びゅうううううう。
びゅうううううう。
「まじかよ・・・」
第三話
あなたとのハロー
次に目が覚めたら森にいた。
なんかしかもわりと怖そうな森だった。
結局旅団はいったいなんだったんだろう。とりあえずわかったことはみっつだけ。
1、ハンター×ハンターの世界に来てしまったということ。
2、なんか一応念が使えるっぽいということ。
3、すっごいおなかすいてる。
そもそもここがどこなのかもぜんぜんわかんない。
たぶん念能力みたいなので瞬間移動したんだろうけど、どこ行ったのかすらわかんないってどうなのそれ。
…ま、また違う世界とか行ってたらどうしよう…!!!この森を抜けたらホグワーツでしたとか…!!!
それもいいな・・・できれば親世代とわいきゃいしたり・・・普通に原作の時間軸ならハーマイオニーと図書館で仲良くなったり、ネビルが箒から落ちるの助けたり、バックビークからマルフォイを助けて仲が深まる夢小説の王道をね。したりね。したり………
「はー・・・」
みたいなふざけたことも考えてみたけど、まあね、つまりは限界なんですよ。心が。マイハートが。
…誰もいないし。ぼっちつらいし。おなかもすいたけどお金もない。まあお金あったとしても森しかないのでなんも買えない気もするけどね。
・・・もうお母さんのご飯を食べることはできないんだ。最後に食べたのはなんだったっけ。
そうかあ。もう会えないんだなあ。
トリップできるならもう、会いたいひとなんていないと思ってたんだけど、あー…。
「…これからどうしよ」
とりあえず手頃な木にもたれかかり座り込み、ぎゅっと膝を抱える。
どう足掻いても、絶望。
そんな言葉が駆け巡り、なんとも、ああ、ちょっと。
涙目だった。
…おなかはすいたし身よりもないし身分も証明できないしおなかすいたしお金ないしおなかすいたしおなかがすいた。
「トリップの定番といえば、ネテロさんに拾われるとかなんだけど…」
まあそんなに人生簡単にいくわけがない。その上そろそろ日が落ちる。
夜になればたぶん魔獣とかくまとか猪とか狼とかも出そう…ハードな世界にやってきてしまった・・・。
はあ、と深くため息をついた。
とりあえず空腹を満たしたいものの、ゴンみたいに木の実などを取って食べたことなんてないから危険か安全かの区別もつかない。
さっきまで手の中にあったロッドも、また消えてしまっていた。
「・・・・・」
どう足掻いても、絶望。
「うわあああん!!だれかたすけてええええ!!!!!」
どうしようもないなんてわかりながらも、ただあたしには叫ぶしかできなかった。
膝に顔を埋めると、熱いものが流れるのを感じる。
「(ああ、あたしこのまま、)」
ひとり寂しく死んでしまうんじゃ………
「だいじょうぶか?迷子か?」
悪い未来ばかり想像していると、突然上から声がした。
反射的にガバッと顔を上げる。
ずいぶん暗くなった森の中、影になって顔は見えないけれど…わりとガタイのいい男性が立っていた。
「(男のひと…?)」
人に会えた嬉しさ半分、警戒半分でじっと目をこらすと、そのひとはしゃがんであたしと目線を合わせてくれる。
…顔が、見えた。
「え・・・・」
「泣いてんのか?腹減ったか」
それは、とてもよく知る顔だった。
「ジ、ン…?」
「ん?オレのこと知ってんのか」
びっくりして止まった涙。
代わりに鳴り響くお腹の音。
「あ、」
罰が悪くてうつむくと、ジンはそれをカカカと笑い飛ばした。
「オレも今からメシだ。一緒に食うか、嬢ちゃん。
話くらいは聞いてやるよ」
そう言って彼は、ぽんっとあたしの頭を撫でた。
強ばって固まった体から力が抜けるのを感じる。
「(あ・・・)」
もうあたし、だいじょうぶだ。
