夢通いしあなたの



中村菜々子。
住んでいたアパートが全焼し、その際頭を強く打ち付け記憶喪失になっている。

天涯孤独の身で、先月勤めていた会社が倒産し東京へやってきたーーーー・・・・。




「家族構成や身の上はだいぶ違うな」


記憶している限りでは、菜々子は本当に平凡な家庭で生まれ育ち、家族仲も良好で、仕事も順調だったはずだ。
現に、最後に夢の中で会った際は月末までしっかりと働いていた。

人違いでは・・・と言いたいところだが、見た目や氏名、年齢など、どれをとってもあの菜々子だとしか思えない。



どうして、ここに。

考えても解決の糸口すら見えない疑問にため息をつく。あの日を最後に菜々子は夢に出てこなくなった。本来であれば周期的に、もうとっくに出てきていておかしくないはずなのに。

それすらも、この菜々子が本当にあの菜々子であると示しているかのようで。


「何故・・・」


ずっと会いたかった。ずっと、現実の世界で会いたかった。

夢の中では連れていけない、自分が好んでいる食事処や、好きな場所に連れて行きたかった。


だがそれと同時に。
あの隔離された夢の中のような、安全な地で笑っていてほしかった。




・・・菜々子の住む日本と、自分の住む日本は似ているようで大いに違った。


施設名や土地柄もそうだが、何よりも菜々子の生きている日本の方が安全に見受けられた。

もちろんそれでも危険な事故や痛ましい犯罪はあるようだったが、話で聞いている限り菜々子は本当に平穏に暮らしていた。


・・・この世界に菜々子が来たと仮定して。


俺はどう菜々子と接すればいいのだろう。それとも接しない方がいいのだろうか。もし自分が過度に近づいてしまえば、危険な目に合うことは間違いない。

菜々子は自分の最大の弱みになり得る。



だけど、あの、お人好しが。

呑気で警戒心のカケラもない菜々子が。


この世界で穏やかにいきていけるのだろうか。平凡な日々を、送れるのだろうか。


菜々子の側に行ってもいいのだろうか。

守りきることが、できるのだろうか。
























「そこです、菜々子さん!そこで攻撃!!!」
「がんばれー!!!菜々子お姉さんがんばれー!!!!」
「うっおおぉぉぉおおお!!!!」
「おい!!!ずりーぞお前ら!!!」



元気な子供に混じる、アラサーの私の声。

そう、私はいま、絶賛元太くんと死闘を繰り広げているのだった。



「菜々子さん!!!そこで必殺技!」
「マルのボタン押すんだよ!!」
「うぉりゃー!!!!!」
「ぐわー!!!!!」



ぱんぱかぱーん!
光彦くんと歩美ちゃんのものすごい助言を受け、私はついに元太くんを倒したのだった。



「ずりーぞ!光彦も歩美も菜々子の姉ちゃんばっか応援して!」
「だって〜」
「菜々子お姉さんあんまりにも弱いんだもん・・・」


いやー参った参った。ゲームは好きだけどこっちの世界のゲームはよくわかんないし現役のゲーム世代である小学生は強い。

元太くんに惨敗が続いていたので、なんか知らないうちに二人がめちゃめちゃアドバイスしてくれるようになった。どんなアラサーだ。


「大人気ないぞー!おれの方が強いのにー!」
「ハッハッハ元太くん、強い者が勝つんじゃない、勝った者が強いんだよ」
「まあ菜々子さんは弱いですけどね」
「うん」
「やっぱり?」

こりゃ参ったなあ、と笑うと子供達も笑った。子供かわいいー。もともと子供は好きだけど、少年探偵団かわいいー。

そう思っていると、コナンくんがとことこと近づいてきた。



「いまお姉さんが言ったのって、サッカーのフランツ・ベッケンバウアーの台詞だよね?知ってるの?」


あ。ミスった。
(そういや私記憶喪失ってことになってるんだ)



「もしかしたら菜々子さんはサッカーが好きだったのかもしれないですね!」
「じゃあサッカー見たらなんか思い出すんじゃねえか?」
「今度一緒に観に行こー!」


なんて答えようか迷っていたら探偵団達が代わりにめっちゃ喋ってくれた。ありがたい。


「そうだね」


そのうち記憶喪失じゃないことは勘づかれるような気がするなあ。

それはしょうがないとしても、私いろいろ知りすぎてるから下手したら江戸川さんに怪しまれても何らおかしくないと思うし、ある程度仲良くなって無害な人間だと・・・思ってもらいたいな・・・。












「ほれ、そろそろ帰らないと親御さんが心配するぞ」
「「「はーい!」」」


そこからも引き続きお菓子を食べながらゲームをし、ひと段落ついたところで博士が言った。



「あ、じゃあ私送っていきますよ。子供だけで帰すの心配だし」
「みんなで帰るから平気だぜ!」
「だーめ。それに私このへんの地理ぜんぜんわかんないから、よかったら案内してくれると嬉しいんだけど・・・」
「じゃあ、みんなで菜々子さんのお家に今日買った物を届けに行ってから帰りましょうか!」
「え、いいの?助かる!」

この犯罪都市米花町に子供達だけを放つなんて、と思っていたら光彦くんがありがたい申し出をしてくれた。優しいなあ。


「すまんのう菜々子くん、助かるよ」
「あ、いえぜんぜん!今日は突然お邪魔させていただいてありがとうございました」
「ここでよければいつでもおいで。困ることもいろいろあるじゃろうし、気にせんと何でも言っておくれ」
「ありがとうございます!」


そしてペコリと頭を下げて、博士宅を後にした。




玄関に荷物を置きに帰ると昴さんが出てきた。
すごい荷物ですね、と少し驚いた後、今日の夕飯に肉じゃがを煮込んでいることを教えてもらった。嬉しい。



風見さんとぶつかったり、阿笠博士の家にお邪魔したり、少年探偵団と仲良くなったり。
今日はなんだかいろんなことがあった気がする。


このままどんどんこの世界に馴染んで溶け込んで行くのだろうか。そうしたらいつか、本当に元の世界に戻れなくなるんだろうか。


それとも、突然夢から覚めるみたいに気づいたら戻っているのだろうか。



わからないけど今は、とりあえずこの米花町について少しずつ覚えていこう。
私をここに呼んだらしい誰かのことも、探しながら。







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