夢路の中で
「確か、ここのカフェのサンドイッチが非常に人気だったような気がするんですが・・・入る前に少し調べますね」
咄嗟に。
そう言いながら携帯を取り出し、無音カメラで菜々子に似ている人物の写真を数枚撮影した。
もちろんベルモットには見えないよう、自分の体でカメラを隠しながら、だ。
「なんでもいいわよ。ここにしましょう」
「そうですか?では停めますね」
徐々に小さくなっていく後ろ姿を目で追う。この服装からして・・・仕事ではない。
イヤホンをしながら飲み物を飲んで歩いているところから見ても、恐らく一人での外出と見ていいだろう。
待ち合わせて誰かと会う場合、特に女性はその相手とどこかカフェに行ったり飲み物を買ったりすることが多いからだ。
小さめの肩にかけられるタイプのカバン。荷物にならないように、ということとすれば、十中八九ショッピングだ。
この方向なら恐らく・・・。
「(デパートで間違いないな)」
後で風見に調べさせよう。
そう思いながら俺は駐車場へと進んだ。
「わー、これかわいい・・・」
どこの世界でもデパートの化粧品売り場はキラキラしたものでいっぱいだ。
私は宝石みたいに輝くリップグロスを見つめながら呟いた。
ようやく一人になれた気がする。
いや、部屋の中では別に1人なんだけど、同じ屋根の下に沖矢さんがいると思うと、なんだかおセンチにもなれなかったのだ。
そのテスターのリップグロスを開けて、手の甲につけてみる。
ピンク色のラメがチラチラと輝いた。
「そちら、今月入ったばかりの新作で、大人気なんですよ〜!」
かわいらしい販売員のお姉さんが言う。
ああ、これも、どこの世界でも一緒だ。
それともこれはやっぱり私の夢で、私はまだあの電車の中で眠りこけているのだろうか。私が作り出す夢だから、同じような世界に見えるのだろうか。
マンガやらアニメの過剰摂取で、こんな夢を見るようになっちゃったのかな・・・。
「よかったらお試ししてみます?」
「あ、イエ。もうちょっといろいろ見ます、ありがとうございます」
へらり、笑って私はその店を出た。
昔から何かあると1人で買い物をしたりぶらぶらさまよった。
そうすると気分転換になって持ち直せたし、妙案が浮かぶこともあった。
でも今回のコレはそういうので解決できるものでもなく。
そもそも、現実なのか夢なのかすら曖昧模糊でどうするべきかわからない。
「(夢だとしたら、まだ私はきっと電車の中)」
でも夢ではないんだと、さすがにわかり始めていた。
こんなにも脈打つ鼓動。化粧品のにおい、すれ違う人の話し声、さっき飲んだミックスジュースの味、持ったリップグロスの重み、温度、そして、人気も頷ける鮮やかな緋色。
私は、いま。
この世界を、リアルに生きてしまっている。
「(夢じゃないなら・・・)」
どうすれば元の世界に戻れるんだろう。
あの、神様っぽい人は。
『君を想いすぎて、違う世界にも関わらず君を呼び出してしまった人がいるんだ』
そう言った。
夢じゃないとして。
すべて現実だと仮定して。
私なんかを呼び出して何がある、とかも呑み込んで。
誰かが、ほんとうに、私を呼んだのだとしたら。
誰が。どうして。どうやって。
それを突き止めれば私は元の世界に戻れるのだろうか。
でもそもそも、どうやってそれを探るかだよなあ・・・。
呼び出すってことは私を知ってるってこと?別の世界の人間なのに?
もしかして私も、コナンの世界で何かの漫画になってたりするのかなあ・・・なんて・・・。
「(誰がこんな女の出てくる面白くなさそうなマンガ読むんだ・・・)」
考えてもさっぱりわからなかったから、私は引き続き買い物をした。
「けっこう買ったな・・・」
両手に荷物を抱え、ふうと息をついた。
服に、化粧品に。
ちなみになんとなく、さっきのリップグロスはお見送りした。また機会があれば買いましょう。
疲れたのでとりあえずどこかのカフェに入ろうと思う。ちょっと休もう。家まで帰る気力もない。
買い物中ずっと考えていたけど、私を呼び出した人物を探すために手っ取り早いのはやっぱり毛利小五郎に近づくことかな、と思う。
コナンくんが黒ずくめの組織を見つけるために毛利小五郎を利用しているように、彼はもうコナンくんのおかげで有名なので近くにいれば必然的に事件にもたくさん出くわすしいろんな人に会えるだろう。
その中で、私を呼び出した人物に出会えるかもしれない。
・・・いやまあどうやって毛利小五郎に近づくかだけどね。下手したらコナンくんにメチャメチャ怪しまれそうー・・・。
私はデパート内に見つけたカフェに入りながらため息をついた。
とりあえず、席を確保するためにも荷物を一旦置こう。
入店して少し探すと、ポツンと空いている席があったのでこれ幸いとそちらに向かい大量の荷物を置いた。か、買い過ぎた。これは帰りがしんどいぞ。
注文するためレジに向かう。
何を飲もう。そしてどうやって毛利小五郎に近づこう。
私バカだから探偵見習いさせてもらうわけにもいかないしなー。いや、でも漫画に描かれてる人たちなら全員知ってるわけだからめっちゃ賢い探偵ぶれるのでは?いやでも死体見たくないよーここ末期の犯罪都市だよー。
悶々と考えながら歩を進める。
事務とか営業とかで雇ってくれないかなー。雇ってくれないよなー。探偵事務所あれでなんの問題なく回ってそうだもんなー。いやでも事務ならワンチャンあるかな?
そう思ったときだった。
ドンッ!
「わっ、」
ベチャ。
長身の男性にぶつかり、同時に胸元に冷たい感覚。苦い匂い。
これはアイスコーヒーの匂いだ、と脳が判断すると同時にそれをこぼされてしまったと理解した。突然のことに衝撃を受けて固まってしまった私に、頭上から降ってきた声。
「す、すみません!大丈夫ですか?!」
いやぜんぜん大丈夫じゃないわ、服ビッショビショだわ。
そう思いながら上を見ると、そこにいたのは。
「えっ、」
「コーヒーがかかってしまいましたね・・・申し訳ありません、クリーニング代をお支払いいたします。あと、よければこのハンカチをお使いください」
そう言いながらハンカチを渡してきた男に、非常に見覚えがあり私はもう一度固まった。
声も出せないでいる私に、男は心配そうに眉を寄せる。
「あ、あの・・・大丈夫ですか?あ、申し遅れました・・・私、風見裕也と申します・・・」
風見、さん。
こ・・・これでよく公安が務まるな!!!!!!
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