絶対的な安心感が、彼にはあった。
「ついてこいよ。お前、名前は?」
「あ…サナ・タキガミ……です」
「そうか。よろしくな、サナ」
すっかり日は暮れ月が出た。
遠くで聞こえる獣の声すら、もう、まったく怖くなかった。
「こ、こんなおいしいものはじめて食べた…!」
「おう。もっと食え食え」
おなかになんかいれたら驚くほどに元気が出てきた。ついでにあんなに重たかった体も少し楽になった気がする。ごはんってすごい。
ジンさんは、目にも止まらぬ早さで魚を捕り火を起こし、ツヤツヤした果物らしきものとともにあたしに与えてくれた。
そして彼はどっしりとあぐらをかいていて、やっぱりまだいろいろ飲み込めないあたしは彼からほんの少しだけ離れたところに小さく座って魚をかじった。
ジンさんはあたしのことなど気にも止めない様子で、そっぽを向いて果物を口にしていた。
でもなんとなく発せられているあたたかい空気に、きっとあたしがいつ話してもいいよう待ってくれてるんだと感じた。
「あの……えっと」
「ん」
「ありがとう、ございました。助かりました…」
「気にすんな。オレもちょうど飯だったし」
それでももう一度お礼を言うと、ジンさんはポリポリ頭を掻いた。
あ、たぶん照れてる。
「・・・ジンさんは、なんでここに?」
「なんとなくな。そしたら女のたすけてーって声が聞こえた気がしたから来てみた。縁ってやつかねェ」
「な、なるほど…」
きっと常人離れした耳のよさだろうから、わりと遠くから来てくれたのだろう。
ほんとに助かった…
ついでになんか今後のアドバイスもらえないかな………
「お前はなんでこんなとこに?
わりと危ない森だぞ、ここは」
「や、やっぱりですか……いやなんかあたしもよくわかんないんですけど、ちょっといろいろあって…っていうか聞いてくれますか…?」
「おう」
あたしは合間合間にジンさんがくれたおいしい水(いやほんとにおいしい)を飲みながら今までのことをぜんぶ話した。
もうほんとにぜんぶ話した。ぜんぶぜんぶぜーんぶ話した。
ジンさんなら何を言ってもだいじょうぶな気がしたし、何よりそれが礼儀だと思ったからだ。
彼はすごく興味深そうに聞いてくれ、相づちこそ打ってくれたが口を挟まずすべて黙って真剣に受け止めてくれた。
地図の向こうのそのまた向こうからさ迷い出てきてしまったあたしの話を。
「そいつぁーたいへんだったな」
ぜんぶ話し終わったあと、ジンさんはただそう言ってくれた。
同情も疑念も不信も何もない。
ただ気の毒そうにそう言ってくれた。
・・・すごいひとだ。
すべてあたしが話し終わっても彼はどこまでも冷静で、あたしもそれにつられて少しずつこの現実に素直に向き合える気がしてきた。
このひとが慕われる理由、わかるなあ・・・
「念が使えるならハンターになるのがいちばん手っ取り早いとは思う。それが能力なのかどうかはわからねえから何も言えねェが、ハンターにさえなればとりあえず食いっぱぐれることはないんじゃねェか…まあ、なかなか厳しい世界だけどな。知ってるだろうが」
こくんと頷くと、ジンさんはまた魚をくわえるあたしの顔を見つめながら思案した。
「…サナがそれでいいんだったら、しばらくオレが面倒見てやるぞ。少しぐれェなら稽古もしてやる。
ハンターになってみるか?サナ」
ポリ。
びっくりして魚のしっぽが膝に落ちた。
無言でジンさんを見つめると、ジンも魚をくわえた。
なんだこれ。間抜けだ。
ぱちぱちと2、3瞬きをしても彼はそのままの調子で、ああこのひとはほんとうに真実だけを語っているんだと思った。
「・・・よろしくお願いします。」
深々と頭を下げると、ジンさんはゆるい調子でおう、と笑った。