やるべきことをやるのです
「先鋒戦は六遊怪チームの勝利です!!!」
激戦の末、勝利を収めたのは六遊怪チーム・鈴駒だった。
「てめェコラァ!!!大会終わったら便所で待ってろ!!!」
「やなこった!」
動くヨーヨーに絡みつかれてしまい場外10カウントを取られて負けた桑原くんは、まだ自身が余力を残していることもあり非常に憤っている。
顔面血だらけなのにあんなに元気に叫べるの、本当にすごい・・・。わたしは思わず苦笑をこぼした。
「次はオレがやろう」
手当てしてあげないと、と桑原くんが戻ってくるのを待っているととなりにいた蔵馬がそう言ってリングへ向かう。
蔵馬の展開ももちろん知っており、彼が少しの間とはいえいたぶられることを思うと少々気が重かった。
「気をつけてね、蔵馬!」
「もちろんさ」
もともと、プロレスとかを見るのも苦手なタイプなのだ。まったくこれじゃマネージャーが務まらないぞとわたしは心の中で大きくため息をつくのであった。
第12話
「はい、桑原くんこっち向いて」
「ッ、イテテ・・・!こんなんかすり傷だぜやよいちゃん、消毒したほうがいてーよ」
「いいから」
わたしは桑原くんの真向かいに座り彼の頬の傷口に消毒液を染み込ませた脱脂綿を当てている。この至近距離、ほんとうに心臓がばくばくして死にそうだけれど、とにかくいまはマネージャー業に専念しないといけない。
先ほど飛影に言われたことばが頭から離れなかった。応援も100パーセント満足に純粋な気持ちでできないくせに、手当てまでできなかったらここにいる必要がない。
もともとこういった応急処置の知識はなかったけれど、玄海師範に教えてもらったことと自分で学んだことでなんとか対応できるようになった。ちなみにパックマンを使えばもっとしっかり治療をすることもできるが、それはいざというときまで置いておかないといけない。正直桑原くんがこんなにけがをしているという時点でわたしからしたら一大事なのだが、試合はまだまだ続くのだ。下手なことはできない。
できることをしてはいけないというのはけっこうストレスに感じられた。
次鋒である蔵馬vs呂屠戦はもう既に始まっている。いまは呂屠が蔵馬に攻撃を仕掛けるも、他愛もなく流されているところだ。
わたしは横目で蔵馬を見ながら桑原くんの傷の手当てをする。一応顔の手当ては終わった。
「よし、これで顔は終わったね。つぎ体見せて」
「い、いいよやよいちゃん!いまは蔵馬の試合もあるし」
「だめ、化膿したらどうするの」
「でもよォ・・・ん!?」
桑原くんと目が合うだけであんなにドキドキしていたのに、治療となるとわりと冷静に体を動かすことができている自分がいて安心する。
いやあでも上半身の治療はさすがになんか息止まっちゃいそうだな・・・そう思いながらも仕事仕事!と桑原くんをたしなめていたとき。
「蔵馬の動きが急に鈍った!?」
突然彼がリングを見てそう叫んだ。わたしもつられてそちらを見る。蔵馬の端整な顔から血が流れていた。一筋刻まれた頬の傷はそれすらも美しく見える。
「くらま・・・」
知ってはいた展開にわたしはゴクリと唾を飲む。蔵馬は臨戦態勢を解き、拳を下ろした。
そしてそこからは呂屠というブ男の独壇場が始まる。
「(あ、でもシマネキ草は無事に植えられてるな)」
殴られた直後、蔵馬が小石を彼に投げつけたのを見て少し安心する。そしてわたしは桑原くんの治療に戻ろうとした。
「お、オイやよいちゃん!オレなんかより、蔵馬を応援しねえと・・・アイツなんか様子が変だぞ!」
「大丈夫」
呂屠に言われたのであろう、後ろ手に腕を組み棒立ちになったまま冷たい瞳で敵を見据える蔵馬を見てわたしは言う。
