凛くんをドキドキさせないと出られない部屋!?

『最近ぜんぜん会わないけどどうかした?』
 ここ三週間程、幼なじみでお隣さんの凛の姿を見ない。彼とは高校こそ違うもののいつも朝出る時間が被ったり、帰りが被ったり、コンビニで出くわしたりしていたのでこんなに長い期間一度も顔を合わせないのは初めてだった。何かあったのではないかと心配になりながら、少し震える指でメッセージを送る。
 もしも返事がなかったらどうしよう……なんて最悪の想像をしていると、しばらくして「サッカーしてる」とだけ返ってきた。無事だったことと彼らしい回答に安心しつつ、どういうことだと詳しく聞くと、どうやらサッカーの強化指定選手に選ばれて特別な施設にいるようで、いつ帰るかわからない状態らしい。
 話を聞く限り、最後に会った日(登校時間が被っただけだけれど)がブルーロックとかいう施設に行く前日だったようだ。……そんなことになるのなら、行く前に一言教えてくれてもよかったのに、と少し不貞腐れてしまう。けれどもそんなめんどくさい事は当然言えないまましばらくやり取りをした後、もう寝ると連絡がきたので「おやすみ、頑張ってね〜」と送ってスマホを閉じた。
 凛は幼なじみでお隣さんであると同時に、私の好きなひとだった。いつから好きなのかも、なんで好きになったのかももはや記憶にない。それくらい私のアイデンティティのひとつに「凛が好き」という思いがあった。物心つく前には私は凛に夢中だったのである。……肝心の凛くんは私なんかにこれっぽっちも興味がないわけだけれど。
「はーあ」
 考えていたらなんだか虚しくなってきたし、私も歯磨きをして寝よう。まあ事件や事故に巻き込まれたとかじゃなくてよかったな、と思いながら洗面所へ向かうため扉に手をかけた。にしても相変わらず素っ気ない文章だったなあ、なんてぼんやり考えながら廊下に出て、そこでようやく異変に気づく。
「はえ?」
 ……廊下に出たはずなのに、なぜか私は見知らぬ部屋にいたのだ。
「は? え? ここどこ??」
 家具は一通り揃っているがどこか生活感のない無機質な部屋。しかも後ろを振り返ると扉はなくなっていた。それに困惑していると、今度は向こうの方からガチャリと扉が開く音がした。そして「……あ? なんだここ」という声。……聞き覚えのある声。
「凛!?」
「あ? なんでお前が……」
 どういうことだと困惑していると、ピンポンパンポーン♪と機械的なチャイム音が流れた。それに驚きキョロキョロすると、女性のアナウンスが入る。
『糸師凛がドキドキしないと出られない部屋、スタートです』
「あ?」
「は?」
 どういうこと!? と慌てるも放送は終わってしまった。あたりを見回してもスピーカー的なものはないし、何もかも意味がわからない。
 ていうか何? 糸師凛がドキドキしないと出られない部屋とか言った!? 本当に意味がわかんないんだけど!
 でもアナウンスで糸師凛と名指しされてていたから、きっとこれは凛に起因した事象なのだろう。そう検討をつけた私は、慌てて彼の方に近づいて腕を掴んで顔を見上げた。
「ねえ凛! なんか心当たり​─────」
『ミッション達成。隣の部屋の扉が開きます』
「……何!?」
「………………」
 目が合った瞬間、またアナウンスが流れて隣室からガチャリと鍵の外れる音がした。……マジで、さっきから、何!?
「……とりあえず隣の部屋行くぞ」
「う、うん。……えっ本当に意味がわからない、私自分の家にいたんだけど」
「俺もブルーロックにいたはずだ」
「そうじゃん! 頑張ってね、サッカー!」
「…………」
「なんで黙るの?」
 私は久しぶりに凛に会えたから嬉しいんだけど、凛はそうではないらしい。なんかいつも以上に無愛想だな……と思いなから隣室に向かうと扉を見つけた。ちゃんと私の部屋のドアと同じ形をしたものと、見覚えのないもの……おそらくブルーロックの物だろう、が並んで設置されている。
「ここを開けて進めばいいのかなあ。ていうか本当にいったいなんなの? これ」
「俺が知るか」
「でも凛の名前呼ばれてたじゃん。あれ、そもそもドキドキしないと出られない部屋って何? 凛ってさっき何かドキドキし​─────」
 ガチャッ! バタン!!
「ええ……???」
 ドキドキしたの? と聞こうとしたのにそれを遮るかのようにすごい勢いで扉を開かれ凛は向こうに行ってしまった。いや早すぎ。躊躇いとかないのか?
 凛が去ったのを見てとりあえず私も自室と同じ形の扉に手をかけ、ドアを開いておそるおそる中を見てみると確かに紛うことなき自分の部屋がある。
 においも雰囲気も全く同じ私のものだ。とりあえず中に入るか……と思いながらベッドに視線をやったところでスマホの存在に気づいた。夢じゃない……よね? さすがに。とりあえず凛にメッセージを送ってみよう。そう思いながら私は扉の向こうに足を踏み出した。

 ​────この時の私はまだ知らなかった。凛が「久しぶりに会う私」にドキドキしてしまい、条件をクリアしていたことも。
 そしてこれから私と凛が、出られない部屋に入りまくるはめになることも​───────