空には今でもひとつだけ

気づいたら彼のお姉さんの年齢すら越えていた。

小学生のときに恋をしてからもう何年になるだろう。


自分の中でそれなりに折り合いをつけて、多くはないけれど普通に恋愛もこなしてきたつもりだ。

だけどいったいどうすれば、この想いは完全に昇華できるのだろうか。



第一話




「女の面倒を見ろ、だあー!?
こっちは修行があんだよ!つーか見てわかるだろこんな話してる余裕ねえって!!!」


針の上、一本の指、逆立ち。
集中しないとぶっすりざっくりいってしまうことが明白な中、呑気に会話を続けるぼたんに幽助は苛立ちきっていた(しかもほとんどの神経を指に集中させているため中途半端にしか怒鳴れない)。


「だいじょうぶさねー女って言ってももう大人だし!
それに話してみたけど素直で優しくてかわいいイイコよん」
「じゃあなんでオレに!!!」
「それがねえ、時空の管理人っていう全世界を管理してる閻魔大王様よりすごいひとがいるんだけどー…そのひとのミスでひとりの女の子が異世界から迷い込んじゃったのさ」


かわいそうに、誰も知り合いのいない世界に突然放り出されてひとりぼっちなのよ。ぼたんは眉をひそめて言った。


「…そいつぁー確かに気の毒に思うが、オレには関係ねぇだろ!?こちとら戸愚呂との戦いを間近に控えてんだよ!!コエンマが面倒見りゃあいいじゃねえか」
「コエンマ様も最初はそのつもりだったのよー、なんなら今でも粘ってるし。

でも時空の管理人がその子を人間界で生かせてやれってうるさいみたいでねえ」
「それでオレにってか」
「そうそう!まあ連れてきてるから、挨拶しなさいな」
「はあ!?」
「入ってー!やよいちゃーん!!!」


あまりの展開に幽助がキレる間もなく扉が音をたてる。

大きな木製の扉をおずおずと開け、ひょっこりと顔を覗かせた女はふわりと髪を揺らした。


目が合う。



「わ、あー…!!!!!

あなたが浦飯幽助くん!
はじめまして、わたし八生やよいです。

会えるのとっても楽しみにしてたの!すっごくすっごくすっごく嬉しい!!」



ぶす。



「んぎゃあああぁぁあ!?」
「えっだいじょうぶ!?」


うっかり集中を切らしてしまいきれいに指をえぐり刺さった針。

慌てて駆け寄るその女と、痛みに飛び退いた幽助と、何故か満足そうなぼたんと、怒号を飛ばす幻海と。


「(なんなんだッ……!!!)」



幽助は心の中で毒づくも、女は本当に心配そうに幽助に走り寄ってきてポケットから何かを取り出した。



「あの、ばんそうこう………いる?」


ばんそうこうて。


ものすごい音と痛みにその指先を見る気にもならない幽助は、ため息をついた。

















「幻海さん幽助くん、ごはんできました」
「うむ。少し休憩にするか」
「っ、ぷはー…!!!」
「おつかれさま」


そう言って女、やよいは水を持ってきてくれた。

なんかいいにおいがする。シャンプーだろうか。


やよいちゃん、こっちに来て人間と会うのはじめてだからだと思うけど、アンタと会えるの本当に楽しみにしてたのよ!優しくしてあげてね。

やよいが料理のために消えてすぐにぼたんが残した言葉を反芻する。


オレなんかに、会うのをねえ。

確かにあまりにも嬉しそうに名前を呼んでくるから、びっくりしてうっかりぶすっといっちまったんだが。ぶすっと。


「ほう、なかなかうまいじゃないか」
「ありがとうございます!」
「あんたにも護身術程度は教えるよう言われてるからね、食べたら少し取り組もうか」
「はーいっ!!」


女は何がそんなに楽しいのか、顔中を笑顔にして話している。

そういえばこんなににこにこしている幻海のばーさんを見るのもはじめてだ。まるで実の孫とばあちゃんのようである。


なんでこの女はこうふわんふわんとしているのだろう。わりと好みの顔ではあるが。

ぼーっとしながらとりあえず女が作ったらしい昼食に箸をつけた。


…なにこれうめえ。



あまりに好みの味に衝撃を受けながら黙って食べ続けると、女とまた目があう。


にっこり。




そんな擬音が似合う笑顔を向けられたのはいつぶりだったか。


おいしく食べてくれてありがとう、みたいに見えるのは自分の考えすぎなのか。…うーん。


優しくするも何も女はずっとばーさんとしゃべってるし、オレやることねーじゃんとか思いながらとりあえずまた食べ続ける。
どれを食ってもうまい。


「ごっそーさん」
「おいしかった?」
「おう」


どき。



たった一言、同意しただけなのに。

ここまで嬉しそうに笑われると、なんだか調子が狂っちまう。


「えへへ、よかった!」
「・・・」



やべ。

かわいいわ。