小さな頃から
現実の世界で好きになったひとなんてひとりもいなかった。
小学生のとき、画面の向こうの彼に泣いて、恋をして。
初恋は実らないまま終わることなく。
気づけばこんな年齢になってしまっていた。
この世界で誰かに愛を与えることなんてきっとできないから、せめて受け入れられるようになろう。
そんななげやりな思考で告白を受けてもいつもどこかぎこちなく、ゆるりと終わっていく関係に泣いたことなど一度もなかった。
その日も熱心にアプローチしてくれているひとに食事につれていってもらうことになっていた。
あまり気乗りしない中、電車が遅れたのも手伝って、そのひとに先に店に入ってもらっていた。
重いからだを動かして、約束は守らねばと15分遅れでその店の扉を開く。
突如飛び込んだ眩しい光に目をつぶり、なんて店なのと心の中で毒づいたのに。
気づいたらわたしは真白な世界にぽつんとひとり立ち尽くしていたのだった。
第二話
「ごっそーさん!
今日もうまかったぜ」
「ほんと?よかったぁ!」
ばーさんは飯のときは修行をちゃんと中断してくれる。
命を頂いてること、料理したひとへの恩をしっかり理解して食えってことらしい。
毎日三食共にしているとさすがにやよいにも慣れ、会話も増えてきた。
最初はただのかわいいイイコちゃんだと思ってたが、わりと面白いしどんな話にも食いついてくれる。
そんでもって飯はうまいし礼を言うとこれ以上ないってくらいしあわせそうに笑う。
自分的にはかなりの覚悟と意思を持って幻海のばーさんに指導を頼んだつもりだったが、やよいが来てから明らかに身の入りかたが違った。やる気が出る。
「そう言えばお前どうするつもりだ?」
「なにが?」
「オレがここ出たあとだよ。ばーさんとこにずっといんのか?
つっても5人目はばーさんに頼むつもりだしなあ」
やよいはオレよりずいぶん食べるのが遅いためいまだ行儀良く食事を続けている。
この屋敷にひとり置いていくのはなんだか気が引けるが、暗黒武術会につれて行くには危険すぎる。
親兄弟や友人たちと引き離され寂しいはずなのに、さらに孤独を強いるのはかわいそうだとも思うが。
「え、普通に浦飯チームのマネージャーになるか最悪補欠のつもりだったんだけど」
「はあ!?」
さらっと答えるやよいに思わず声をあげるが、やよいはなんでオレがこんなに焦っているかわからない様子で目をぱちくりさせている。
・・・天然か!!!!!
「ばっ…おめえどんだけ危ないと思ってるんだ!つれて行けるわけないだろ!?ましてや補欠なんて」
「幽助たちは死なないからだいじょうぶだよ。ちゃんと怪我の手当てもするし差し入れも作るよ?」
「だっ…から!!!そういう問題じゃなくて!
んっとにお前は危機感ねえなぁ!!!
めちゃくちゃ危ない試合なの!妖怪たちがぞろぞろいんの!敵もはんぱなくつえぇの!!つれて行けるわけないだろ!」
「だーいじょーうぶっ、わたし負けないもん」
「うそつけ!」
「ほんとだよ。これ見て?」
どこまでも毒気を抜かれる穏やかなトーンで話すやよいは、自分の左耳を指差した。
・・・ピアス?
「これね、もらったの。トリップしたときに時空の管理人さんに。
すっごい強い結界が張れるらしくて、わたし自身に力はないけどケガすることはないと思う」
「思うじゃだめなんだよ!寂しいかもしんねーけど、なんならオレの親に頼んで…」
「霊丸打ってみてよ」
「はあ?」
「霊丸。」
そう言うとやよいは味噌汁をずずっと飲み、ごちそうさまと手を合わせて立ち上がった。
え、どういうことだ。
「ま、まさか…お前にか……?」
「うん!」
「できるわけねえだろ!!」
「だいじょうぶだって」
「でも」
「いいから!打ってくれないと今日晩御飯作らないよ?」
やよいは腰に手をあてる。
案外、頑固だと思う。
「〜ッ…どうなっても知らねえからな」
こっくり頷いたやよいに眉を寄せ、6割くらいの力で指に霊力を集める。
…これでもわりと強いはずだが本当にだいじょうぶなのか。
気は進まないがやよいに指先を向ける。
今まででいちばん緊張しているかもしれない。
「…ッ、霊丸!!!!!」
それはやよいに向かって一直線で飛んでいった。