「蔵馬はあんなヤツに絶対負けないよ。さ、腕貸して」
驚くほどに穏やかな気持ちでそう言えた。たぶんこれは、原作で知っているからという以上に彼の殺気が物凄く呂屠が睨まれただけで気圧されていたからだろう。
蔵馬は強い。
ここに来てあらためて、肌で感じる。
「土下座してオレのクツをなめな!!!」
カマイタチの刃で頬に傷をつけられても一切怯むことなく睨め付ける蔵馬に呂屠は叫んだ。
彼は蔵馬の態度に機嫌を損ねただのなんだのと言っているが、単純に怖くなっただけだろう、蔵馬に怯えきって冷や汗をかいてしまっている。なんとか自分の優位を取り戻そうとしているのが見え見えで哀れだった。
桑原くんの治療を終えたわたしはこの戦いのいく末を見守る。行く末も何も、もうとっくに終わってしまっているのだけれど。
間抜けに片足を差し出した呂屠に、蔵馬は酷く冷たく言った。
「断る」
「・・・なに?」
「もういい、押せよ」
ポンポンと蔵馬は自分の服についた砂埃を払いながら冷淡に続ける。その言葉に奇声を上げる呂屠は、本当にボタンを押すぞと無駄な脅しをしたりお前もやはりオレ達と同じ妖怪だなどと罵ったりしている。(そもそも本当に蔵馬が冷たい妖怪だったらこいつはどうするつもりだったんだろうか)
それでも顔色を変えない蔵馬に呂屠は焦ったのだろう。惨めな発言の数々の末にボタンに指をかけ、そして。
「う!?」
ようやく自身の異変に気づいたようだった。
シマネキ草に支配された彼の指が動くはずがない。蔵馬はスタスタと彼に近づき、ぱしっとそのスイッチを取り上げた。
「キミが外道でよかった、オレも遠慮なく残酷になれる」
「まっ待ってくれ、オレが悪かったァ!
許してくれ、ヒィイイイイィィイ!!!」
間抜けな声を上げる呂屠に蔵馬は冷たく言い放つ。
「死ね」
途端、叫び声を上げる呂屠の体を数々の芽が突き破った。その芽は勢いよく成長し、そして花を咲かせる。
芽が出た瞬間はあまりにも不気味で一瞬喉を詰まらせそうになったわたしも、大輪の花が咲いた頃にはもうそれに見入ってしまっていた。
「皮肉だね、悪党の方がきれいな花がさく・・・」
そして出た蔵馬の名ゼリフとも言えるあのことば。
あらためて綺麗な人だなと思うと同時に、彼のことは絶対に怒らせてはいけないなと思うのだった。
「お疲れさま、蔵馬」
「ああ、ありがとう」
リングから降りてきた蔵馬に声をかけると蔵馬はいつもの笑顔を見せてくれた。
「安心しろ、使い魔はご主人様が死んだと同時に逃げ去った」
「気づいていたのか・・・」
「バカな野郎だ、あれは殺してくれといってるも同じ作戦だ」
邪眼で見ていたのであろう飛影に母親の無事を知らされ蔵馬の表情が緩む。呂屠を殺してもなお心配だったのだろう。よかった、と純粋に思った。
「さあ、蔵馬も手当するからこっちにきて」
「え?いいよ、こんなのたいした怪我じゃないし」
「だめ、せっかく綺麗な顔してるのに傷がついてちゃもったいないでしょ」
そう言いながらわたしが救急セットを持って近づくと、蔵馬は少し驚いたように目をパチクリさせた。
「驚いた。美的センスは普通なんですね」
「えっどういうこと?」
「いえ、こっちの話です」
よくわからないけれど蔵馬はわたしが治療しやすいように座り込んでくれたのでわたしもとなりに座って頬の傷を消毒する。
「イテテ、放っといてもすぐ治りますし手当てしたほうが沁みますよ」
「あ、桑原くんと同じこと言ってる」
修行つけてあげているうちに似てきたのかな、そうわたしが笑うと蔵馬はなんとも微妙な顔をした後黙って手当されるがままになった。
そしてわたしは改めて蔵馬のまつげの長さに驚くのであった。