糸師凛は今日も今日とて自分を追い込んでいた。傍目から見ても過剰な程と言えるトレーニングの様子に、##name3##はため息を吐く。しかしそれにすら凛はチッと舌打ちをした。
 名字##name3##はブルーロックランキング222位、凛のチームメイトである。凛は伍号棟ランキングトップに君臨することと、持ち前の取っ付きにくさ・無愛想さからチームメイトに一線を引かれていた。しかしその中でもやたらと構ってくる人間、それが##name3##だ。その存在に凛はいい加減飽き飽きしていた。

「なんでそんなにイライラしてんの? やっぱ絵心が言った内容が癪だった?」
「……お前には関係ないだろ」
「あるよぉ、チームメイトだもん。君エースなのに、体壊されたらこれからの試合に響くじゃん」
「これくらいで壊すかよ」
「ほんとにー? 明らかに追い込みすぎてると思うけど。まあ確かに君みたいな人間が伍号棟なんかに入れられて、上にはもっと上がいるって言われたら腹立ってしょうがないんだろうけどさあ」
「…………黙れ」
「でもこうなっちゃったもんは仕方ないんだから、諦めて適切なトレーニングしようよ。明日も試合なのに、そこでうまくパフォーマンスできなかったらそれこそ意味無いじゃん」
「黙れっつってんだろ」
「黙れ黙れってさー、俺は凛くんのことがしんぱ───────」

 ビシャアッ!!!
 心配で、と言おうとした瞬間、顔面に突然冷たいなにかを叩きつけられて##name3##は固まった。いきなりのことで理解が追いつかずにいると、体がドクンと跳ねる感覚がする。あっやばい、と“彼”が思った時にはもう遅く、##name3##が口を開くよりも先に目の前の凛が「……は?」ととんでもないものを見たかのような声を出した。そう、実際、凛はいまとんでもないものを見てしまっているのだ。

「……ちょっと〜!! 水かけんのやめてよ! 女に戻っちゃったじゃん!!」
「なっ……!?」

 糸師凛十六歳、言葉を失う。それは何故って、先程までトレーニングをする自分の横で耳障りなことを言い続けていたはずの男───────背も自分と対して変わらない高身長で、筋肉もそれなりに発達していて、こいつフィジカル強いな……とかスナミナあるな……ドリブルうめーな……いい動きするな……なんて自分に思わせていたはずの男が。……そう、男が。
 背が縮み、髪が伸び、ガタイも華奢になり……自分も着ているトンデモパツパツブルーロックスーツがぶかぶかになり、……ぶかぶかになったのに、明らかに、胸の部分は確かな膨らみを……そして突起を主張させているのを、見つけてしまったのだ。

「な……っ、おま、おん……」
「あ、ごめん。この禁欲的な環境にこれ、刺激が強いよね? いまブラしてないし」
「っ……!?」

 困ったなぁ、と言いながら両胸を隠す##name3##に凛は卒倒しそうになった。そのポーズがどうにもいやらしかったのである。しかし何より、全く動じていない様子の##name3##に凛は何が起きているのか理解することすらできない。口を開けてもなんと言えばいいのかわからず唇を震わせるしかない凛に、##name3##は「ああ、びっくりしたよね」と笑った。

「わたし、お湯をかぶると男になって水をかぶると女に戻っちゃう体質なんだ」

 ……どんな体質だよ!!!
  そうツッコミを入れたくなったがあまりのことに凛は声すら出せない。そんなとき、ブィンと音が鳴ってトレーニングルームのモニターが起動した。

『おい、名前。いくらなんでも早すぎだろ、バレるのが』

 画面に映るのは絵心甚八。まさに今しがた凛と##name3##の話題に上がっていた人物である。そんな彼の登場……しかも、どうやら##name3##の事情を知っていそうな口ぶりと、聞き慣れない名前に凛が眉を寄せたとき。
 ##name3##が緊張感のない声で甚八に話しかけた。

「甚八くん! げーっ見てたの? でもこれ不可抗力すぎない? 普通まともな人間は他人に水をかけたりしないよ。こいつ頭がどうかしてる!」
「あ?」
『ピーピー喚くな、女に戻ったお前の声は頭に響くんだよ。とりあえずお前ら、俺のいるモニタールームまで今すぐ来い』
「げ、お説教? マジでわたし悪くないんだから怒るのやめてね」
『うるさい、早く来い』
「はーい。だってよ凛ちゃん、行こ〜」

