夢相の行方
「もう3時か・・・」
伸びをした際、目に入った時計に降谷はため息をついた。
これ以上続けると明日のパフォーマンスに影響が出る。
寝るか、と布団の中に潜った。
正直あまり眠れる気はしなかった。
風見から受け取った資料をもとに、『中村菜々子』について調べていたのだ。
何も不審な点はなかった。しかし、あまりにも複雑な身の上で。菜々子のことを知っている者を見つけるのは苦労しそうだと・・・正しくは、誰かが菜々子の生い立ちを隠そうとしているんだろうと思った。
勤務していた会社は倒産し、通っていた学校は廃校、統合、合併。育ったとされる孤児院も、今ではもうなくなっていた。
さすがに意図的なものを感じる。
どれだけ不運な人間だったとしても、ここまで重なることはないだろう。
だがこの不可解な現象が、尚のこと菜々子が何か特別なものであると証明しているようで。
訳がわからないと思いながら、そっと目を閉じた。体が下へと落ちていく感覚。
ああ、眠りに、つく。
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「さすがに、気づくのが早いね」
声がした。
真っ白な空間。
見覚えのある世界だった。
「・・・誰だ」
前回ここに来たときは自分一人だった。
あのときは菜々子のことを考えているうちに、気づいたら朝が来ていた 。
だが今回は違う。
ここまで意識が明確な中で、菜々子以外の誰かが出てくるのは初めてのことだった。
「菜々子について、教えよう」
「!」
そう言いながら突然現れたのは。
緑色の長髪に、青い瞳を持つ男。
麗人は薄い唇で、言葉を紡いだ。
「私は時空の管理人。
中村菜々子を異世界からここへ連れて来た。
聞け、降谷零。
菜々子を守れ。でないと彼女は死ぬことになる」
「!?」
理解は全く追いつかないまま。
ただ、その声が何度も頭の中で反響した。
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「ハンマー男?」
「はい。まあ犯人が男性か女性かはわかりませんが、とにかく髪の長い女性がハンマーで撲殺される事件が立て続けに起こっているみたいですよ」
外に出る準備をしていたところ、沖矢さんにそう声をかけられた。
ハンマー男・・・そういやなんかそんな事件あったな、と60巻の内容を思い出す。
どうやらわたしがトリップしたこの世界は、しっかりと原作に従って時間を進めているようだ。
髪の長い女性かあ、と自分の胸元を見る。
ゆるくウェーブのかかった自分の長髪が胸元で揺れていた。
「まだ犯人は捕まっていませんし、場所もここから遠くありません。まだ続く可能性もあるので気をつけてくださいね」
沖矢さんは優しい声でそう言った。
この人に心配してもらえるなんて、本当にありがたいことだなあと元々の世界での彼の人気を思い出しながら心の中で呟く。
「はい、ありがとうございます!じゃあいってきます」
「いってらっしゃい」
笑顔でぺこりと頭を下げて、リビングを出るため扉を開けた。
ハンマー男かあ。
まあ正しくはハンマー女なんだけど、確か4件殺人を犯した後もう一件罪を重ねて、眠りの小五郎ではなく推理クイーンになった園子ちゃんに解決されたんだっけ。
これからあと二件起こるのか、ほんと物騒な世界だなあとわたしは一つため息をこぼした。
靴を履いて外に出る。
今日はハローワーク的なところに行って、失業保険はどうなっているのかを確認しにいきたいと思う。別にお金はまああるんだけど、どれだけあっても困らないものだし。ついでに仕事も探したい。
前職わりとハードだったから次はゆるいのがいいなあ、とぼんやり考える。
っていうか友達ほしい。社会人サークル的なものに入るべきかなあ。でもああいうの、宗教勧誘かネットワークビジネスの可能性が高すぎるんだよなあ・・・。
悶々としながらわたしは足を進めるのだった。せめて何かのアニメとかにはまれたらいいんだけど、こっちの世界と元いた世界じゃやってる作品も違うんだよなあ・・・
とりあえず部屋にテレビを置くところから始めよう、ハロワの後テレビ見に行こうと一人頷いた。
やばい。
なにがやばいって、どうやばいって、うまく言えないんだけど。
テレビコーナーを見てたらワイドショーで怪盗キッドの特集が組まれてて、思わず視聴者になっていたら隣に本人がいたくらいやばい。
いや。
いま本当にそんな状況なんです!!!!!!!!
「(ちょっと黒羽くん、学校は?!)」
ハロワに行って失業保険の手続き(倒産だから待機もなしに早めにもらえるみたい)をし、良さそうな求人票を数枚印刷してから家電量販店に来た。
ただいま平日の午後3時、おやつがおいしい時間。
部屋のサイズ的にそんなに大きくなくていいけど画質はこだわりたいな、とか、予約機能の充実、とかもろもろ私欲のままにテレビコーナーをさまよっていたらワイドショーで怪盗キッドが流れた。
そりゃあ、足は止まるわけで。わたし、ファンだし、キッド様の。
うわあー、本物だ、すごいー、一回生で見たいなあー。
なんてミーハー心丸出しで浮かれていたら。
まさか隣にいるなんて。
本物が。生が。黒羽快斗くんが。
イケメンだなあと思いつつ、あまりの衝撃的な出会いにわたしは開いた口が塞がらなかった。
いや、だから、学校は???(2回目)
そしてそれだけ凝視されていて、彼が気づかないはずもなく。
「・・・俺の顔に、なんかついてます?」
声までかっこよくて、そして、ワイドショーで流れる映像の中、高らかに話すキッド様の声と全く一緒で。
いやあんたもっとちゃんと変装しなさいよ、と思わずにいられなかったわたしは。
最悪の回答をしてしまうのである。
「いや、モノクルがついてないなと思って」
言った直後にハッとした。
あ、わたし、・・・バカだ。
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