夢の浮橋歩いてみては
「なーーーーーーーんてっ!じゃあわたし用事があるのでこれにて、しつれ・・・」
「い、させるわけないですよね?」
「ですよね・・・」
やってしまった。
うっかり黒羽快斗くんに、あんたキッドだよねー当然知ってますよーハイハイーみたいな態度を取ってしまった。
なんとか流して無理やり立ち去ろうとはしたものの、まあそんなことできるはずもなく。
くるりと背を向けようとしたものの腕を掴まれ阻まれて、中途半端なポーズで冷や汗を流すしかなくなってしまったのである。
アーーーーーーーーー。
やっちゃったなーーーーーーーーーーーーーー。
ちらりと黒羽くんを見てみるとめちゃめちゃ眉間に皺を寄せていらっしゃる。
彼も彼で、たまたま家電量販店で隣に立っただけの女に正体がバレてどうしたものか決めあぐねているのだろう。
彼からしたらわたしがどれくらいのパーセンテージで確信しているかもわからないわけだし、・・・っていうかわたし改めてめちゃめちゃ怪しい女だな。
「面白いこと言いますね、お姉さん。オレそんなにキッドに似てます?」
彼はとりあえずとぼける方向で行くと決めたようだ。ああ困ったな、わたしこの怪盗様相手に嘘つけんのかなー。
しかしつくしかない嘘もこの世にはあることをわたしはよく知っているので、そこそこ積んだ社会人経験を元にわたしもシラを切ろうと頑張ってみた。
「いやー、似てる気がして。まあでもこの年になると若い子はみんな同じ顔に見えるからわかんないわー、気のせいだったかしら、うふふ」
何キャラだよ。
思わず自分にツッコミながら、わたしはとりあえず愛想笑いを続けるのだった。じゃーんけーんぽん、うふふふふふ。
結局そのまま手を引かれて、カフェへと連れ込まれた。
うん、まあそりゃね、誤魔化せるわけないよね、わかるー。
トリップ早々出会うメンツが豪華だなーと思いつつも、まあ黒羽くんは変なことしないだろうしわたしは少しずつ落ち着きを取り戻していった。エンカウントしたのが口封じに殺してきそうな黒の組織とかじゃなくて本当によかった。
アイスカフェオレが飲みたいです、と言うと彼も同じものを頼んだので薄茶色のドリンクが二つ仲良く運ばれてきた。
ズ、と音を立ててドリンクを飲みながら考える。黒羽くんは何も言わずにこちらを見ている。
よーし、こういうときは先手必勝。
上司・社会・クライアント、その他もろもろの理不尽と戦ってきたあの日々を生かすのだ、自分。
そう意気込み、わたしは口を開いた。
「・・・驚かせてごめんなさい。そんなに警戒しなくても誰にも言いませんし、もともと知ってたわけでもなんでもないんですよ」
うそだけどーーーーー知ってたけどーーーーーー何もかも知ってるけどーーーーおまえの母ちゃんファントムレディーーーーーーーーーーーーーーー!!!
ハッ、こうやって社会人スイッチをONにするとなんか心の中の自分が口悪くなるな・・・劣悪な環境が産んだ怪物・・・。
「その割には、えらく自信があるみたいですね?」
「最初はもしかして程度だったけど、あなた本当にわかりやすく反応してくれたから・・・。いまの状況もより一層、肯定されてるみたい」
「・・・」
「わたし、目が良くて・・・っていうかわりと勘が鋭い上に目ざといんです」
うそだけどーーーーーーーーー鈍いけどーーーーーーーーーーーーケアレスミスの塊だけどーーーーーーーーーーーー後輩のミスとか全然毎回素通りしちゃうタイプだったけどーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!