 ブツっと音を立てて通信は途絶え画面が消える。それにやれやれ、といった雰囲気で部屋を出ようとする##name3##に、凛は訳が分からないながらもとりあえず立ち上がった。そして前を進んでいく##name3##に彼は聞く。

「……おい、どういうことなのか説明しろ」
「えーわたし説明苦手なんだよねえ。たぶん甚八くんの方が上手いからあとでよくない?」
「後回しにできるようなモンじゃねえだろ。なんで男が女になってんだよ。……夢か?」
「夢じゃないんだなぁ〜それが。まあ端的にいうと、わたしは名前ちゃんっていうかわいい女の子で、うっかり異世界にトリップしちゃって、せっかくトリップしたなら男になって女の子にモテたいって神様的なひとに頼んだらこの体質にしてくれたってわけです」

 理解オーケー? と軽い調子で尋ねる##name3##に凛は思いっきり眉根を寄せる。理解出来るわけないだろうが! と噛み付いてきそうな彼に、##name3##は楽しそうに笑った。

「まあとりあえず甚八くんのところに着いたら改めて説明するよ。この世界に来た時からわたし甚八くんにお世話になってんの」
「…………」
「人生何があるかわかんないよね〜。ウケる」

 ウケるで終わらせるな……! と思いながらも凛は##name3##の話した内容が全く理解出来ずなんの言葉も発せなかった。異世界トリップ? 神様? 女が男になる???
 マンガでもないような突飛な内容の盛り合わせに凛が頭を抱えている間に、二人は絵心専用モニタールームに辿り着いた。そして##name3##がコンコン! と扉をノックして声をかける。

「甚八くーん! わ・た・し。早く開けて〜、いまブラしてないからこの亀甲縛りスーツのせいで乳首浮いてるんだよね」
「なっ、」
「……せめてタオルかなんかで隠すとかないのか、マヌケ」

 ##name3##の爆弾発言に十六歳男子高校生の凛が言葉を詰まらせたと同時に部屋の扉が開いた。その瞬間ジャージを投げられた##name3##はありがと〜と言いながらそれを着る。あまりにも慣れた様子に凛は眉間に皺を寄せながら口を開いた。

「おい、どういうことだ……ちゃんとわかるように言え。コイツの説明、要領を得ないんだよ」
「名前がアホなのは今に始まったことじゃないからな。ま、しかし糸師凛。こういうのは見せた方が早い。……アンリちゃん」
「はーい!」

 絵心がそう名前を呼んだ瞬間、やかんを持ったアンリが二人の元に現れた。そしてそのままの勢いで、やかんからお湯をそのまま##name3##に注ぐ。

「ギャーッ!? あつい! 熱いって!! わたしの適温は40度なの知ってるでしょアンリちゃん!!」
「しょうがないでしょ、絵心さんが熱めにしてお灸を据えろって言うんだから。本当にバレるのが早すぎるわよ、反省して」
「だからあれはわたしじゃなくて……」

 そう言っている間に、##name3##の声が変わっていく。それだけでなくぐんぐん伸びていく身長や短くなる髪に、凛は己の目を疑った。

「凛くんが悪いって言ってるじゃねーか。俺なんにも悪くないもん」
「一流のストライカーを目指すなら投げられる水くらい避けろ」
「甚八くん、ストライカーのことを念能力者かなんかだと思ってる? 違うけど。運動ができるだけの普通の人間なんだけど」
「お前のそのとんでもない体質で普通を語るな。ファック・オフ」

 そう言った絵心にまあそれもそうか、と言った##name3##はアンリからタオルを受け取ってごしごしと濡れた頭や顔を拭きながら笑った。

「……とまぁ、こんな具合で。俺は男になったり女になったりできるスーパーピーポーなわけなんだよ。ね、甚八くん」
「何がスーパーピーポーだ。びっくり人間って言え」
「いいじゃんなんて言っても! 甚八くんのいじわる!」
「男の状態でいじわるとか言うな、気色悪い。……まあ、とにかく糸師凛。お前の目の前にいるこの男はそういうびっくり人間だ。聞いたかもしれないが異世界から来た女。俺も信じたくはないが、この世界には神様とかいうやつがいて、うっかりそいつのミスでコイツは次元を超えて宇宙のさらに向こうからやってきてしまったらしい」

 コイツ、と指をさされた##name3##はへらりとした笑顔を凛に向ける。凛はあまりの内容にドッキリか何かかと思ったが、目の前で見せられた光景とこの語り口調からどうやら真実らしいと思い始めていた。とはいえどうしても夢ではないか、の気持ちはあるのでこっそり太ももを抓ってみる。ちゃんと痛かったので唇を噛んでいると、そんな凛に##name3##が言った。

