僕がその盾になる




「そうだって言ったら、どうする?」


その言葉にわたしの心臓は早鐘を打つ。それは、肯定なのか。わたしはごくりと唾を飲んだ。・・・どうしてわたしなんだ。


「どうやったの?」
「・・・」


黒羽くんはじっとわたしの顔を見ている。なにかを見定めるような瞳を向けられて居心地が悪い。でも、正直それどころではなかった。



「どうやって、どうして?どうしてわたしなの?どうやってここに呼んだの?なにが望みなの」


彼はまだ何も言わない。わたしはどんどん焦れてきて彼に詰め寄る。ビッグジュエルのことを教えればいいのか?教えれば帰れるのか?そもそもわたしはほんとうに帰れるのか?
別に元の世界に帰って何がしたいというわけでもない。でも、わたしの家はあそこなのだ。わけがわからないままこの世界に来て、誰にもなにも言えないままなんて。

もしも探されていたら、心配をかけていたら・・・そう思うと胸が痛くてたまらない。帰らないといけない。わたしは。わたしは、



「ねえ、なにか言って!どうやったらわたしは・・・!」



元の世界に戻れるの、そう大声で聞こうとした瞬間。




「中村さん?」


第三者の声がしてそれは阻まれた。




聞こえるはずのない声にわたしは驚きそちらを見る。そこにいたのは。



「あ、・・・あむろ、さん」


日本国民全員女にする男、トリプルフェイスの安室透だった。


























「ど、どして・・・安室さんが、ここに」


わたしは驚きのあまり黒羽くんに詰め寄っていたのも忘れてぽかんと安室さんを見る。相変わらず顔のいい彼は穏やかに微笑んだ。


「たまたまこの付近を歩いていたら、中村さんの声が聞こえたような気がして。すみません、邪魔してしまいましたかね」


彼は心底申し訳なさそうに言う。え、いや、ええと・・・わたしはなんと返そうか迷った。っていうかわたしもしかしてというかもしかしなくても、相当大きい声を出していたのか。恥ずかしい。
どうしよう、と黒羽くんのほうをちらりと見ると彼は突然現れた人物である安室さんを見ていた。どうやら安室さんが只者ではないというのはなんとなく気づいたみたいで警戒しているようである。

あ、やばい。安室さんなら、黒羽くんが怪盗キッドだと見抜いてもおかしくない、かも。


わたしはそう気づき慌てるも、うまい言葉が出てこない。安室さんは黒羽くんと見つめ合っている。ど、どうしよう。しかも安室さん、顔は笑っているけど目がぜんぜん笑っていない。めっちゃ怖い。


「見たところ高校生のようだけど、そろそろ帰らないといけないんじゃないかな?おうちの人が心配するよ」
「・・・菜々子さん送ったら帰るんで」
「ああ、女性を一人にするわけにいかないと考えているのか。まだ子供なのに偉いね、でも安心していいよ。僕が送っていくから」


ね、菜々子さん。と笑顔で言われてわたしは死ぬほどびっくりする。な、なまえ呼ばれた。今まで名字でしか呼ばれてなかったのに。


「何か話があるのなら日中にするといい。女性をあまり遅くまで連れ回してはいけないよ」


安室さんはこれが大人の男です、と言いたげに黒羽くんに圧をかけ続けた。く、黒羽くん、ここは、ここは引いて、あんたこのままいくと正体ばれるぞ。そうは思うもわたしもわたしでいまのっぴきならない事情がある。わたしは元の世界に帰れるか帰らないかが黒羽くんにかかっていると言っても過言ではないのだ。一分一秒でも早く聞き出したい。でも安室さんがいるところで聞くわけにもいかない。

困ったわたしはうーんと少し唸った後、安室さんに笑顔を作った。



「だ、大丈夫ですよ安室さん!わたしと彼、家そんなに遠くないので、二人で帰ります。ご心配してくださってありがとうございました!」


にっこり。そんな効果音がつきそうな勢いでスマイルを向けてみる。
すると安室さんはじいっとわたしのほうを見つめた。


「ほう。喧嘩の続きでもされるんですか?」
「えっ?や、いやいや喧嘩だなんて」
「僕に聞かれるとまずいんですかね。第三者がいた方がスムーズに話し合いができることも往々にしてありますが」
「あ、あむろさん???」


引かない。このひと、引かない。

びっくりするくらい食い下がってくる安室さんにわたしは狼狽える。ど、どうして。どうしてそんなにもついてきたがるんだ・・・?!


わたしがあわあわしながらどうしたものかと考えたとき。
黒羽くんが大きくため息をついた。



「ハァー・・・いや、俺帰るから菜々子さんはその人に送ってもらって」
「えっ?!で、でも」
「さっきのはカマかけただけだから、気にしないで」
「え・・・?」


ボリボリ、黒羽くんが頭を掻きながら言う。



「菜々子さんがあんまりにも必死だったから気になっちゃってさ。別にでも肯定はしてなかっただろ?
あんたが探してるのは俺じゃないよ」
「・・・なっ、」


だ、騙された!

ワンテンポ遅れて気づいたわたしがものすごい顔(おそらく)で黒羽くんを睨むも彼はもう既にくるりと背を向けてしまっている。
こ、こ、高校生に引っ掛けられた・・・!!!!!(いやまあ高校生といっても黒羽快斗くんなんで仕方ないんだけど!!!)


「じゃ、またね〜菜々子さん。おやすみ」
「あっコラ、ちょっと!」


顔だけこちらを向いて手を振る黒羽くんを慌てて引き止めようとするも、わたしはわたしで隣に安室さんがいる。彼を振り払って黒羽くんを追いかけるのは、なんだかどう考えてもできないような気がした。



「じゃ、帰りましょうか菜々子さん。」
「は、はい・・・」


な、なんなんだ全く。わたしは困惑しながらも、どうすることもできないのでおとなしく安室さんの隣を歩くことにした。

ていうかほんと、なんでこうなった?????








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