こんなにちかくに
こんなにも胸は高鳴るんだ。
こんなにも音を立てることができるんだ。
知らなかった。
きっと、あなたに出会わなければ知ることはなかったんだと思う。
わたしはいま、初めて。
はじめて生きている。
第五話
「やよい、」
幽助に肩を揺すられわたしはハッとした。
まだ心臓の音がうるさい。
なんども読んだセリフ。
なんども聞いた声。
声はアニメで聞いたものとは少し違って、でもよく似ていて、わたしが想像していた声にそのままいっしょだった。涙が出そうだった。
「ごめん、なんでもないの。行こう?」
「でも、」
「このままじゃ出場できなくなっちゃう」
笑えているだろうか。
これからわたしはあの人に会うのに、泣いたりしてはいけない。
ただでさえ昨日は、一睡もできなかったというのに。
ゆるく幽助に笑いかけると、困ったような顔をした彼は頷いた。
「・・・なんかあったら言えよ」
心配をかけてしまった。
ごめんね、と思いながらありがとう、と笑顔を返した。
わたしは嘘が得意だ。
ずっと嘘をついて生きてきた。
ずっと諦めて生きていた。
なのに。だから。
「よーワリィワリィ」
幽助が声を出す。
少し向こうにいる彼を見つけて思わず流れそうになる涙をこらえるのは、はじめて対面する自分の本心に蓋をするような行為だと思った。
「待たせたな・・・」
その声に振り向く彼は。
幽助を見て、そして。
わたしを、見てくれた。
「てめーおせーぞ浦め・・・
ん?誰だそのかわいいネーちゃんは」
知っていたはずの言葉が、わたしの姿を認めて変わる。
彼にわたしが見えている。
彼と同じ世界にいる。
彼と、いま、生きている。
彼が、ここで、生きてる。
「ああ、えっと・・・」
「浦飯チームのマネージャーになりました、八生やよいと申します。
不束者ですが、できる限り懸命にサポートさせていただきますのでどうぞよろしくお願いします」
涙を堪えて出た笑顔は不恰好だっただろうか。
たとえそうだったとしても。
いまわたしは、ここで。
はじめて生を受けました。
少し見ない間に、えらく雰囲気が変わったな。
幽助を見て蔵馬はまずそう思った。
どこか優しくなったし落ち着いたような気がする。
隣にいる八生やよいと名乗る女性が原因だろうか、と少し考えた。
「マネージャーだァ?高校野球じゃあるめェし・・・それにこんなベッピンさん連れて行ったら危ねーじゃねェか」
桑原がいつもの調子で幽助と話す。
ベッピンさん、と言われた確かに可愛らしい女はその言葉にいたく反応して頬を染めた。
かわいい。
素直にそう思った。
「アー、まあコイツ強くはないけど弱くもないっつーか、戦力にはならねェけど邪魔にもならねェしそのへんは大丈夫だ」
「どういうことだよ」
「そのまんまだよ。ま、それより遅れて悪かったな。なにせ体中ガタガタでよォ」
「おいおいフラフラじゃねーか大丈夫かよ」
そんな話を幽助と桑原がしている最中、その女はずっと桑原の方を見つめている。
どこか熱の上がったような視線は妖艶さすらあり。
・・・まさか。
一つの結論に蔵馬がたどり着くより早く、飛影が幽助を呼び止め斬りかかった。それを避け続ける幽助の力の試し合いに気を取られ、蔵馬は先ほどまでの思考を放棄した。
一行は船へと向かう。
首縊島を目指して。