「で、その神様に“お前のミスでこうなったんだからもうちょっと人生楽しめるようにしろよ”って脅したらこうなったってわけ。俺、ずっと女の子にモテるの夢だったんたよね〜」
「……お前、中身女なんだろ? 女が好きなのかよ」
「ううん、恋愛対象は男だよ。でも女の子ってかわいいからモテたら嬉しいじゃん? あと俺の中身が女だって知らずに一生懸命アタックしたり媚びてくるのとかムダすぎてめちゃくちゃウケる。最高」
「……性格最悪じゃねえか」
「人の顔面に水ぶっかけてくるようなやつに言われたくね〜」

 ねえアンリちゃん、と##name3##が言うとアンリは溜息をつきながらどっちもどっちよと言った。そんな三人にハァ、とめんどくさそうに溜息をついた後絵心は続ける。

「とにかくこいつは俺の前に突然現れて、そのクソ神様同伴で俺に面倒を見るように言ってきた。で、異界人の能力には興味があったから、サッカーの才能があるなら面倒を見てやってもいいって言ったわけ。そしたらその神とやらがよくわからない力で戸籍やらでっちあげの学歴やらまで作り出しやがった。そしてコイツは名字##name3##という名前の人生を手にしてここに来た」
「いやーマジで俺、才能に恵まれててよかった〜」
「ファック・オフ。お前なんかまだまだだ、成績を残さないと路頭に迷わせるぞ」
「やだ〜〜〜!!!」
「男の姿で喚くんじゃねえ」

 絵心はそう##name3##を窘める。そのあと凛に向き合った。

「ちなみにコイツがこの体質であることは一応トップシークレットね。この世界でそれを知っているのは俺とアンリちゃんしかいなかった。しかし糸師凛、お前はそれを知ってしまった」
「……それがどうした」
「これ以上それが広まるわけにはいかないの。このとんでもねえ体質が世間にバレたら大変なことになるからな。……だから糸師凛、これは命令だ。名前が女だとバレないよう、お前がガードしろ」
「っ、はあ!?」

 なんで俺が……! とキレる凛に、「拒否権はないから。じゃ、そろそろお前ら部屋に戻れ」と絵心が言い放つ。おい待て、と凛は食い下がったが、「こうなった甚八くんに何言っても無駄だから行こ〜。そろそろ眠いし」と##name3##は歩き出した。それにチッと舌打ちをして付いていくと、##name3##はにやりと笑いながら言った。

「ま、というわけでよろしく凛くん。あ、これから頑張ってもらうことになるかもだから、お礼にもし溜まったらヌいてあげるよ?」
「……っ男の姿でキモイこと言ってんじゃねぇ、死ね!」
「女の姿でならありでしょ?」
「ナシだ、死ね」
「えーっ女の俺けっこうかわいいと思うんだけどなぁ。どっちの方が好み? こっちの方が好きなら抱いてあげるんだけど。俺凛くん相手ならいけると思う」
「マジで死ね……!!! 誰がお前なんかに……っ」
「あ、凛くん攻めのほうがいい?」
「黙れマジで、死ね、殺す……」
「ははっ語彙力なさすぎ。ウケる、かわい〜」

 ケラケラと笑う##name3##に凛はもう一度頭から水をぶっかけてやろうかと思った。しかしその途端つい先程のトンデモパツパツスーツに包まれた女体を思い出してぐっと奥歯を噛み締める。
 最悪だ、そう思いながら凛は##name3##に続いて廊下を進んだ。こうして二人の難儀な監獄生活の幕が開けたのである。













糸師凛
かわいそう。名前の本来の姿がかなり好みだったのでさらにかわいそう。

名字##name3##
別に呪○郷に落ちたわけではない。男の声で女言葉を使うのはキショイなぁと思っているし絵心にも怒られたので男体化中は男言葉を使っている。

絵心甚八
歯磨きをしてるときに名前が神様同伴で目の前に急に現れた。名前のことはそれなりに気に入っている。二人暮らしをしていた時期もある。

アンリちゃん
かわいい。##name3##の姿の名前に一度口説かれてちょっとときめいてしまっているのでまあまあ名前にあたりが強い。ちなみにその瞬間絵心が##name3##に水をぶっかけた。

神様的な人
かわいそう。一生名前に言いように使われる。時空の管理人とかいう名前でいろんな異世界を管理していた。一昔前に流行った異世界トリップものによくいた存在。

続くかどうか
わからない