引き続き内なる虎が騒いでいるがそのあたりは無視する。これがオトナというものだ。
黒羽くんは眉を寄せて、わたしの話の信憑性について考えているようだった。
「かっこいいなあ怪盗キッドって思いながらテレビを見てて、隣を見たらあんまりにもそっくりな男の子がいて。声を聞いたら声までそっくりだったから、もうこれは本物だろうなーって」
「・・・」
「でも誰にも言わないし、安心して?あなた悪い怪盗さんじゃないでしょう」
ニコニコ。ニコニコ。
どうだろう、これで騙されてくれるかな。
そう思いながら頑張って黒羽くんを見つめてみる。
彼の形の良い唇が動いた。
「うさんくせー・・・」
ですよね。
(でも異世界から来ました、本で読んでたので知ってますとか言う方がうさんくさいと思うの、わたし。)
「まあいいや、聞いてもわかんないだろうし。ところでお姉さん名前は?っていうか何してる人なの?」
「中村菜々子。無職」
「無職なんだ・・・」
「うん、ついでに言うと記憶喪失。住んでたアパートが全焼したんだけど、その時頭打ったみたいで」
「!」
どうせ調べられるんだろうから先に言っておこう。
そう思いながら話すと、黒羽くんは目を見開いた。
「ヘェー・・・それは災難だったね」
「まあねー。ま、そんな感じだから社会的信頼も何もないし、誰にもどこにもチクったりしないよ。安心して」
「・・・」
「ところであなたのお名前は?」
はぐらかされるかなあ、と思いながら聞いてみる。彼はもう一口カフェオレを飲んで言った。
「黒羽快斗。よろしく」
ああ、イケメンだなあ。
「会計わたしが払うよ、学生に払わせるわけにはいかないし」
「いーっていーって、無職の人にご馳走になるほど困っちゃいねえから」
「高校生のくせに」
「はいはい、まあ口止め料だと思って」
なんだかよくわからないけど黒羽くんは警戒を解いてくれたようだった。まあわたしみたいなちゃらんぽらんの間抜け面、警戒する必要もないと思ったんだろう、多分。
口止め料って言われると、ほんとちゃんと隠すしかないなあ・・・高校生にご馳走になってるわけだし。ウーン、と眉間に皺を寄せると彼は笑った。
「そういや菜々子さんだっけ。連絡先教えてよ」
「え?」
「なんかあったときのためにさ。これからオレ、もし疑われたら菜々子さんのせいだと思うから」
「ちょっと、そう思うならもっとちゃんと変装してくれる?」
まったくもう、と言いながらわたしは携帯を出した。
数少ないお友達フォルダに新しい人が追加されるのはまあ嬉しい。
にしても若いイケメンにナチュラルに下の名前で呼ばれるのなかなか胸にクるものがあるなあ。さん付けっていうのもかわいい。
「じゃあ俺行くけど、菜々子さんはこれからどうするの?」
「あー・・・テレビ探しに戻ろうかなあ。あ、あとご馳走様!」
「どういたしまして。テレビ本当に探してたんだ」
「うん。火事のせいで引っ越したし、テレビも壊れちゃったからねー」
だからあなたと会ったのはほんとに偶然なんだよ、と改めて言うと黒羽くん・・・快斗くんでいいかなあ、快斗くんはハイハイと笑った。
「そういえば快斗くんはなんでこんなところに?テスト期間とか?」
「いや、ワイドショーでめちゃくちゃ取り上げられるって聞いて見たくなって抜けてきた」
「そういう話だけ聞くとこどもみたいだね」
思わず笑いながら言うと、快斗くんは少しだけムッとした。可愛い。
「じゃあまたどこかで。あんまり危ないことしちゃだめだよ」
「へーい。菜々子さんも気をつけて」
そしてわたしたちはカフェの前で別れた。
あのカフェオレはなかなか美味しかったのでまた来ようと思う。
ただいまの時刻、4時3分。
テレビコーナーに戻るかと方向転換したとき。
「エッ・・・!!!」
目に入ったポスターに、わたしは体が固まってしまった。
「うそでしょ・・・!!?」
世界で一番好きなアニメの映画が、この世界で、やっている!!!!!!!
わたしは慌てて携帯を取り出しその作品をググる。うそ。うわ、やってるじゃん。タイトルが微妙に違うけど、恐らくほぼ同じであろうものがヒットする。
名前変わってたから気づかなかったんだ・・・。
驚きながらも喜びが隠しきれない。とりあえず今日はこの映画を見よう。そして帰ったらツイッターで作品を探して素敵な人と繋がってオフ会に行こう友達を作ろう、もう寂しくない、オタクでよかった!!!!!
「あーーーもうレイトショー1本しかやってないのかー」
上映時刻を調べると、けっこう前に放映が開始されていたらしく今日はもう夜の部しかなさそうだった。
まあでもいいや、これ行こう。とりあえずチケットを予約しに行こう。
そしてわたしはルンルンで、最上階に位置している映画館へと向かうのだった。
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