うわさのマジックショー




よし、これで元の世界に帰れる可能性が少しでも上がったかもしれない。
園子ちゃんや小五郎さんとお話をしてそう思っていたときだった。

「あ、来た!」


後ろの方で声が上がり、歓声が上がり始める。怪盗キッドキターーーー!という黄色い声が示す方を覗くと、たしかにそこにはハングライダーにプロペラをつけ、真白な衣装を見にまとった怪盗キッドがいた。いやまああれ偽物なんだけどさ。


「キッド様ァ〜〜〜〜〜!わたしはここよー!」
「ホントに来た・・・」


大きく手を振る園子ちゃんの隣で蘭ちゃんが驚いたように声を上げる。完全に誰もがその偽物に目を奪われていた。


「(ええと、あれを爆発させてみんなの意識を逸らして群衆の中から出てくるんだったかな)」


原作で読んだ内容を思い返してわたしはこっそりとパープルネイルに視線を戻す。すると大勢いる観客の中に一人、怪しい動きをする男がいた。
もしかして、そう思いその男を目で追う。彼は帽子を目深に被っていたが、パチっと目が合った。


「(あ、やっぱり)」


そこにいたのはキッドになる前の黒羽快斗。彼は少しだけ驚いた顔をした後、ニヤリと不敵に笑ってウインクをしてきた。

直後、ボンッという爆発音がしてわたしは反射的にそちらに頭を動かす。どうやらそれは偽キッドが爆発した音のようだった。突然煙幕が立ち込め、一瞬で何も見えなくなる。

「(わ、わかっていてもすごい)」


人間の反射神経というものは恐ろしい。先を知っているのにわたしは音に驚き、煙幕で悪くなった視界の中でキョロキョロと視線を彷徨わせる。何も知らない人がトリックに引っかかるのも無理はないだろうと思った。

「キ、キッド様は?」
「どこ?」


蘭ちゃんと園子ちゃんが慌てたように声を出す。その瞬間煙は晴れ、ヒュオッという風の切るような音にバサッとマントが波打つ音が聞こえた。
突如現れる白い姿。

ストッと彼はパープルネイルを展示する台の上に着地し、立ち上がる。


モノクル越しの瞳とまた目が合い、うっかり不覚にもときめいた。やっぱりキッド様はかっこいい。わたしは安室の女だが、キッド様はもはや初恋と言っても過言ではない・・・というかだいたい日本国民全員の初恋だろう、彼は(偏見)。


観客が湧き、皆が一斉にパープルネイルに押し寄せる。となりにいた園子ちゃんはより一層興奮したような声を上げていた。
そんな中、レポーターの女性が一生懸命キッドに近づきマイクを向ける。



「か、怪盗キッドさん!何か一言!」
「あ、では鈴木次郎吉相談役に伝えてください・・・」


キッドはこの群衆に囲まれながらも相変わらず不敵な笑みを崩さない。


「今回は寝耳に水な話・・・充分な時間が取れず・・・

予告状を出せなかった無礼をお許し頂きたい・・・とね」


帽子のつばに指を添えながらそう微笑むキッド様はやはりどこからどう見ても麗しかった。高校生なのに、本当に色気がすごい・・・そう思いながら釘付けになっていると。突然。




「お、おい?」
「何よこれ!?」


少し後ろの方で悲鳴が上がる。驚いてそちらを見ると、地面から網がせり上がってきていた。


「(あ、そういえば網で捕らえようとするんだった)」



完全にキッドに気を取られていて忘れていた。あっという間に網は高くまで上がり、恐らく高さ約20メートルはあるだろう位置で止まる。
四方向にピンと張られた網はまるで檻のようで、確かにこれでは出られっこないと常人が考えるのも無理はない。キッドのファンである群衆が、次々に自分に化けて逃げるようキッドに詰め寄る。

しかしこんな絶体絶命とも言えそうな中、キッドはまだ相変わらず飄々とした雰囲気を纏っていた。


「心配には及びませんよ皆さん・・・こうなる事は想定済み・・・」


彼は穏やかに語りかける。すると先ほどのレポーターが群衆に負けないよう声を張り上げた。


「じゃ、じゃあこの後どーするつもりで?!」



そんな彼女にも彼はまた穏やかに返す。



「そりゃーまあ・・・仕事が済んだので家に帰ろうかと・・・」



そう言った彼はパープルネイルを懐にしまい込む。どうやって!?と驚く面々に彼は笑った。


「テレポーテーションで・・・」






















そのあとも完全にマンガやアニメで見た展開の再現であった。煙幕と共に消えるキッド、それを取り逃がす中森警部、突然現れたカウントを刻むカード。
そして、煙幕と共にビルの屋上に姿を現すキッド様。

パープルネイルの片方が模造品だったことに気づいた彼は、明晩今度は本物を展示するよう告げた後いつものグライダーで飛んで行った。視界の端で謎の飛行物体が彼を攻撃したことに気づいた(まず間違いなくコナンくんのサッカーボールである)が、何もかものスケールが凄すぎてものすごいショーを見せられているなあとしみじみ思うことしかできなかった。

そのあと一向についてなぜかわたしまで次郎吉おじさんのお屋敷にお邪魔させていただいたが、もちろんわたしは何も話せないのでただただ皆さんの話し合いを見守るばかり。キッドのマントについた赤い手形から、彼が20秒足らずで30メートル上空に移動したという事実を確認してその日は解散となった。





























「は?」
「こんばんは」

「なんでいるの」


その後普通にみんなと解散して家に帰ると。
なんと工藤宅の正門の前に黒羽快斗くんが立っていた。

先ほどまで世紀のマジックショーを繰り広げていた張本人が、まるで当然みたいな顔で壁にもたれて立ちわたしに片手を上げて挨拶をしている。
意味がわからずわたしが口をポカンと開けると、黒羽くんはどこかキッドを彷彿させるようなニヒルな笑みをわたしに向けた。
いや。いやいやいやいや。

「な、なんでわたしの家知ってるの」
「菜々子さんだけ俺の秘密知ってるってフェアじゃねえだろ?」
「え、調べたの?こっわ ストーカーじゃん」
「人聞きが悪いって」


そう言って彼は笑う。いや、まじで、なんで?ていうかどうしたものか。沖矢さんが一緒に住んでいる家に入れるわけにもいかないし。


「どうしたの、なんか用?」
「いや別に特に何もないんだけどさ、飯でも食わねえ?」
「はああ??????」


あまりにも素っ頓狂なお誘いにわたしは意味がわからなさすぎて間抜けな声をあげる。なんだこいつ、いったいどうしたっていうんだ。なんであんな世間を賑わせた後わざわざわたしのところまで来てるんだ。なんで???


「菜々子さんもう食っちゃった?」
「いや、まだだけど。え、家には入れないよ」
「別に家行きたいなんて言わねえよ、ラーメンでも行こ」
「そ、それならいいけど・・・」


よくわからないままOKしてしまった後、あれ?うまく乗せられた?と頭を掻く。いや、それこそラーメンならあんた一人で行けばよくない???なんか家に入れないでいいならいいかみたいに軽いノリで受けちゃったんたけど。
まあでも実際べつに断る必要もないしお腹も空いているからご一緒しちゃえばいいのか?


「ヤリー!こっちにうまいラーメン屋知ってるんだ、連れてってやるよ」
「はあ・・・それはどうも・・・???」

首を傾げながらとりあえずわたしは黒羽くんに連れ立って歩く。


いやまじで、いったいコイツなんなんだ?????







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