生まれたての赤子のように


「これからこの船の上で、予選会を行いやす」



首縊島に向かう船の中、毛がもじゃもじゃの船長さんが言った。



第六話





途端、船体からせり上がってくる闘技場。
漫画やアニメで何度も見たけれど本物はなかなかに迫力があった。
数多いる妖怪達がどよめく中、わたしも例に漏れず驚嘆の声を出す。

いや本来ならこのリングにびっくりする前に、初めて見たものすごい数の妖怪に驚くべきなんだろうけど・・・思いの外怖くなかったなあ、とおもう。


「(幽助の修行を間近で見たり、自分も稽古つけてもらってるうちになんか感覚が麻痺したんだろうな)」


師範も幽助もそれこそマンガみたいに強いしもう驚き飽きた。そんなことを思いながらちらりと幽助を見ると、いつの間にか座り込んで眠ってしまっている。なんてのんきなやつだ。そしてまったくかわいい顔をしている。



「チームの中で最強と思われる人物を選んでくだせェ。あの上で戦い、残った1名のチームに決勝トーナメント出場の権利を与えやす」
「バトルロイヤルかァ!?
集中的に狙われたらどんなに強くてもイチコロじゃねーか!
よーし浦飯まかせた、特訓の成果を見せてやれ!」

こうやって見てるとただの中坊なんだけどなー、とか思っている間に船長さんがアナウンスを進め、桑原くんが幽助を呼んだ。


・・・初めて会った本物の桑原くんは、背が高くてスタイルが良くて目が優しくてとてもかっこよかった。

まだ夢みたいにおもう。
彼と同じ世界に生を受けられるなんて、信じられない。



ずっとずっと会いたかった。
一目見るだけでいいと思ってた。


でもわたしはどこまでも欲深くて。
その視界に少しでも入れたことが嬉しくてたまらなくて。



もっと、もっと。
もっとと。




「くかー・・・」
「あ、ごめんね桑原くん、なんか幽助疲れて寝ちゃったみたいで・・・」
「なにィ?!」


わたしが説明すると彼は一瞬だけこっちを見てくれて、目が合った。
それがほんとうに天にも昇りそうなくらい嬉しかった。



「おいなに寝てやがるんだテメーは!大将がそんなのん気でどーする!
起きろ、出番だってーの!!!」

ぶんぶんと幽助を振る桑原くん。
ああ、もうこうなったら起きないし諦めたほうが・・・と言おうと思ったけれど、一生懸命幽助を起こす桑原くんがあまりにもかっこよくてなにも言えなかった。


幽助ずるい、代わってほしい。

そんな邪なことを考えていると、蔵馬が冷静な声で分析を始める。


「・・・よほどすさまじい特訓をしたんだろう。体力と霊力を回復するためひどく深い眠りに入っている」
「その通りです、こうなったらしばらくはてこでも起きません・・・」


何度ご飯が冷めてしまったことか、とわたしは修行の日々を思い出してため息をついた。

いつもほんとうにびっくりするくらい起きなくて、よく内緒で頬をつついたりつねったりさせてもらっていたのでその流れでまたつついてみる。
幽助のほっぺは本当に、いつもとてもやわらかくてスベスベだ。若いってずるい。

彼はお肌の曲がり角へと突き進んでいく女が自分を羨んでいることなど露知らず小さくいびきをかいている。



「なにィー!?じゃ一体だれが行くんだ!?」


そんな幽助を見て桑原くんがそう訴えた時、師範が黙って闘技場へと向かった。
知っている展開ではあるし、まあもしこの先の展開を知らなかったとしても師範が負けるはずはない。安心だなあと思いながら、とりあえずわたしは幽助が風邪をひかないようにカバンに入れていたストールをそっとかけてやった。































造作もなく幻海師範は一斉に襲ってきた妖怪達全員に圧勝した。
ショットガン(と言っていいものかは謎だけど)であれだけ多くの妖怪を海まで吹っ飛ばした師範は相変わらずかっこいい。

わたしは眠る幽助のとなりでさすがだなあ、と呟いた。
どうしてもどこか他人事である。


「暗黒武術会決勝トーナメント16チーム目はァァ、ウラメシチームに決定!!」


船長さんがそう叫んだのでわたしは小さく拍手をした。パチパチ。
そうすると遠くの方にいた妖怪達に睨まれた。

ウーン、なんとも場違い感が半端ないな・・・。



「こうなりゃルールなんか関係ねェぜ!」
「とにかくこいつらをぶっ殺したってことだけでも名があがるんだ」



そして数々の妖怪が逆上してウラメシチームを襲ってきた。
わたしと幽助は端っこのほうにいるんだけど、他のメンバーは比較的前の方に出ていたから彼らが先に対峙することになる。

飛影の周りにいる敵がほぼノーモーションで切り刻まれたり、蔵馬が風華演舞陣を使うのを見ていると一ファンとしてなかなか興奮する。
かっこいいー、とまるでよくできた実写映画を観るかのように見入ってしまった。


そのとき。




「そのまんま夢見ながら死になァ」
「寝込みを襲えるなんてオレ達ラッキィィ」
「うまそうなかわいこちゃんもいるぜ」
「おいしく食べてあげるからねェ」


なんかきた。

わたしは眉を寄せる。



向こうの方で桑原くんが叫んでいるのが聞こえたけれど、間に合わないだろう。
まあこのあたりでみんなに技を見せておいて、大丈夫だと安心してもらったほうがいいかとわたしはピアスを触った。



「幽助の眠りは誰にも妨げさせません、やめてください」
「やめるかよォ!」
「では」



パックマン!!!






心の中でそう叫ぶと(口に出すのは恥ずかしい)、妖怪達が驚きで顔を歪めるのがわかった。



「な、なんだこいッ・・・」



こいつ、と言い終える前に。



わたしのかわいいパックマンちゃんは口をぱっかりと開けてその妖怪二人組を食べた。


ちなみにわたしと幽助はパックマンの内部にいる。これは結界の役割も果たすので幽助も起きずに安心して眠っているようだった。



もっきゅ、もっきゅ、もっきゅ。


わたしの目線より少し上にあるお口が動く。

そのあとパックマンはペッ、とその妖怪を吐き出した。



「な、なんだ・・・」
「ぐへェ・・・」


彼らは妖気を吸われたようでヘトヘトのしなしなになって倒れていた。
まあそのうち回復するからしばらく大人しくしていてくださいな、と心の中で呟く。




「な、なんだアレ・・・」
「なるほど、幽助の言っていた意味がわかったな」
「やり方によっては戦力にもなるんじゃないか?」


向こうのほうで桑原くん、蔵馬、飛影の呟きが聞こえた。


これで安心してもらえそう、とわたしは少し笑った。