どうやら夢ではなさそうだ
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気づいたら真白な空間にいた。
珍しい。
夢の中にも関わらずここまで意識がはっきりしているときは、だいたいいつも菜々子が出てくる。でも今日は自分一人だった。
たまに自分より後に菜々子が現れることもあるが、今日も徹夜気味だったためそういうわけでもないだろう。なんなんだ、と首を傾げた。
「(せっかくなら出てきてほしいんだけどな)」
夢の中は誰にも侵略されることのない、確立した平穏だ。
菜々子はどんな時もそこにいた。そこでただ、どこの誰でもない『降谷零』と言葉を交わしてくれていた。
どれほど救われているのだろう。
けして実在しない、自分の描いた夢幻に。
ふう、とため息をひとつ吐く。
疲弊もあり、その場に座った。
幼い頃、思っていた。誰にでも夢の中でしか会えない友達がいると。そして、いつかみんなその子に会えるんだと。
だが違った。
そんな夢を見ている子どもは自分以外どこにもいなかった。
そして夢が現実にはならないと受け止められるようになったのは随分後だった。
否、きっと。
まだ受け入れきっていないから、今でも自分は彼女の夢を見るんだろう。
『零』
いつ、どんな時も。
束の間の平穏をくれる彼女の夢を。
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目が覚めても病院のままで絶望した。
大事をとってもう一晩病院に泊まることになった私は、就寝時なんども頭の中で起きたら日常起きたら日常起きたら日常・・・と繰り返したけれど、あの満員電車には戻れなかったようだ。
これから工藤宅でお世話になってしまう。信じられない。信じたくない。
「とりあえず、退院する準備しないと・・・」
10時になったら沖矢さんが迎えに来てくれる。
今日は特に予定もないし、記憶喪失中の完全に土地勘がない私(しかも携帯もないからGoogleマップにもsiriにも頼れない)が一人で工藤宅に行くのは難しいだろうと心遣いをしてくださった。有難い。
売店で買った間に合わせの下着とジャージにすっぴんで外を歩くのは胸が痛いが、何もないから仕方ない。おうちに着いたらすぐに生活必需品をいろいろ買いに行かないと・・・。
昨日財布の中に入っていたカードから、ATMで貯金残高は確認済みである。たぶんあの神様的な人がやってくれたんだと思うけどけっこうなお金が入っていた。
とりあえずこれでしばらくは働かなくても生きていけそう、と一安心はしたけれど・・・本当にここで生きていかないといけないのかな。
私が働いていたことになっている会社の業務内容は私の本来のそれと近そうだったし、身分証もあるから別にこの世界で生きて行くことに対して不便はしなさそうだ。
しなさそうだけど・・・なんで私がこんなことに。
「(そういえば、違う世界から誰かに呼び出されたみたいな意味不明なことをあの神様っぽい人が言ってたな・・・)」
いったい、誰がこんな特になんの取り柄もない私なんかをわざわざ呼び出すっていうんだろう。
しかも、コナンの世界の人。
私なんて爆発とかに巻き込まれてすぐ死にそうなのに。
「沖矢さん」
病院の入り口で待ち合わせだったので、15分程前から座って待っていたら沖矢さんが来た。
うーん見れば見る程本物の沖矢昴である。美しい。
改めてチンケな格好の自分を恨んだ。
「すみません、わざわざ来てくださってありがとうございます」
「ちょうど空いていたので、お気になさらず。
具合はどうですか?昨日はよく眠れました?」
「あ、はい。おかげさまで」
原作通り飄々とした雰囲気の沖矢さんについて病院の外に出る。気持ちのいい快晴で、日光に少しくらりとした。
目を細める私に気を使ってくれたのか、沖矢さんが口を開く。
「・・・お互い災難でしたね」
「あはは。でも、コナンくんがいてよかった。ラッキーでしたね」
「確かに」
キョロキョロと風景を見回すと、やっぱりテレビや漫画で見慣れたもので。
でも、けしてリアルではなかったはずのそれに胸が痛くなる。ここで、生きるのか。ほんとうに、夢じゃないのか。
「これも何かの縁でしょう。何かできることがあれば言ってください。だいたい暇ですし」
「はは、頼もしいです・・・ありがとうございます」
うまく笑えているだろうか。
気弱になったってどうしようもないし、心配してほしいわけでもないのに胸につっかえたような漠然とした不安に飲み込まれそうになる。
まだ、知ってる世界に来れただけ、ラッキーだったのかな。
そう思っていると、沖矢さんがまた口を開いた。
「よかったら今日、買い物に行きませんか?自分も私物がほとんど焼けてしまって買いに行かないといけないので」
「あ!た、助かります・・・」
「では、車があるのでそれで行きましょうか」
「ありがとうございます」
よかった。服に化粧品に下着にスキンケアやボディケア用品に・・・と考えていたら、間違いなくすごい量になることは見えていたので車を出してもらえるのは非常に助かる。
っていうかもともとそのつもりだったから車で来てくれたんだろうな。ここたぶん工藤宅から徒歩で来れるくらいの距離感だし。
さすができる男は違うなあ・・・。
そして私は沖矢さんの車に乗り込んだ。
アアーーこれも見覚えあるーーーと、興奮と感動と悲しみの中私の心はぐわんぐわん揺れた。
この助手席、まじで私なんかが乗っていいシロモノじゃないでしょ・・・・・。
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